山口_座談会用-3-1

ACTIVITY | 山口 - IoTとFabと福祉 -

「IoTとFabと福祉」をテーマに、日本各地ではどのような実践が行われているのでしょうか。2019年7月26日~27日に開催した座談会で話題にあがった内容をもとに各地の活動を紹介します。

山口エリアでは「福祉と技術の関係づくり」を大きなテーマに活動してきました。福祉の現場と、技術(今回の場合は大学)の関係というのがもともとなかったこともあり、その関係性の模索からスタートしました。

初年度(2017年度)は、まず技術体験や簡単なブレーンストーミングのようなワークショップを通して福祉側と技術側が互いにコラボレーションできる要素をマッチングするような勉強会を開催しました。勉強会の実施は、山口情報芸術センター [YCAM]に協力いただき、県内のいくつかの福祉施設と大学が集まりました。

小さな勉強会を経て、山口県・周南市にある「社会福祉法人大和福祉会 周南あけぼの園」と山口県・山口市にある「山口大学 国際総合科学部」(講師 冨本浩一郎)が協働することになり、具体的には福祉と技術の信頼と関係づくりをテーマに様々な可能性の模索を始めました。

福祉と技術の信頼と関係づくり

初年度は、「技術」の目的を確認するための課題共有としてのデザインプロジェクトと、新しい技術に触れて可能性を体感する機材講習の活動を福祉施設で行いました。

上記のデザインプロジェクトとして、山口大学で開講している授業(冨本講師が担当)『インクルーシブデザイン』を通して福祉施設と大学の協働を行いました。授業ではインクルーシブデザインについて学んだり、ファブラボ山口の協力のもと 3DプリンターやレーザーカッターやMESHなどの使い方の習得、また福祉現場でのフィールドワークしの中で、当事者とコミュニケーションをとりながら、福祉施設の課題について学生と福祉現場の人たちで共同リサーチから解決のアイデア化までを行いました。

大学3年生向けの講義なので、学生は毎年変わりますが、継続的に授業を通した関係づくりは続けていきます。

福祉と教育の現場の関係づくり

初年度(2017年度)はデザインプロジェクト形式の授業を通した活動を行いましたが、成果となる提案はいずれもアイデアレベルで「こんなのあったらいいよね」で終わっていました。

これに対して、課題の解決方法をアイデアで終わらせず、具現化するにはエンジニアリング要素が必要であると考え、2年目は技術教育の場として徳山工業高等専門学校も参加メンバーに加わり、福祉と教育の現場の関係づくりをテーマに、技術/デザイン教育と福祉の現場との関係から新たな可能性を模索しました。

例えば、実施したワークショップでは、文字や数字が苦手な方の職域を広げるためにMESHを使って「量り」の行為そのものを変えるツールや、重たいものを運ぶことが多いので身体的負荷を減らすために3Dプリンタで出力した部品をダンボールに取りつけて紐を通すことで持ち運びやすくするなど、現場をリサーチしながらプロトタイプを製作するなど、デザイン教育、技術教育、福祉の現場の三者がうまくコラボレーションすることができました。

一方で福祉施設では、初年度の機材講習後に自主的に機材を有効活用しており、レーザーカッターでオリジナルのタグを作ったり、3Dプリンタでスタンプなどを出力しています。

立体のアート作品の保存と展開についても進めています。周南あけぼの園にいるメンバーが一つひとつ手づくりする人気の小さな恐竜があります。小麦粘土でつくられているため、これまで作品としての販売や製造には適していなかったのですが、3Dスキャナを使い、恐竜の形状を3Dデータにすることで、複製作品として保存できて、データの色やかたち、大きさ、素材などを変えることもできるので、表現や製品化の幅も広がると考えています。

このときは、小麦粘土の恐竜が手のひらにのるような小さい造形物だったので、所有している3Dスキャナでは読み取ることが難しいという課題がありました。そこで山口県産業技術センターの協力を得て、CTスキャナを使用して恐竜の3Dモデルをつくりました。

福祉/技術人材育成と仕事の仕組みづくり

大学の授業として2年間やってみて、特にワークショップや授業に参加した学生が、今まで気づいていなかった福祉的な視点を身につけていたり、「せっかく技術や現場を見ることができたので、技術の翻訳者みたいなかたちで、技術を教えたりサポートしたりする仕事ができたいいと思います」といった学生が出てきたことは印象的でした。

周南あけぼの園としてもいろいろと可能性は思いうかぶものの、やりとりをする中でのちょっとしたサポートや、「これどうしたらいいんだろう」といった疑問を相談できる相手が必要なときがあったりします。そこで、技術習得の教育的な観点で大学と周南あけぼの園に同じ3Dプリンタを置いて遠隔で学生がサポートできるような環境を整えました。

しかしながら、環境を整えて、学生も技術を学びながらサポートするといったことをやりかけたのですが、学生のスケジュールの都合などの理由でうまくはいきませんでした。

このようなことを背景に、福祉施設のニーズに応えながら、学生が実践的な活動の中で技術を身につけられる、それ自体が仕事になるような仕組みの検討を始めています。これは、地域のものづくりのリソースであり、ものづくりの駆け込み寺であるファブラボ山口を主体につくれないかと構想しています。

今年から、周南あけぼの園に加えて、光あけぼの園が参画します。大学と福祉施設と授業やワークショップを通したコラボレーションは引き続き行いながら、現場の技術的なサポートや企業からの小ロット生産などに関しては学生がファブラボ山口を通して仕事として受ける。そんなイメージをしています。

技術的な相談をまずファブラボ山口が受け、学生が実際にOJTとして技術を学びながら有償で仕事を受ける。ファブラボ山口は地域の相談をうける役割を担うことにもなります。

将来的に、学生もこれを生業として生活できるくらいの仕事になったらいいなと思っていて、ファブラボ山口1社でその学生を雇うのではなく、1人の人材を複数の企業や福祉施設・団体がお金を出しあって共有するような仕事ができたらいいと考えています。

たとえば、1社あたり、ひと月あたりの勤務日数に応じた金額として、1社3~10万円負担すれば、単純計算すると12万~40万円の仕事になるのではないか。福祉施設との関係で学生が技術習得しながら仕事をするような仕組みを考えています。

いま「共有人材」という言葉を職種的な名称として考えていますが、これは雇う側の視点の名前なのでしっくりきていません。何かいい名前ないかなとアイデア募集中です。専門性はあるけれど、まだ技術習得中で、さらに親しみもあるような、福祉/技術人材の名前を募集中です。

いかにして福祉/技術、それを職業にしていく人を育てていくかが大事だと思います。一方で、外に人材がいると、その人がいる間はそれが成立するけど、その人がいなくなった途端に成立しなくなると、福祉側も「今までやってきたことは何だったんだよ」ということになる。だからといって、福祉/技術人材を福祉施設のなかで内部化・内製化していくのは難しいのが現状です。

学生が、福祉/技術人材という職種を認識して、継続的に関わり、さらには仕事にしてもらっていくために、大学と福祉現場の関係は授業を通して継続してやっていきたいと思っています。学生は毎年入れ替わるけれども、前の年に授業を受けた学生が次の年につながっていく、といった循環と広がりがつくれるとよいと感じています。さらには、入れ替わることを前提とした知識・技術の継承を考えてノウハウを整理することで、継続的な仕組みになると思います。

福祉施設でものづくりや地域活動をしているところは多いですが、新しい商品や地域や社会的に波及効果のあるイベントをやっていきたいと思っていても、内部のスタッフだけでは手詰まり感があるのが現状かもしれません。

そこで、高校生や大学生もふくめた人たちが常に関われるような環境にしたいと思っています。それに関しては、ファブラボ山口で育てる福祉/技術人材が常に仕事として現場に関わっていくという仕組みであったり、大学の授業のなかでのコラボレーションであったり、いろんな形で関わることを意識すればできるのではないかと思いました。

「技術」と「福祉」がもっと関わりあえるような場も必要だと感じています。「技術」の人から見れば福祉はハードルが高く、「福祉」の人から見ればテクノロジーはハードルが高い。

たとえば、ファブラボ山口に光あけぼの園の出張エリアができたり、逆に光あけぼの園の中にファブラボ山口の出張エリア・ブースをつくることから始めてみてもいいかもしれません。

ものづくりに興味がある人はファブラボ山口に来ると思いますので、そこで光あけぼの園のブースで福祉を知るきっかけをつくります。一方で、福祉に興味がある人は光あけぼの園に訪れるので、施設の中にファブラボ山口の出張ブースがあったら見学にきた人や職員が技術に触れる、といったイメージです。

福祉施設に来て新たな発見を得るとか、ファブラボに来て新たな発見を得るとか、そういうことで少しずつ場として交わるような仕組みがあるといいかなと考えています。

【参考URL】
■周南あけぼの園
 http://www.syuunanakebono.jp/

■光あけぼの園
 http://hikariakebono.jp/

■ファブラボ山口
 https://fablabyamaguchi.com/

■徳山工業高等専門学校
 https://www.tokuyama.ac.jp/

■山口大学国際総合科学部
 http://gss.yamaguchi-u.ac.jp/

■IoTとFabと福祉 - 山口 -
 https://iot-fab-fukushi.goodjobcenter.com/area/yamaguchi


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