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2021年度グッドデザイン賞 審査の視点セミナー [プロダクト部門] レポート

4/26に開催した、審査の視点セミナー [プロダクト部門] では、グッドデザイン賞への応募を検討中の方に向けて、審査委員長をはじめ、今年度審査委員を務める4名に、プロダクト部門の応募作に求めるポイントや期待する点について語っていただきました。

【2021年度グッドデザイン賞 審査の視点セミナー [プロダクト部門] 】
日 時 
2021年4月26日(月)14:00〜15:30
パネリスト 
安次富 隆さん (2021年度グッドデザイン賞審査委員長)
佐々木 千穂さん(ユニット03:文具・ホビー ユニットリーダー)
田子 學さん(ユニット09:家具・オフィス/公共・機器設備 審査委員)
ファシリテーター
内田 まほろさん(ユニット10:モビリティ 審査委員)

なお、当日の録画はYouTubeでも公開していますので、全編をご覧になりたい方は以下のリンクからどうぞ。

昨年度の審査を振り返る

内田:昨年度はコロナ禍での審査ということで、今までとは同じやり方では進められなかったり、評価のポイントを見直したということもあったかと思うのですが、それぞれ感じたことを教えてください。

田子:私はオフィス家具・公共機器設備のユニットを担当したのですが、近年動きが鈍いと言われていた大手や老舗企業が、いよいよ動き出したな、と感じました。

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田子 學さん(ユニット09:家具・オフィス/公共・機器設備 審査委員)

田子:これは何が要因かというと、一つは、SDGsのような目標が掲げられ、それに対してどう動いていくかを求められるようになったということが挙げられます。もう一つは、働き方改革の文脈の中で、単に生産効率を上げるといった人間工学的なアプローチだけではなくて、空間自体を豊かにすることで人間を解放させるようなプロダクトが増えていました。

佐々木:私が去年担当した子ども・文具ユニットでは、まだこういうところに提案の余地があるのだという驚きを感じるものが見られました。成熟しきったと言われている分野でも、まだまだいくらでも先に進むことのできる可能性を持っているのだと思いました。

内田:私はモビリティユニットを担当しました。この分野には、自動車や船や鉄道など、非常に規模感のある産業が集まっていて、SDGsに代表されるような社会変革の流れを大きく受けていることを感じました。また、コロナ禍において審査を進めていく中で、改めて「移動」は人類にとって快感であるということを再確認できたと思っています。

安次富:私からはプロダクト分野における全般的な変化についてお話しできればと思います。

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安次富 隆さん (2021年度グッドデザイン賞審査委員長)

安次富:かつては「このプロダクトをこのように使いやすくしました」というような応募内容が多かったのですが、最近はそのプロダクトの周りにあるしくみやサービスとの関係性まできちんと考えられている提案が増えてきたように感じます。
その代表的なものが2019年度のグッドデザイン大賞を受賞した結核迅速診断キットであり、2020年度大賞のWOTA BOXです。


安次富:これらは、フォーカスしている目的や目標自体もすばらしく、なおかつそのプロダクト自体もすばらしいというデザインでした。
つまりプロダクトは、「全体」の中の「部分」というふうに考えていただければよくて、目的や目標に基づいた「全体」の設計があって、その中にアウトプットとしてプロダクトという「部分」があるということだと思います。

内田:みなさんの担当ユニットの昨年度受賞作で、いま安次富さんがおっしゃったような「部分と全体」がともに高い水準を兼ね備えていると感じられるようなプロダクトはありましたか?


田子:
昨年度ベスト100に選出されたワンチェアがあります。

田子:これまでシェル型のチェアは、スタッキングの効率性などからオフィスチェアとしてはなかなか成り立っていなかったのですが、このチェアは、すごく時間をかけて丁寧に構造的な解決を図って、簡単に立ち上げてスタッキングもできるようなしくみにしています。
佇まいとしても、すごく職場の環境を良くしてくれて、例えば言いにくいことも言えるようになる雰囲気を持っている気がして、時代の閉塞感に対してよくこのプロダクトを作ってくれたなと感じるデザインでした。


佐々木:
私がいま手元に持っているのは、昨年度ベスト100に選ばれたボールペンです。

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佐々木 千穂さん(ユニット03:文具・ホビー ユニットリーダー)

佐々木:発色がすごく鮮やかで、明らかにきれいに書けますし、持っているときの手触りもよくて、すごく自分の身近な道具になる感じがあります。これは、どうすれば買う人が選びたくなるのかということを真面目に考えて作られたのだと、審査委員一同で感動を覚えました。


内田:
モビリティの分野では、グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]を受賞したシースピカという船があります。

内田:この船は大きな島だけでなく小さな島にも停泊できるサイズにしたことで、瀬戸内全体の人の動きや観光客の流れも含め、一つのモビリティで地域のあり方自体を変えうるということを示したプロジェクトでした。

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内田 まほろさん(ユニット10:モビリティ 審査委員)

今年度の応募に期待すること

田子:私は昨年度と同じユニットの審査を担当するのですが、今年度の変更点としては、オフィス家具の分野に生活家具も追加されて一緒に審査することになりました。
いまそもそも働く場所がオフィスであるという前提自体がなくなってきていて、例えばオフィスチェアというとスペックに特化したプロダクトというイメージがあったと思うのですが、これがBtoCの製品と入り混じった時に、もしくは家に合うオフィスチェアということを考えた時に、今後どのようなデザインが出てくるかということをすごく楽しみにしています。

佐々木:2019年度に担当したユニットで審査し、受賞したものの中に、tetteという消毒器具がありました。当時は必要なところで使われる優れたデザイン、という認識だったのですが、今では多くの場所に設置されるようになっています。これを考えると、コロナ禍に直接的に対応して作ったプロダクトももちろん出てくると思うのですが、それだけでなく、既存のプロダクトについても、時代に合わせた新たな解釈や使用方法を提示する応募が増えてくるのを期待しています。


内田:
モビリティの分野では、人間が乗り物という箱に合わせるのではなく、一人一人の身体状態に合わせて、赤ちゃんからお年寄り、障害を持っている人に至るまで、さまざまな人にとって快適な移動を提供できるか、という視点の提案が出てきて欲しいと思っています。


受賞できる/できないを分ける評価のポイントとは

内田:事前にいただいた質問の中で多かったのが、受賞できるものとできないものの違いを教えてくださいという内容でした。

安次富:グッドデザイン賞では、いいねと言えるかどうか、応援できる対象かどうかという観点で、より共感を集められることが重要です。
実際いまは応募されるものに対して、ここがだめだという審査はほとんどしていなくて、むしろより多くの人がいいねと言ったものの評価が上がっていきます。審査委員の間ではこれは「いいね」と言い切れるものなのかどうかという議論をしています。

内田:その「いいね」はどのような視点に基づいているのか、もう一歩踏みこんで教えてもらえますか。

安次富:最終的なアウトプットが元々の目的と目標を達成するためのものになっているか、ということだと思います。それらをセットで見たときに、共感できるかどうかをみんなで判断するということです。

応募書類は審査委員との対話の入り口

内田:同じく、応募書類の書き方やコツについても多くの質問が寄せられています。

安次富:まず言いたいのは、私たち審査委員は応募書類を相当真剣に読み込んでいるということです。そして、書類を記入する際に一番心掛けてほしいことは具体的に記述することです。
例えばプロダクトの場合よくある「スタイリッシュなデザイン」というような抽象的な書き方ではなく、どこをどういうふうに造形したとか、こういう意図でこの部分をこの色にしたなどの具体的なアプローチを書いてもらえることを望んでいます。

田子:今応募している事業が世の中に出たときにどういうインパクトがあって、それはどのような次の未来が作れるのかというところまで語ってもらいたいです。
デザインは対話から始まるものだと思っていて、みなさんが応募してくれたデザインは、おそらく会社の中でさまざまな人たちの対話の結果が形になったもので、グッドデザイン賞の審査における応募書類は、私たちとの対話の入り口でもあります。みなさんの事業の誇れる部分を端折らずに丁寧に書いていただいて、よい対話をはじめさせてもらえればと思っています。

佐々木:最近、デザイン思考を使いましたとかデザインスプリントを行いましたという記述が増えているのですが、それをやったことが大事なのではなくて、その結果何が生まれたか、何を導き出したのかを書いてもらえると、書類として訴求点がはっきりすると思います。私たちもすごく責任を持って真面目に審査に取り組んでいますので、ぜひみなさんも正しく理解でき、評価できるような情報をご提出いただけたらと思っています。

内田:とても専門的なもののデザインに関しては、使っているシーンを想像しづらいので、審査委員にも共有できるように丁寧に記述してもらいたいです。ぜひ、詳しい情報と熱い想いを合わせてご提示いただけたらありがたいです。

安次富:グッドデザイン賞は、みんなでよりよい社会を作っていくための議論の場にしていきたいと思っています。応募者の方々の書類の中に込められたメッセージをもとにして、審査委員が議論をし、そこから生まれるグッドの総体を年々積み重ねることによって、社会を大きく変えていくことができるはずですので、ぜひみなさまのご参加をお待ちしています。

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*ご興味を持っていただけた方は、以下のサイトより2021年度グッドデザイン賞の応募詳細をご覧ください。