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ACTIVITY | 福岡 - IoTとFabと福祉 -

「IoTとFabと福祉」をテーマに、日本各地ではどのような実践が行われているのでしょうか。2019年7月26日~27日に開催した座談会で話題にあがった内容をもとに各地の活動を紹介します。

NPO法人まる 工房まる」は福岡県・福岡市にある福祉事業所です。1997年4月から始まり、絵画やものづくりを通して、いろいろな人・モノ・コトのつながりをひろげています。

作品をつくることだけが目的ではなく、作品を通してどういうことをやっていけるかを念頭におきながら活動しています。

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メンバーのイラストを活かした商品開発から販売

IoTとFabと福祉の活動は3年目になります。今年度の方針として、日々制作しているイラストを活かして、主にレーザーカッターを利用してつくれるものをできるだけ形にしていきたいと考えています。

レーザーカッターは面白い道具なのですが、まだまだ事業所内でも意識的な壁があるので、例えばコピーするときにコピー機を使うような感覚で、とまではいかないまでも、モノづくりにおいては日常的に活用する身近な機材になればと思っています。制作する過程を共有したり、「こういうことができるんだ」と感じられるような、いろんな機会もつくることにしています。

過程を通じてFabに対する壁を下げていくため、今年は九州大学大学院芸術工学研究院(教授・平井康之)から学生インターンが2名も参画し、九州大学の構内にある工房のテクニカルスタッフの人にも協力していただいています。

まず最初に、学生とmaruメンバーやスタッフとの交流をかねて、工房まるでアイデア出しのワークショップを行いました。最初のテーマは「レーザーカッターってナニ?これを使って何ができる?」というざっくばらんなもの。

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3つのグループに分かれて商品企画の前段階のアイデア大会のようなことをしました。グループに分かれて好き勝手に意見を出しあってもらうと、かなりの数のアイデアが出てきました。実際に作れそうなものも多く、グループで1つずつは形にしてみる予定です。学生の立場からすると、ただ単に「つくる」をサポートするだけではなく、それ以外のところをどう関わっていけるか考えているところです。

つくっている過程から、発信していって、発信するモチベーションの1つとして、テスト販売もしたいと考えています。「いろいろ試作するシリーズ企画」として、SNS等での継続的な発信とテスト販売を行う。そのようにして小さくても何らかのかたちで継続していけるようにしたいです。

製作・加工受注サービスの事業化

昨年のテーマとして製作・加工受注サービスも挙げていましたが、受注体制の課題があり仕組みづくりまでにはいきませんでした。今年は、サービス(製作・加工)内容、料金、受注から納品までのフローを整理して「受注サービス始めました」というところまでは進めたいと考えています。

ノベルティの製作であったり、クライアントのつくりたいものを受けられるように、1個~小ロットの加工に特化して、ターゲットをしぼってアプローチすることなど考えています。そのときに、試作とテスト販売しているものをサンプルとして活用したいと思います。

福祉施設でのFabの活用方法を多く発信することで、他の施設に対しても1つの事例として「こういう使い方もできるんだ」とか「これだったらうちもやってみたいな」と思われるようにできないかなと考えています。

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上の写真で黒いものは、あるメンバーがやぶった紙なんですけど、「破る」という、その人のできるところから商品づくりを行なっています。糸のこでの切り出しでは、なかなか数が作れないのですが、レーザーカッターを使うことで、切り出す手間が減り、製作数も増やすことが可能となります。形の再現性や精度の高さといった機械の強みが、手しごとにあるユニークな部分をより活かすことができればと考えています。

メンバーの手しごとを活かす

工房まるのなかには、体調的なこともあって、ものづくりが難しい人もいます。写真はある人が今使っている道具ですが、彼が手にするものがもっと格好良かったり、彼のモチベーションが上がるようなものであれば、この方のモノづくりや関わりは、今と違った捉え方になる気がします。3Dプリンターを使うことでオーダーメイドな道具や治具をつくることは、その人への寄り添い方の一つでもあり、本人をはじめ、関わる人たちのモチベーションを上げることにも繋がると考えています。

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他にも、"ボーダーをひくため" の道具が必要となり、取っ手の部分を3Dプリンターでつくってみました。オリジナルの道具を手にして作業するのは、わりとテンションが上がるし、製作している姿もそれっぽくてカッコよく見えるので、外部の人たちにも「なんか面白そうなことやってるな」と、興味を持ってもらうきっかけになるところも、いいなと思っています。これで作ったTシャツ、絶賛発売中です。

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販路開拓・展開方法・発信の課題

つくりたいものはいっぱいあるし、つくれる道具があるなかで、その価値や価格を上げていくことにトライしたいなと思っているけど、そもそもの販売力や展開の弱さがあるのでそこも課題だと感じています。どれだけいいものができて「これくらいの値段がいいな」と考えていても、出せる土壌をつくれていないので、それをこのプロジェクトを機に、販売について相談できるところと出会えたらなと思っています。

座談会に参加していた人からは、商品を発信するSNSも、年齢層にもよるので、高齢層の人は「インスタグラム?」となるが、実はメールやLINEだと孫の写真を送ってもらったりとかで使い慣れているという話や、キャンペーンの方法として「いいね!」してくれたりメール会員になってくれた人に5%オフして、見学者にはさらに5%オフするなどの意見もありました。

ほかにも、Instagramなど写真1枚で見せるアイコニック/フォトジェニックな表現よりは、そこをフックにしてホームページだったり事業全体のストーリーを見せるところにつないでいったほうがいいかもしれません。IoTとFabと福祉をせっかくいろいろな地域でやっているので、E-コマースを全体で共有して展開していくこともありえるのではないか、という意見もいただきました。

販売だけでなく、事例を発信することも意識しています。Fabの機器を何の手段として使っていくのかが大切で、メンバーをやっぱり中心に置いて、メンバーがいるから発想できたものをつくりたい、という想いがあります。「あ、この人、こういう役割ができるんだ」というそのアイデア自体を発信できるような商品づくりが、工房まるの強みになればと考えています。

大学の部活やサークルとの連携

3Dモデリングやデジタル工作機を使用しているFab系のサークルや、起業部など、九州大学の中にある部活やサークルと組むという展開方法もあるのではないかと考えています。

「起業部とどんな協働ができそうか?」を考えたとき、既存の働き方や企業の枠にはめるのではなくて、新しい仕事を生みだす必要がある時代だからこそ、彼らの発想が必要だと感じています。

九州大学の起業部「nanoFreaks」は、漁師の死亡事故を減らすために海難事故防止IoTデバイスを開発していて、IoTをテーマにビジネスプラン・事業家を募集した「北九州でIoT」プロジェクトにて最終選考を突破され、今後の商品化を目指されています。

起業部と連携するとしたら 彼らの才能や能力で収益モデルをつくるとしたら何ができるかというプレゼン大会を座談会みたいな形でやってみてもいいかもしれません。

IoTとFabと福祉のプロジェクトを通して地域と地域がつながるので、別の地域との連携もあります。長崎・佐世保には、毎日1万5千人がとおる生活道路アーケードがあって、実地検証するには向いた土地なので、その中で商売をテスト的にさせてもらうことも考えられます。

福祉&起業部の人たちが考えたビジネスモデルを検証するイベントを開催したり、福祉施設発でそういうコンテストを催して検証するのもよさそうだと思いました。「障害のある人の仕事をつくり出そう」という文脈ではなく、一人ひとりの能力をもとにアイデアを出すこともできます。

たとえば、文字を熱烈に愛している人がいて、字は書けるけど、そのあと仕事につなげられないときに、たとえば、その佐世保のアーケードで、履歴書の代筆1枚1,000円でしますといったら、何となく1日でそこそこは稼げそうな気がしたりもします。

ラフなアイデアかもしれませんが、いまは新しい働き方を見い出せる時代になっていて、社会もそれを許容しはじめています。経済的な成果も考慮してIoTやFabを取りいれて、もう少し多様な起業のしかたを学生の柔軟なアイデアと一緒にやれたらいいなと思います。

【参考URL】
■NPO法人まる 工房まる
 https://maruworks.org/

■九州大学大学院芸術工学研究院(教授・平井康之
 http://www.design.kyushu-u.ac.jp/

■IoTとFabと福祉 - 福岡 -
 https://iot-fab-fukushi.goodjobcenter.com/area/fukuoka


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