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住宅建築の枠を越えた提案性〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット14(戸建て〜小規模集合住宅)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット14(住宅建築[戸建て〜小規模集合住宅])の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit14 - 住宅建築(戸建て〜小規模集合住宅)]
担当審査委員(敬称略):
手塚 由比(ユニット14リーダー|建築家 | 手塚建築研究所 代表)
小見 康夫(建築構法学研究者|東京都市大学 建築都市デザイン工学部 建築学科 教授)
千葉 学(建築家|東京大学大学院 教授)
山﨑 健太郎(建築家|株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ 代表取締役)

平屋戸建住宅 [陽の家]

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特にコロナ禍の発生以降、人々の住まい方に対する考え方がさらに変化しています。都市部でなく郊外に戸建て住宅を構える、二拠点居住を行う、ある程度年齢を重ねてから家を建てる、といった傾向が見られます。この住宅にはそのような住まいへの新しいニーズにいち早く応えられる要素が認められ、今後の住まい方の可能性を広げるタイムリーな提案として注目されます。

住宅団地 [大師堂住宅団地]

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東日本大震災発生後の仮設住戸として供給された木造ログハウスを再活用した住宅です。近年では供用済み仮設住宅の転用が推奨されるものの、細かいパーツなどを除いて再利用が進んでいないのが実情です。この住宅は、躯体が内装材を兼ねられるログハウスの特徴を生かし、仮設住宅の部材のかなりの部分が再活用されています。
さらに、一般的なプレハブ建築だと使用する部材などはメーカーのサプライチェーン内で供給されるのに対して、ログハウスだからもともとの素材を地域で供給できるため、部材を地域内で循環させられ、マイクロエコノミーを形づくることに貢献できる点も優れています。天然材の表情豊かなテクスチャーも、災害時対応の住戸に入居する人の心を穏やかにしてくれる効果があるように思います。

大学の国際学生寮 [まちのような国際学生寮(神奈川大学新国際学生寮・栗田谷アカデメイア)]

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学生の学びや暮らしの場は学校だけでなく、生活の場でもあるという考えに基づいた国際寮です。この寮は、建築の中に、自分の部屋以外に様々な過ごし方ができる場と仕組みを数多く設けています。国際寮として国や文化が異なる人々が適切な距離とスケールの中で交流し、生活ができるデザインになっています。そうしたデザインがワークショップなどを通じて生まれ、完成後の運用も学生による自治会のような形式が取られているなど、建築デザインの成り立ち方もとても現代的であると言えます。

知的障がい者グループホーム [角地の小さなグループホーム]

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角地に設けられたグループホームの建物と、そこから少し離れた場所に建てられた関連する建物とを入居者が行き来して暮らすというコンセプトが、知的障害を持った入居者が外に積極的に出て行き、地域社会と関わることを促しています。建築にはそうしたコンセプトを効果的に具現化するための設計の配慮がいくつも見られます。障害者の社会参加という大きな目的を果たすために、小さな工夫を積み重ねることの大切さを物語っている建築と言えるでしょう。
グループホームはいかにも福祉施設的なしつらえだと街の中でかえって閉鎖された状況になってしまうことがあり、それに対してこのグループホームでは街中に自然に存在し、入居者も地域の一員として自然に振る舞えるよう、設計もていねいなプロセスを踏んできていることがうかがえます。施設として閉じることなく、街の中に積極的に入り込んでいくという思考は、様々な施設においてこれから応用ができるでしょう。既存の街中の住戸や施設に空き家が多く発生している今の状況下で、このような施設を積極的に受け入れていくことも、街の機能を維持していくという意味からも効果的ではないでしょうか。

認知症高齢者グループホーム [ここから]

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自分の部屋だけでなく、共同の居場所を豊かにするという考え方に基づき、認知症を患った高齢者たちが想い想いに過ごせる場づくりが巧みに行われています。立地する地域社会への開き方も巧みで、建築としての構成には、地域の人が関われる余白がうまく取られています。街に対していい表情を持っている建築であるとともに、内部の仕上げも、人々にとって一般的な住宅の延長にあると感じられるような、よい意味で大袈裟でないのが好ましいものです。

専用住宅 [森本邸]

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ハウスメーカーと建築家との協働による実験的な住宅です。このようなコラボレーションにより、住まい内部のスペースとして比較的閉鎖性が必要な部分と、周辺環境との接点として開いた部分との折衷がうまく図られたり、メーカーが蓄積しているパネル工法などの工業的なアプローチと従来工法との掛け合わせによって、個々の建築条件に合わせて柔軟に展開していけるようになることが期待できます。今後この工法として工業化認定がされれば、企画性と個別性の両立や、メーカーと工務店との協働などへも発展する、とても意義のある提案であると考えられます。

住宅リノベーション [天井の楕円]

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ともすれば、建築家による設計住宅のリノベーションは手を付けるのに勇気が必要ですが、従前の設計に見られた課題と、今日の生活要求とを付き合わせる中から、効果的な解決手法を見出した結果、先在していた建築の価値を引き出し、さらに新たな価値へと高めた、リノベーションの可能性を拡張した事例と言えます。

農家住宅 [斜め格子の農家住宅 -築150年の古民家の再生-]

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古くからの農家住宅がどんどん消えていく中で、その良さを継承するための手法を効果的に打っているリノベーション住宅です。構造の見直しが新たな開放性を生み出しているし、印象的な意匠をもたらしていることも巧みです。

住宅 [6つの小さな離れの家]

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旧来の住宅を一部減築した上で、複数の離れとなるスペースを設けて敷地全体の再構築を図りました。スペースの作り方が、まったく新しく作るのでなく、もともとの住宅の敷地内にあった要素にまつわる記憶を掘り起こして、それをうまく引き出すような形態としてまとめられているのが見事です。当初は完全に新築で建て替える計画だったものが、このリノベーションによって住まいに新しい生命が注ぎ込まれ、世代を超えて集え、生活することができる状況に生まれ変わったと言えるでしょう。

分譲住宅における照明計画の取り組み [灯かりのいえなみ協定]

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商店街などではなく、一般住戸が集積するエリアとして、建築協定に則って各戸が照明を調整する試みはたいへん珍しいものです。それによる景観改善の効果もさることながら、何よりも治安・防犯対策となる点で効果が大きい。高齢化の進展などがさらに見込まれるこれからの社会状況を鑑みると、とても有効な取り組みであるように思います。公共性という観点からも、各住戸の主体的な参画により街の環境が形成される意義は大きいものです。「個が公を成す」ことをよく示している取り組みと言えるでしょう。

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