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連載小説【正義屋グティ】   第15話・溶暗

15.溶暗

「聞けーい!この中にグティレス・ヒカルという少年はいるかな?友人の身が心配ならば、今すぐ俺のもとに来るがよい」
サングラス男は相変わらずチュイに銃を突きつけたまま、顔色を一切変えることなくグティに挑発を始めた。
「ふざけるなよ。少し体が大きいからって調子乗りやがって」
グティは鬼の様な鋭い眼差しで睨みつけながら、ゆっくりとサングラス男へと歩を進め始めた。
「グティ!ダメだ!君は怒っちゃいけないんだよ」
デンたんはとっさにグティの腕を強くつかみ、そう静かに叫んだ。だが、グティはその手を力いっぱい振りほどき、足を止める。
「僕が怒っちゃいけない理由なんて知らないけどさ、昨年のニコルの時みたいに、怒ると記憶が消えて何だかすっきりするんだよ。それに奴は、僕の大嫌いな『間違った人間』だからね。悪いけど僕は正義を全うするよ。」
「でも…」
どうすればいいんだ。閉ざされた公共の場で狼と銃を持った人間が殺しあう図を想像したデンたんは頭を抱える。するとその時、デンたんの隣から力強くグティを呼び止める声が耳の奥へと響いてきた。
「相手は銃を持っている。お前の正義とか知らねぇけどさ、お前のせいで大量の未来ある子供たちが死んだら、正しい事のために突き動かされてやったにせよ、周りをどん底に叩き落す『自分勝手な正義』になっちまうんだぜ。少し頭を冷やせよグティ」
声の主は、いつも通り青髪のショートカットにだらしない服を上手に着こなすカザマであった。カザマの言葉で我に戻ったグティは、回れ右をして不貞腐れた顔で椅子に座った。
「じゃあ、どうするんだよ?奴は僕を殺す勢いで探してるんだぞ」
グティがそっぽを向き、ほかの二人も途方に暮れたように顔を曇らせる。そこにサングラス男の脅し文句が、そんなグティ達に追い打ちをかけた。
「出てこないなら、仕方ない。この仲間はお前らとともに葬ってやんよ!今から一人ずつこのデカい店の中に入ってこい。検問を開始する!」
サングラス男は五階にある唯一の店舗の前のドアの前に立ち、周りの子供たちを誘導し始めた。子供たちが一つの安全地帯に我先にと群がっていく。その様子を見つめる男の顔は、じたばたと滑稽に動きまわる小動物を観察するかのごとく、愉快そうにニヤけていた。
「まずいよ!グティどうする?!」
「どうするって…デンたんも少しは考えてよ!」
自分の周りから明らかに人が減っていくのを感じた二人は、わかりやすく慌て始めた。
「二人とも落ち着けよ!養成所でこういうシチュエーションの授業もあったろ」
「カザマって、いつも授業聞いてたんだな」
にーっと笑って茶々を入れてきたデンたんに、カザマはすかさず軽くパンチをかまし、何事もなかったように話を切り替えた。
「とりあえず、今の状況をパターソンに電話で説明して打開策を考えてもらおう」
カザマは持っていた携帯電話を耳につけると、パターソンからの伝言をロボットのようにそっくりそのままグティ達に伝えた。そしてそのままパターソンの言う打開策とやらを信じて三人は四方八方に広がった。

同じ頃 五階エスカレーターホール

エスカレーターは一向に動く気配はなく、見慣れないシャッターを背後にパターソンとグリルは重い腰を上げようとしていた。
「パターソン、ほんとにやるのか?」
先に立ち上がったパターソンの背中を見て怖気づいたのか、グリルはなかなか立ち上がろうとしなかった。
「グリル、早く行くよ。向こうでは一刻の猶予も許されないんだ」
パターソンはピシャっと言い切り、ただの模様付きの階段と化したエスカレーターを一段一段丁寧に上り始める。
「ちょっと、待ってよ。パターソン」
パターソンが無愛想に立ち去ると、グリルも慌てて後を追った。

六階

六階は業務用の店舗が立ち並んでいるため、下の階よりも圧倒的にスケールが大きい。そんな真っ暗な六階を、パターソンとグリルは非常用電灯の小さなオレンジ色の灯を頼りに目的地へと進み続けた。
「なぁ、パターソン、これ何に使うんだよ?」
グリルはパターソンに指示されたとおりに、六階の店舗から大量の小麦粉に、大型のライター、それに浮き輪やタイヤなどに役立つ自動空気入れの機械を一つの台車に乗せて、パターソンのもとにやってきた。
「ありがとうグリル。こっちも針金とかを駆使して電気室のドアを開けといたから、中に入ろうか」
パターソンが暗闇の中でかすかにほほ笑んだことがグリルにも伝わった。二人は、本来子供が入れるはずもないデパートの電気室に侵入してしまったのだ。
「うわー!すごいね。この部屋だけすんげぇ明るい」
「このデパートの電気室だからね。ここの部屋でこのデパートの電気を制御してるんだよ」
パターソンはそう説明しながら、何食わぬ顔で小麦粉を電気室中にまき散らし始めた。
「パターソン?!何やってんの!」
グリルは目を丸くした。だが、パターソンはそんなことにはお構いなく、すべての小麦粉をまき終わると、その小麦粉たちをライターで炙り始めた。グリルはただただ自分の持ってきた小麦粉が黒く炭になっていく様子を眺めることができなかった。
「グリル、今から少し爆発するから逃げる準備をしておいてね」
「少し爆発って…?!パターソンついに狂ったか!」
グリルがそう叫ぶと同時にパターソンは自動空気入れ機にスイッチを入れ、電気室のドアを勢い良く閉ざし、遠くへと走り出した。グリルも命の危険を感じたのか走り去っていくパターソンを物凄いスピードで追いかけた。
ドカーーーーン
それから間もなくして、電気室からは凄まじい爆発音と、電気室のドアを吹き飛ばす程の爆風と熱気がグリル達を襲った。
「うあああああ。パターソン、大丈夫?!」
「グリルこそ無事でよかった。急いで消火するよ!」
パターソンは目に入った消火器を持って電気室へと向かっていった。

同じ頃 五階

「まずい。そろそろ検問が終わっちまう」
電話越しのパターソンからの返事を心待ちにしていたカザマは持ち場から検問の方向をじっと覗いていた。そしてその時は来てしまった。
「検問終了!さぁもう五階には死角がなくなったな。容赦なくいかせてもらうぜ!」
サングラス男が大きな雄たけびを上げ、ゆっくりと銃を構えながら自分達の持ち場に近づいてきた。
「もう、終わりだ」
三人はそんなことを口ずさみ絶望したように脱力をしていた。その時
ドカーーーーン
上の方から少し音は小さいが明らかに爆発音がデパート内に響き渡った。それと共にデパートの中は闇に包まれ完璧に『溶暗』した。

 
   To be continued...      第16話・打開策
パターソンの考案した打開策とは...?2022年7月31日午後9時ごろ投稿予定!
           お楽しみに!!

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