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連載小説【正義屋グティ】   第2話・出来損ない

2.出来損ない

半球の星、アンノーン星。その容姿は球の側面部分に『海』と呼ばれる塩水の貯水庫があり、その上に大きな5つの大陸が巨大な船のように浮かんでいる。大陸の位置は北東、南東、南西、北西、中央があり、それぞれホーク大陸、グリーム大陸、リブラ大陸、ワスプ大陸、コア大陸という名前がこの星の『神々』によって作られたと信じられている。中央大陸を除く4大陸は1つの大陸で1国だが、中央のコア大陸はその周辺に散らばる島国の連合諸国によって形成されており、平和の象徴とも言われていている。だが大量の小国からなる共和国なのでどの国も経済的に厳しく、コア大陸への支援が行き着いていない。そのため貧困の家庭が多く、子供の栄養失調や飢餓が国際的にも問題になっている。先ほど少し触れた星の『神々』についてだが、5つの大陸に1人ずつ存在し人間を超越した存在であることから、この星を作った神々と崇められている。実際にアンノーン星の歴史書にも彼らの名前があるため、少なくともその5人は不死だということは確実だ。大陸ごとの名前も5人のそれぞれの名前からとっているという。これを世の人々は『五神伝説』とよぶ。しかし20年ほど前から中央大陸のコア様が行方不明になっており、コア大陸の連合諸国の指揮は下がる一方である…。そんなコア大陸の連合諸国で最も発展している国がグティが生まれ育ったカルム国である。カルム国が発展した理由はいくつかあるが、最も大きいのは子供のころからの競争社会だろう。カルム国では子供の時から『夢を持たない奴は国の汚れだ』と教えられていて、その『夢』を探す為5歳から12歳まで国民であれば強制的に【総合分校】と言われる政府が設けた一般的な学力を身に付けるための施設に入学させられる。そしてそこで身に付けた学力を生かし、応用して自分の将来の夢を見つけ、それを達成するための職業の養成所に入学する。その試験日が12歳の時のカルム国建国記念日である。だがみんながみんな夢があったり、自分の希望した養成所に入学できるわけではない。入学試験に不合格をもらったり、そもそもどこも受けない少年少女も存在する。そのようないわゆる『出来損ない』たちを少しでも国の役に立たせようと政府が作った組織が『正義屋』だった。『正義屋』は聞こえはいいが蓋を開けてみると自分の『正義』をそれぞれ心に秘めた単なる国の雑用係である。国の治安維持、町中の清掃、敵国との戦争などと様々な役割が存在する。そして政府は見せしめとして正義屋に勤めている職員の髪色を赤に指定し、養成所生を青色と細かく設定した。ここからはデパートの事件から3年経った後の物語である。
 
3013年 正義屋養成所(首都校)
 
養成所入学から5か月ほど経ち数々の思いを胸に秘めた1年生は、今日も真夏の日差しを浴び、緑の葉を輝かせている木々が作る影の下をゆったりとした歩幅で歩き教室へ向かっていた。
ガラガラガラ
「やぁ。おはよう」
古びた木造のドアを音を立てながら開けグティは教室に入った。
「グティ!今日は早いじゃん」
そう穏やかな笑顔で迎え入れたのは昔からの親友であるゴージーン・パターソンだ。パターソンは誰にでも優しくできるがその分お人よしが過ぎ、他人の頼みを断れないのが欠点だと本人も自覚している。そんなパターソンは、読んでいた辞書のような分厚い哲学書を付箋で挟んだのち自分の机の上におくと、黒板を奇麗に掃除し始めた。
「あいつ、ホントにきれい好きだよな。グティ。おめぇとは違って」
「悪かったね、カザマ。君にだけは言われたくなったけど」
重い荷物を担ぎパターソンを眺めているとグティにちょっかいを出してくる輩が現れた。ヒュウ・カザマだ。カザマは学校が定めた昔ながらの学ランをいつもだらしなく着こなし、フックは外れ、ボタンも2つほど皆よりも少ない。そのくせ青色のショートヘアが結構似合うところがグティは何よりも気に食わなかった。その後グティは何も言わず静かに朝の準備を行っていた。窓の外は蝉の鳴き声で満たされ車の騒々しい排気音はかすかに聞こえる程度だった。グティはいつもより数10分早い教室から、美しい噴水が泣いている中庭を見つめながら黄昏ていた。
「よぉ!みんな!今日も元気か?おれは昨日の10倍元気だぜ!」
すると突然教室のドアが今にも壊れるような勢いで開き180cmを超える巨体の男が現れた。彼はオーリー・デンハウスという名前で、体と同じように声も激しくデカイ。だがその分周りへの愛もでかいのか、仲間を第一に考える良いやつだ。あだ名は『デンたん』。
「デンたん毎日それ言ってるよね。おはよう」
そう口ずさんだのはチュイ・プロストコだ。彼は中性的な見た目で男のくせに髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。身長もグティより15cmほど際小さい140cmで体重も女子に負けを取らないくらい軽いという噂だ。この時間帯の教室はいつも男子ばかり。グティは周りを見渡すと辛い物が得意なロイ・バントスや、足がとてつもなくでかいシューズ・ヘンリー、目がとても細い割にまつげが長いアップル・イーダンたちとチュイが、一つの机に集まり仲良く世間話を始めているのを見つけた。一見アットホームなクラスだがいつも後ろのロッカーではあの二人が喧嘩をしていた。
「お~い!アレグロ君?君だけ孤立してるよ。しょうがないから僕がお話してやろうか?」
ニコル・ストックは嫌らしい目つきでデューン・アレグロに歩み寄る。
「あ?」
アレグロは短くけん制し猛獣のような目つきをニコルに向けながら机を蹴り飛ばし立ち上がった。その一瞬でさっきまで騒がしかった教室に一瞬で冷たい空気が漂う。
「元気良いじゃん。そんなにお話したかったんだね」
ニコルはひるむことなく対抗馬を出す。その一言にグティは関わりたくないという一心で机に腕を付けその中に顔をうずくめた。
「撃つぞ。てめぇ」
「なに二枚目気取ってんだ?このガキ。撃ってみろよ。第一何で撃つんだか」
ニコルのその一言にアレグロは目をパッと見開き、訓練用の拳銃をポケットから出し右手でニコルに突き出した。
「お、おい。それは武器庫においていくという決まりだろう。」
「黙れ。撃つぞ。」
デューンはさっきまでポケットに入っていた左手を右手に添え構えた。その手は人一を殺めようとしている事に対して一切震えていないように見えた。
「やめろよアレグロ!一回落ち着けよ」
デンたんがすかさず仲介に入るとアレグロは意外とあっさりと銃を下げ、床に横たわっている机を丁寧に戻すと再び本を読み始めた。何が起こったのかとほとんどのクラスメートは目をぱちくりさせている。蝉と小鳥の声比べが窓を通り越して教室に漏れてくる。物騒な声や音がやみ、ひと段落が付いたと悟ったグティは顔を上げ何事もなかったかのように朝の準備を再開させた。そしてあの二人を見ていると当時の事件をまた思い出してしまった...。

     To be continued…                       第3話 小さな誓い  

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