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【僕とKさんのエシカルな日常 #5】家庭菜園をはじめた料理男子が、うちなーのニーニになった話

しかし、6月だというのに暑い日が多い。

すでに「真夏日」なんて言葉もニュースで見かけるが、

なんか年々、「春」が短くなっている気がする。

春から夏へ、個人的に季節が変わったなぁと感じるのは、

スーパーとかコンビニに入った瞬間だ。

あの冷房がキンキンの空間に入ったときに、

「ふぅ、気持ちいい…」と

感じるようになったら「夏」の到来。


この前、僕がKさんと会ったのも、

そんな「夏」を感じる昼下がりのことだった。

スーパーに入って、「あ、気持ちいいなぁ」と

思いながら野菜コーナーに向かっていくと、

Kさんの姿が目に入った。


Kさんは、野菜のチルドコーナーで

何やら、難しい顔をして立ち尽くしている。

さては、また賞味期限の野菜を見て、

悩んでいるな、と僕は直感的に気がついた。


Kさんはスーパーに行くと、

賞味期限切れの商品を

救いたくなってしまう性分だからだ。


(↓詳しい話はこちらで)

スーパーで値切り品を買うのには、ふか〜い理由があった編

どれどれ、と思って近づいていくと、

Kさんは生姜やニンニク、大葉などが

並んでいるコーナーの前に立っていた。


「Kさん、どうしたんですか?」


僕の声に振り返ったKさんは、

とても困ったような表情をしていた。


「これ、見てよ。うーん、どうしようかな」


Kさんが指さしたのは、

30円引きと書かれた大量の大葉だった。


「大葉って、少しあればいいし。

こんなに沢山は、ちょっと、どう使おうかな…」


そこで突如、僕の中の料理男子のスイッチが入った。

何を隠そう、僕は料理が趣味なのだ。


「Kさん、パスタとか好きですか?」

「うん、好きだよ。自分でも作るし」

「家にミキサーあります?」

「昔、買ったやつがあるかも…」

「だったら、大葉をニンニク、塩、ナッツ、

オリーブオイルと一緒にミキサーにかけて、

ジェノベーゼ風のソースにするといいですよ」


それだ!とKさんの表情がパッと明るくなった。


「君は結構、料理をするんだね」

「実は大好きなんです」

「僕もだよ」


僕は「料理が好き」という

ありがちな共通項を見つけただけなのに、

なぜかKさんとソウルメイトにでも

なったかのような気分になっていた。


その勢いのまま、僕はKさんに言った。


「大葉とかなら、自分でも育てやすいですよ」


Kさんは、驚いたように僕の顔を見る。


「大葉は水耕栽培もできるんで、

ペットボトルとかでも育てられますし」


僕はテンション高めに続けた。

「薬味系のものは、プランターで簡単にできるんで、

みょうがとか、イタリアンパセリとか、

バジル、葉ネギなんかがあってもいいですね。

料理しながら、さっとちぎって使えますし、

やっぱりフレッシュなんで風味がいいんですよ。

ホームセンターに行けば必要なものは何でも揃うし、

そうだ、初心者でもはじめやすいのは夏野菜。

それほど手入れしなくても、強い日光を浴びて

グングン育つ品種が多いですからね。

あぁでも、もうちょっと時期を逃したかな」


そこで、僕は気がついた。

ちょっと一方的に話すぎている、と。

熱量のチューニングが全くできていない。

6月の真夏日みたいだ。


ただ、僕の不安をよそに

Kさんは興味津々な表情だった。

さすが、ソウルメイト。


「家庭菜園かぁ。それ、すごくいいね」


Kさんは大量の大葉をカゴに入れて言った。


「何でも買って揃えるんじゃなくて、

自分で出来ることは自分でやる、というのが

サスティナブルの核心かもしれないね」


ん? なんか話が高尚なことになっている気が…


「これまで僕たちは消費する側でしかなかったけど、

小さなことでも自分で生産するようになれば、

無駄なフードロスもなくなるだろうし、

やっぱり、その方が健全な生き方のような気がする」

確かにKさんの言う側面もあるけれど…


「いや、まぁ、単純に楽しいんですよ。

自分で食べるものを自分で育てるのは。

しかも美味しいし、野菜に愛着も沸きますし」


素晴らしいよ、とKさんは感動した様子で言った。


「よし、僕も家庭菜園を始めてみよう!」


その反応に僕は、心から嬉しくなった。


これまで僕は、Kさんの言動から

いろいろなことを教えてもらってきたけど、

今日は初めて、僕の方からKさんに

新たな知見を伝えることができたからだ。


スーパーを出て、Kさんと別れるとき、

「本当にありがとう!」と

Kさんはスキップしそうな勢いで商店街を歩いていった。


その数ヶ月後、Kさんからメッセージが届いた。


『これ、どこまで伸びるんだろう?』


困惑したメッセージと共に

マンションのベランダを覆い尽くす

ゴーヤの写真があった。

あぁ、Kさん、ゴーヤに手を出してしまったか…


おそらくKさんのことだ。

緑のカーテンを作りたかったのだろう。

つるで覆えば暑い夏の日除けにもなるから、

エアコンの使用量も抑えられて、

環境にやさしいと考えたのだと思う。


それは正しい。

全くもって正しい。


ただ、問題が一つある。

ゴーヤは正直なところ、

料理の使い道が一つしかないからだ。


僕はKさんに返信した。


『ゴーヤのつるは、どんどん伸びていくんで、

長くなったら切ってあげてくださいね』


すると数分後に返信が来た。


「そうだね!なんくるないさー」


やっぱりKさんはこの夏、

ゴーヤチャンプルばかり食べている。

間違いない。

「春」が短くなった分、「夏」が長くなった。

このままいったら、日本の四季はどうなるんだろう。

そんなことを考えながら、

僕はプランターのトマトに水をあげた。


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