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【職場活性化事例】「マルチタスク人材」の育成で生産性向上と社内コミュニケーション活性化に成功、SNS発信にも注力し若手がイキイキ!

アワードの受賞・ノミネート取り組みに限らず、全国のみなさんが取り組むさまざまなGOOD ACTIONを取材しご紹介していきます。


【企業・団体名】

有限会社奥州秋保温泉蘭亭

【取り組み概要】

生産性向上を目的に、社員一人ひとりが担当以外の業務も手掛ける「マルチタスク人材」の育成に着手。例えば夕食時など配膳業務が集中する時間に、手が空いている別部署の社員がサポートに入ることで、業務量の平準化を実現。パート・アルバイトを増やさなくても業務が回せるようになり、人時生産性が1.5倍向上した。部署間の交流も活発になり、社内活性化も実現した。
若手を中心に担当業務+SNS発信をマルチタスクで手掛けてもらうことで、認知度向上・新規集客だけでなく、若手がやりがいを持ってイキイキ働く土壌づくりにも成功している。

【取り組みへの想い】

「マルチタスク人材育成」の方針を初めに聞いた時は、サービス低下につながりかねないと懸念しましたが、実際に始めてみると忙しい時に部署をまたいで互いにサポートし合えるので、生産性が上がりましたし、社員同士のコミュニケーションも活発になりました。マルチタスク人材育成の一環として、新卒採用にも力を入れていますが、彼らが担当業務に加えてSNS発信に取り組んでくれることで、認知度が向上し新規集客も増加。若手のモチベーション向上にもつながっています。
(有限会社奥州秋保温泉蘭亭 管理部支配人 伊藤正治さん)

▲インタビューに応じてくれた支配人の伊藤さん(左)と広報の及川さん(右)

●業績低迷により、人材最適化による生産性向上が急務に

日本三御湯として有名な秋保温泉。人気温泉宿の奥州秋保温泉蘭亭では、約3年前から全社員が担当業務以外の業務も受け持つ「マルチタスク人材」の育成に注力している。

例えば、フロント担当者やグランピング施設担当者が仲居業務(ルーム係)を受け持ったり、管理部門のスタッフが布団敷きや配膳業務を行ったりと、担当業務7:それ以外の業務3の割合で他の部門をサポートしている。

「旅館は、チェックイン時はフロント業務が忙しく、夕食時は仲居担当に業務が集中するなど、時間によって忙しくなる部署が変わります。これまではパートやアルバイトなどで補強していましたが、手が空いている部署の社員がサポートに入ることで、既存の社員だけで業務が回せるようになりました。その結果、人時生産性(従業員一人が1時間働く場合の生産性)が1.5倍に向上。社内コミュニケーションの活性化にもつながっています」(伊藤さん)

こう話すのは、今回のマルチタスク人材育成にメインで関わった管理部支配人の伊藤正治さん。ただ、初めはこの方針に反対だったという。

「マルチタスク化は、代表である菅原幸子社長のアイディア。2019年秋に私を含め、各部署を代表する5人が集められ、この人材育成方針を聞いたときには、絶対に無理だと思いました。旅館の仕事は、それぞれが担当業務に特化しスキルを磨くことで成り立っており、だからこそお客様に対する手厚いサービスが可能になると考えていたからです」(伊藤さん)

しかし、当時の蘭亭は、客数減少による売り上げ減が続いており、利益確保が最大の課題になっていた。あらゆる経費削減を実行する中で、人材最適化による生産性向上にも着手する必要性を説かれたという。社長から、売り上げや利益、人件費などの数字を包み隠さず共有されたことで、「やるしかない」と腹を括った。

▲未経験のスタッフも、適性があればフロント業務にチャレンジすることも!

●担当外の業務をサポートすることで、業務量の平準化と社内コミュニケーション活性化を実現

社長から現状共有を受けた5人が実行委員となり、マルチタスク人材育成を推進することに。まず行ったのは、社内の全部署の業務を棚卸しすることだった。

「専属の担当者でないとできない仕事、1週間ぐらい研修すればできる仕事、未経験でもすぐサポートできる仕事に切り分けたうえで、どの時間帯にどの仕事で、どれだけ人手が足りないのかをこまかく洗い出しました。そして、社員一人ひとりと面談を行い、マルチタスク化の必要性を説明しながら、本人の適性に合わせてサポートしてほしい業務を伝えました。当然ながら反発もありましたが、会社としての現状を丁寧に伝えて生産性向上が急務であることを根気強く説明し、できるだけ希望も受け入れることで納得してもらいました」(伊藤さん)

そして、伊藤さんらが率先してマルチタスク化を徹底。伊藤さんは管理部門の責任者だが、布団の上げ下げや配膳サポート、風呂場やトイレ掃除など、時間帯ごとに忙しい部署のサポートを率先して行ったという。その姿を見て、多くの社員が前向きに行動するようになった。

とはいえ、当初は混乱も多かったという。
「本業以外の慣れない仕事にとまどう社員が多く、現場の混乱を招きました。そして、ただでさえ忙しいのに、サポートに来てくれた社員に仕事を教えなければならないことに不満を抱く社員も多かったです。ただ、日が経つにつれてサポート社員が徐々に業務に慣れ、戦力化してくると、現場の雰囲気も変化していきました。忙しいときにサポートに来てくれる社員への感謝の気持ちが芽生え、『自分もサポート先で頑張ろう』という思いが醸成される…といういいサイクルが回るようになったと思います」(伊藤さん)

そして3年超が経ち、現在では皆がマルチタスクを当たり前のこととして受け入れ、7:3もしくは8:2の割合で担当外の仕事に取り組んでいる。「さまざまな業務を経験することで視野が広がり、今後のキャリアプランが描きやすくなった」との声や、「○○部署の仕事への興味が沸いたので、もっとサポートの比重を増やしたい」などの声も寄せられている。

また、いろいろな部署のさまざまな役割の人が交流するようになったことで、社内コミュニケーションが活性化。以前に比べて社内に一体感が生まれ、自由に意見が言いやすい風土にもなったという。

●マルチタスクの一環として新卒社員が本業+SNS発信に取り組む

マルチタスク人材育成の取り組みの一環として、大卒社員の新卒採用にも注力。2021年4月入社者から総合職として採用している。

「新卒社員はどの業務も経験したことがない、まっさらの人材。マルチタスクにも当たり前のこととして取り組み、現場をけん引してくれるとの期待から、採用強化に踏み切りました。当時はコロナ真っ只中で、宿泊施設や旅行会社など、観光関連企業はほぼ採用をストップしていましたが、『今がチャンス』と逆張りの発想で臨んだことで、多くの人材を確保することができました」(伊藤さん)

これら新卒入社の社員が力を発揮しているのが、SNSでの発信だ。2021年2月よりYouTubeでの動画配信を始め、今年からInstagramでの発信にも力を入れている。新入社員はそれぞれの担当業務を持っているが、サポート業務の一つとしてSNSに取り組んでいる。

「マルチタスク人材育成の取り組みにより、生産性は向上しましたが、コロナ禍に突入し客足は激減。少しでも売り上げを伸ばすための認知度向上策として、社長発案でまずはYouTubeから始めました。新卒社員を巻き込んでスタートした取り組みでしたが、若手はSNSに詳しく発信も得意。『こういう動画を配信してはどうか』とさまざまなアイディアが飛び出し、企画担当、動画担当、出演および出演交渉担当に分かれて自主的に行動してくれました。コロナ禍でもモチベーション高く、イキイキと新しい業務に取り組んでくれたのが嬉しかったですね」(伊藤さん)

そして今年2月には認知度向上をメイン業務とする広報チームが発足し、本格的にSNS展開を強化している。SNS強化メンバーとして中途入社した広報・ウェブディレクターの及川智香さんは、大手出版社メディアでの編集・リサーチ業務経験者。これまでの知見を活かし、SNSの媒体ごとに効果的な発信方法を考え、実行している。

「現在、特に注力しているのが、20~30代が多く見ているInstagram。若い人に人気のグランピング施設を中心に“映える”画像をアップしています。グランピング施設はペットOKの棟もあるので、ワンちゃんと一緒の30~40代ご夫婦もターゲットに、より注目してもらえる方法をリサーチして発信しています。ストーリーやリール動画も増やして、ユーザーとのコミュニケーションにも注力しています」(及川さん)

これらの取り組みにより、着実にフォロワーが増え、ファンも増加。SNSがきっかけで来てくれた宿泊者から、「動画に出ていた○○さんですよね?」とスタッフが声を掛けられることもあるという。

「SNSを始めて以降、新入社員の努力もあって少しずつではありますが認知度が高まり、新規予約も増えていると感じます。旅行代理店や旅行情報サイトなどを経由しない直接予約の数も以前に比べ約20%増え、利益率向上につながっています」(伊藤さん)

▲若手社員からも発信がしやすい風土が根付いてきているという

●生産性向上、働きやすさ向上の取り組みを強化し、エリア活性化にも貢献したい

マルチタスク人材の育成、逆張りによる新卒社員採用の強化、SNSでの積極的な発信…と業界内では珍しいチャレンジングな取り組みを行っている同社。今後も認知度向上、業績向上のため、さらなる挑戦を続けたいと伊藤さんは話す。

「旅館業はまだまだ紙でのやり取りが多く、当社も顧客管理や発注業務において紙での管理に頼っています。さらなる生産性向上のため、今年中には本格的にDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手し、紙をすべてデジタルに切り替える計画。ITリテラシーの高い若手を中心に、力を発揮してほしいと考えています。これからも、社員が効率的にイキイキ働けるような環境づくりに取り組み、業績を向上させるとともに、秋保温泉全体を活性化できるような発信にも注力したいと考えています」(伊藤さん)

WRITING:伊藤理子
※本ページの情報は2023年6月時点の情報です


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