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グッドデザイン賞受賞者に話を聞いてみた #1 富士フイルム株式会社 大野博利さん 前編

はじめまして!グッドデザイン賞事務局広報の塚田です。

今回から、グッドデザイン賞受賞者に会いに行き、賞について、受賞作について、デザインについて、そしてご自身について、いろいろなお話をざっくばらんに聞いてみる企画「グッドデザイン賞受賞者に話を聞いてみた」をスタートします!

新企画開始!その理由は?

この連載では、知っているようで知られていないグッドデザイン賞のあれこれについて、受賞者のリアルな体験談を語ってもらい、いいところも、そしていまいちなところも含めて明らかにしてしまおうと考えました。

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さらには、デザインに携わっている人が、ふだんどんな仕事をして、どのようなことを考えて受賞作を生み出したのか、聞いてみたいと思っています。

初回はグッドデザイン大賞デザイナーが登場!

まずは今年度を象徴する、もっとも優れたデザインに贈られるグッドデザイン大賞を受賞した結核迅速診断キットのデザイナー大野さんにお話を聞こうと思い、西麻布にある富士フイルムデザインセンターのC L A Yスタジオを訪ねてみました。

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ーこんにちは!今日はよろしくお願いします。

大野:よろしくお願いします!

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富士フイルム株式会社 大野博利さん

富士フイルム株式会社デザインセンター所属。医療分野のプロダクトデザイナーとして、X線診断装置「CALNEO SMART」、小腸内視鏡「ダブルバルーン内視鏡システム」、感染症診断装置「富士ドライケム IMMUNO AG2」など、さまざまな医療現場で用いられる機器の開発に携わっている。 趣味は故郷の秋祭り。

大野:ちなみに、これはそもそもどういう企画なんでしょうか?(笑)

ー 会社を代表した意見ではなくて、受賞者の方個人の想いを聞いてみたいという単純な興味から始めたんですけど、ぜひこれを機会に、デザインについて、仕事として携わっている方以外にも関心を持ってもらえたらなと思っています。

大野:わかりました。なんでも聞いてください!

 「結核迅速診断キット」について

まずは、2019年度のグッドデザイン大賞に選ばれた結核迅速診断キットについて教えていただけますか?

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大野:医療環境の整っていない開発途上国で、結核を素早く簡便に診断するためのキットです。

日本ではあまり聞かないですが、結核は世界三大感染症の一つで、年間約150万人が亡くなるという大きな社会課題です。結核は治療薬があるので、正しい診断を受けられれば命を失わずにすむ病気ですが、WHOによると、簡便な検査方法が無いために年間300万人もの人が検査や治療から取り残されているといわれています。

この問題を解決するために、スイスの非営利組織FIND(Foundation for Innovative New Diagnostics)と、ビル&メリンダ・ゲイツ財団や日本政府等が設立したグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)と連携してこの迅速診断キットを開発しました。

ちなみに、よく聞かれるのですが、開発途上国向けの製品なので、日本での発売予定はありません。

―具体的にはどういうものなのですか?

大野:カートリッジに検体の尿を滴下するだけで結核かどうかを判定できます。

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今までは、専用の検査装置が必要だったり、検体が採取しにくい痰(たん)だったりして、検査を受けられる人が限られていたのですが、写真フィルムの開発で培った銀増幅技術を用いることで、目印を100倍以上に巨大化させて、尿の中に排出されるわずかな結核菌特有の成分を検出することができました。

しかも、電源や専用装置を用いずに、このカートリッジだけで判定できるようにしているんです。

最小限のカートリッジで機能を成立させるために「写ルンです」の設計、製造で培ったノウハウが活きています。

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これまでの事業で使われていた技術が様々な形で生きているんですね。デザインについてこだわった部分はどんなところですか?

大野:「写ルンです」がお手本なんですが、誰でもまちがえずに使えるようにしたくて、カートリッジの操作部位と手順を示すグラフィックを一体にしたデザインが特徴です。かなり大胆に1、2、3と印字していますが、わかりやすさはもちろん、安価なキットだけど信頼できるツールであることを感じてもらえるといいなあと思ってデザインしています。

それから、外観全体が機能を担っている部品でもあるんですが、機能を満たした上で、指先で触れるときのために、細かいところまで稜線のRをつけるなど丁寧に形状を作っています。ちょっとした形状の調整も、量産時と同じ条件下での試作を何度も重ねてできあがったものです。

いろんな医療機器のデザインをしてきましたが、ここまで機能に徹した、無駄のないデザインというのも初めてで、潔さというか、なんともいえない清々しさが、個人的なお気に入りポイントです(笑)

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今年度のグッドデザイン賞、実際どうでした?


グッドデザイン賞は今年度の例でいうと、4,772件の応募に対して、1,420件が受賞しています。富士フイルムさんでは、応募するしないはどうやって決めているんですか?

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グッドデザイン賞は、一次の書類審査を通過した対象が、二次の実物を見る現品審査へ進み、二次を通過すると受賞となります。

大野:デザイナー側から候補を出して、社内で検討して決めています。

今回の結核迅速診断キットもそうなんですか?

大野:そうですね。社会課題の解決につながるものなので、背景も含めて審査してくれるグッドデザイン賞に向いているんじゃないかという話になりました。
医療機器などの業務用製品って、ふだん限られたユーザーからしか反応が返ってこない製品なので、幅広い専門家の視点で客観的に評価してもらえることがモチベーションになっています。

ちなみに一次審査の応募書類はどなたが書いたんですか?

大野:自分で書きました!・・大変でした(笑)グッドデザイン賞で求められるものを作ると、他の賞に書類を出すのは簡単なほどです。

もっと記入しやすくできるように心がけます・・。審査はどうでしたか?

大野:二次審査の対話型審査は緊張しますね。インターンの学生さんが見てるのが特に(苦笑)

2019年度の二次審査では、任意参加で、直接審査委員の質問に答える場面を設けていました。また、審査会を学びの場と捉え、デザインを学ぶ学生(大学生・専門学校生対象)に体験を提供する「学生インターンシップ・プログラム」を毎年実施しています。
https://www.g-mark.org/glab/internship/

受賞が決まってベスト100に選ばれた対象のデザイナーだけが参加するプレゼンテーションや、その後の大賞を選出するファイナリストのプレゼンテーションはどうでしたか?

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グッドデザイン賞大賞選出会の様子はこちらから(*プレゼン途中に機材不良で動画映像が途切れるトラブルがありました)

大野:関係者みんなの思いが詰まった製品なので、それはそれは大きなプレッシャーで、大変ですよ(笑)大賞選出会の前日も六本木のカラオケ店に籠もって一人で練習してました・・・。

ただ、ファイナリストのみなさんが本当に素敵な方々ばかりで、リハーサルの時から和やかな雰囲気でしたし、本番は意外とリラックスした気持ちで臨めました。

グッドデザイン賞とは、紅白歌合戦である

大野さんにとって、グッドデザイン賞はどういう存在ですか?

大野:紅白歌合戦みたいな位置づけですね(笑)受賞したことを、身近な人が喜びまで含めて共感してくれるのはすごいありがたいなと思っています。

自分の母親とかおばあちゃんにグラミー賞をとったぞって言ってもたぶん伝わらないですが、紅白歌合戦に出たというと喜んでくれると思うんですよね。実際、大賞を受賞したあと、お祝い会だらけで大変でした(笑)

真面目にいうと、ものづくりに携わるデザイナーとして、ものづくりとしての正しさ、適正さみたいなものを評価してくれる賞は他にはないですし、時間をかけて真剣に審査してくれているのが素敵なことだと思います。

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長くなってしまったので、前編は終わりです。続きの後編では、大野さんがどうして医療機器のデザイナーを志したのか、そして将来の夢について、などなど、パーソナルな部分をお伺いしていきます。

後編へ続く