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読書感想「ガラスの海を渡る舟」

前に読んだ「雨夜の星たち」と同じ作者さんの本。
ガラス工房を営む兄妹の話で、兄の道目線と妹の羽衣子目線を行ったり来たりしながら話が進む。
「雨夜の星たち」でも思ったけれど、この作家さんの本は心理描写がすごく詳しくて、登場人物たちの考えていることが強く感じられる気がする。

わたしはずっと月並みな人間だった。落ちこぼれでも優等生でもない、なにをやらされても平均的にこなせる。けれども突出したなにかをまだ持っていない。まだ、だ。まだ、さがしている途中だ。

p81

これは気持ちがすごくわかってしんどかったところ。
私だけじゃなくて、同じくらいの世代の人たちはこういう気持ちの人も多いんじゃないだろうか。
子供の時よりも色々なことがわかるようになって、自分に才能があるかどうかもなんとなくわかるようになるけれど、「自分は”この”才能がないだけで、別のことにはあるんじゃないか」って信じたい。
なんにもないって思いたくない。
そういう気持ちがあったので、全体的に羽衣子の気持ちはわかる気がするなぁと思いながら読んでいた。

かといって「才能のある人」である道が何の不自由もなく暮らしているかというとそうじゃないのがリアルだなと思う。
羽衣子は道のことが羨ましかったり妬ましかったりするけれど、道は「羽衣子がぼくに負けてるところなんかひとつもない」と思っている。
この認識のずれみたいなものって、きっと実際の人間関係でもあるんだろうなと思った。

考えさせられるところや共感できるところが多くて、少し読んでいて息苦しくなるような感じもあったけれど、少しずつ二人が歩み寄っていく過程がわかるのが素敵だなと思った。


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