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『デザインのまなざし』のこぼれ話 vol.11

マガジンハウスが運営している、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」で、グッドデザイン賞の連載『デザインのまなざし』の最新エピソードが公開されました。

『デザインのまなざし』とは
「福祉」と「デザイン」の交わるところにある、人を中心に考えるまなざし。その中に、これからの社会を豊かにするヒントがあるのではと考え、福祉に関わるプロダクトやプロジェクトと、それを生み出したり実践されたりしている方々を訪ねる連載です。
https://co-coco.jp/series/design/

第11回に登場していただいたのは、2019年度グッドデザイン金賞を受賞した「かがやきロッジ」を運営する理事長の市橋亮一さんと総合プロデューサーの平田節子さんです。

「かがやきロッジ」は、岐阜県岐南町にある「医療法人かがやき」の社屋。ここは訪問診療の拠点でありながら、スタッフだけが使うオフィスエリアは、全体の4分の1しかありません。その他のスペースには、リビング、オープンキッチン、宿泊室、研修室、掘りごたつの座敷など、さまざまな機能が備わっていて、子ども食堂や勉強会、合宿、地域の人が主催する料理教室など、多種多様な催しが実施されています。

建物とそこでの取り組みを合わせて、新しい健康づくりの拠点として評価され、2019年度のグッドデザイン金賞を受賞しました。

このnoteでは、本編には文字数の関係で載せきれなかった市橋さんと平田さんの出会いについて、そして平田さんのお仕事である「未来担当」のプロデューサーとはどういうものなのか、こぼれ話としてお伝えします。

撮影:宇都宮美沙/ 写真提供:マガジンハウス〈こここ〉編集部


ーそもそもお二人はどういうきっかけでお知り合いになったんですか?
 
市橋:名古屋で定期的に開催されていた、同年代の“変な人たち”が集まる飲み会で出会いました。
 
平田:そうそう。私は本当に「変な人が集まる会」って呼んでた(笑)。ある年の忘年会で久しぶりに会ったので、市橋さん最近来てないよね。何しているの?と聞いたら、「岐阜で在宅医療を手がけてて、1人で24時間365日診療をしているから参加できないんだよね」って言われて。

市橋:僕1人じゃ手が回らなくなっていたから、医師を採用するために、ホームページを作りたかったんです。そこで、広告制作会社を経営していた平田さんに相談しました。

平田:話を聞いてみたら、一人でこんなすごいことをやっているの?って驚いて。その後、2012年に厚生労働省の仕事を市橋さんが受託したのを機に、一緒に働くことになりました。

医療法人かがやきの理事長で医師の市橋亮一さん(左)と、総合プロデューサーの平田節子さん(右)

市橋:僕としては、 これまでにないものをゼロイチで作りたいと思っているから、平田さんには「未来担当プロデューサー」を任命したんです。

ー未来を担当する、という肩書はとても興味深いです。

市橋:僕たち医療者は“現在”に携わっているじゃないですか。「お腹が痛い」って言われたらすぐに出向いて、痛みをなくすのが仕事です。それから医療事務のスタッフは、行われた医療で得たお金を精算するわけで、いわば“過去”についての業務を担当しています。

じゃあ“未来”は誰が担当するのかといえば経営者の役割なんですが、それを僕だけで考えるのは難しいので、一緒に考えてくれる人として、仕事をお願いしました。
 
平田:経営者といっても市橋さんは一日中患者さんを診ている人なので、朝出かけて行って、夕方帰ってくるまでずっとオフィスにはいないですからね。
 
ープロデューサーとしては、具体的にどういうお仕事をされてきたんですか?
 
平田:職員として加わる前から、「かがやき」の手がけていることはすごく面白いと思っていたので、それを物語としてちゃんと外からも見えるようにしようとしてきました。例えばスタッフの話を聞いて動画を作るとか。

そこから、採用が忙しそうだったら手伝いましょうかとか、お金のことも税理士さんに任せっぱなしだったから経理も見ましょうか、みたいに、運営に関わることは何でもやる感じになっていきました。

市橋:みんながさまざまな活動を始めて、変化にもどんどん対応していけるようになったのは、平田さんを始めプロデューサー4名のアイデアによるところが大きいです。

例えば子ども食堂で250食分のカレーを提供していたんですが、コロナ禍以降は予約制にして、LINEで提供のお知らせをするようにしたんです。そうしたら情報を集めるのが得意な人ばかりが先に予約してしまって、すぐに完売するようになりました。本当に困っている人だけを助けたい気持ちはあるんですが、わかりやすくターゲットを絞ると「経済的に困窮している人だけが集まる」という見え方になって、来てほしい人たちがかえって来づらくなってしまいます。だから、誰にでもオープンな状況を保ちながら、困っている人たちにもアプローチできる方法を考えなければいけない。

そこで平田さんとスタッフたちが考えたのが、特別に通常募集の3日前から予約できる枠を設ける「ワクワク枠」という制度を導入することでした。この仕組みを使える人は、ひとり親で子育てをしている家庭と兄弟が4人以上いる家庭の子ども、そしてその月に誕生日がある子どもです。「ワクワク枠」にも無用なレッテル貼りをされないように、家庭の事情に関係なく、誕生月の子も入れておくようにする。このように現場で日々発生する課題に対して、どういう仕組みが一番シンプルで有効かを常に考えてくれています。
 
平田:みんなが慣れてくると、プロデューサー以外からもそういうアイデアが出てくるようになるんですよ。しかも、ちょっとぐらい当初の想定から外れていても、よっぽど問題にならない限り、「このままどうなるか見てみよう」という感じで受け止めてみるようになります。考えてもいないような面白いことが起こるかもしれないじゃないですか。今はたぶんいろんな活動を進めていくときに、 みんなそういう気持ちでいると思います。
 
市橋:「希望する在宅生活を安心して送れるように支援します」という理念だけみんなで共有する一方で、細かな部分は寛容さと多様性を大事にするということですよね。その方法で輝けるの?幸せなの?そうだったら誰も止めないよって思っているんです。

学生時代、交換留学先のアメリカの大学にあったカフェが出会いの場所になっているのを見て、いつかはこんな場所が作りたいと考えた市橋さん。それから数十年経ち、立ち上がった「かがやきロッジ」は、地域の新たな拠点として機能しています。
しかし、市橋さんと平田さんのお話を伺っていると、地域に開かれた“居場所”であること自体が目的なのではないといいます。そうだとすると、お二人が描いている「かがやきロッジ」の目指すあり方とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
詳しくは、「こここ」の連載『デザインのまなざし』本編を、ぜひご覧ください。