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グッドデザイン賞受賞者に話を聞いてみた #1 富士フイルム株式会社 大野博利さん 後編

こんにちは!グッドデザイン賞事務局広報の塚田です。

前編では、今年度グッドデザイン大賞を受賞した結核迅速診断キットのデザイナーである富士フイルム株式会社の大野さんに、受賞作の紹介と、賞に参加した感想を中心に伺いました。

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今回の後編では、学生時代に医療機器デザインの道へ進むことになったきっかけからお話を進めていきます。

ものづくりに悩んだ青年が“グッドデザイナー”と呼ばれるようになるまで

グッドデザイン大賞を取ったことが認められて、冗談半分ですが、社内では“グッドデザイナー”と呼ばれているそうです。

ー そもそもどういうきっかけで、デザイナーを志したんですか?

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富士フイルム株式会社 大野博利さん

富士フイルム株式会社デザインセンター所属。医療分野のプロダクトデザイナーとして、X線診断装置「CALNEO SMART」、小腸内視鏡「ダブルバルーン内視鏡システム」、感染症診断装置「富士ドライケム IMMUNO AG2」など、さまざまな医療現場で用いられる機器の開発に携わっている。 趣味は故郷の秋祭り。

大野:工業デザインという仕事があるって知ったのが19歳の時なんですよ。工業高等専門学校に行っていて、いつかはものづくりに携わるんだろうな、と漠然と思っていました。

でも、ちょうどエコとかスローライフなどの言葉が出はじめたり、モノから精神的豊かさへっていう、「ものづくりの功罪」が問われるような時代になっていて、このままものづくりの道に進んでいいのかな、と悩んじゃって。

そんな時に、たまたまCasa BRUTUSの柳宗理特集を見て、“大量生産されるモノの最初の一個を生み出す責任がある”という考え方に触れて、「僕のやりたかったのはこういうことだ!」と衝撃を受けて、工業デザインをやりたい!と思うようになりました。

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ー 柳宗理さんがきっかけだったんですね。

大野:そうなんです。特に、柳さんの仕事で赤いバルブのハンドルがあるんですけど、人知れず役に立っているものも、ちゃんとデザインされているんだっていうことに気づかされました。

触覚的な使いやすさとか、視覚的なわかりやすさとか、そういうものもデザインだと考えると、世の中にデザインしなければいけないものって、もっと他にもいっぱいあるんじゃないかなと、その時すごい思えたんです。

そこから、最先端のテクノロジーを生かして人の役に立つことができて、今後まだまだ必要とされるもの、ということで医療という分野にたどり着きました。

課題には常に、体当たりでぶつかる

ー それで医療系の大学に。

大野:はい。医療福祉大学でデザインを学びました。

学生の頃取り組んでいたことで、今の仕事につながるものでいうと、例えば、開発途上国のための提案で、お母さんの乳首と一緒に赤ちゃんの口に含ませるレトルトパウチの授乳キットを作ったりもしました。

アフリカの開発途上国では、粉ミルクを不衛生な水で溶いて乳児に飲ませることで、感染症の原因になってしまっているという問題があります。

母乳が出る出ないにかかわらず、乳首を吸う行為自体が母子ともに必要だと聞いて、安全な栄養と母乳で育てるカルチャーの普及をデザインで両立できないかと考えたんです。

ー 確かに結核迅速診断キットと通じるものがありますね。

大野:実は、上司がこの課題のことを覚えてくれていて、結核迅速診断キットの企画が持ち上がった時に、これは大野しかいないだろうということで指名してくれたそうです。

ーまさに今の仕事につながっている 。

大野:それにこの時も、近くの産婦人科におしかけて、当直の先生にアドバイスをもらったりしたんですけど、体当たりでやっている方法って今も変わらないんです。

最近でも、新製品のよいアイデアを思いついて、いてもたってもいられずに、有名なドクターが海外出張に行く乗り継ぎのわずかな空き時間に、タクシーに同乗させてもらってヒアリングしたこともあります。

ー 富士フイルムを志望したのはどういう動機なんですか?

大野:医療機器の中でも診断機器のラインナップが幅広いことが魅力的でしたし、カメラを作ってきた人たちのマインドに憧れていたというのもありました。あと、東京のど真ん中にあるのもポイントでした(笑)

入社して以来ずっと医療関係のものづくりをされているんですか?

大野:そうですね。そもそも医療機器やりたいです!って言って入ってきた新卒が初めてだったそうです。

複雑なことを学んだ上で、シンプルに立ち返ること

ー いろいろな医療機器のデザインをするなかで、それぞれ要件などが全く違うのに、一から勉強しているんですよね? それってかなり大変なことに思えるのですが。

大野:ただまあ、結局学生時代からやっていることと変わらないんですよ。

現場に行ってみる、話を聞く、提案するということを粘り強く繰り返し取り組むことなんですよね。学生時代にデザインってこういうものだよ、と教わってきたことを丁寧にやることが基本だと感じています。

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ーいまデザインに取り組むにあたって大切にしていることはなんですか?

医療機器って、その機能要件を満たすだけですごく複雑になってしまいがちなんですよね。気持ちよく使ってもらえるデザインを成り立たせるためには、その複雑さを感じさせなくする、象徴的な一つのアイコンを見つけ出さないといけません。

複雑な要件を学んだ上で、いったん全部なしにして、一番シンプルな状態ってなんなんだというところに立ち返ることを大切にしています。

当たり前と思われているものの、新しい原型を作りたい

ー今後取り組んでみたい仕事は何ですか?

大野:内視鏡とかマンモグラフィとか、ある意味形が決まってしまっているものに、新しい世代の原型となるものを作れたらいいなあと思っています。

必要な機能が多くて物理的な制約が大きかったり、検査の精度を担保するために苦痛を伴ってしまうものに対して、自分が取り組んだらどうなるか、何ができるのかチャレンジしたいと思っています。

苦労するのは目に見えているんですが・・・。

ーぜひその製品を携えて、またグッドデザイン賞に応募してください!

大野:がんばります(笑)

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ありがとうございました!

グッドデザイン賞のギャラリースペースGOOD DESIGN Marunouchiでは、グッドデザイン大賞受賞作をクローズアップする「グッドデザイン大賞展」を行っています。今回は、富士フイルムの大賞1点・金賞4点を含む32点の受賞デザインとともに、それらを生み出したデザインセンターの拠点「CLAY」の雰囲気を体感できる展示空間として、「2019年度グッドデザイン大賞展 クレイ32カフェ」を6月に開催する予定*です。(*開催時期については検討中のため、変更になる可能性があります。)

次回インタビューはこの方

最後に、次回のインタビュー相手として、大野さんの気になるグッドデザイン賞受賞者を紹介していただきました。

今年度のグッドデザイン・ベスト100に選ばれた「箱根本箱」に携わっている、日本出版販売株式会社の染谷拓郎さんを紹介します。
https://www.g-mark.org/award/describe/49672
時々本のイベントに遊びに行かせてもらってます。
自分らしさを活かした働き方とそこから生まれる新しいサービスに刺激を受けてます。半分趣味みたいな軽やかな感じで仕事をやっているように見えるので、センスの磨き方と、そのルーツを聞いてみたいです。

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