【短編小説】アンチ狩り #2

ようやく現場に着いた。
車から降りると、既にスタッフが撮影の準備を進めていた。
僕は愛想よく、にこやかに挨拶を交わす。
俳優は人気商売でもあるが、それは視聴者だけでなく現場スタッフにも同じことがいえる。
もしスタッフに横柄な態度や悪態なんかをついてしまえば、また一緒に仕事をしようとは思わないだろう。
まあ数字が取れてさえいれば使わざるをえない部分もあるかもしれないが、俳優なんて、いつ人気が落ちるかも分からない。
というか、目移りが激しい業界であるがゆえに、それは明日かもしれない。
だから、人気が落ち目になったあとも、継続的に使ってもらえるようスタッフへの配慮は滞りなく行っている。

控室に向かうと、竹内 順也がメイクを始めていた。
「おはようございます。竹内さん。」
「おは。朝早すぎるよな。立ったまま寝れそうなんだけど。」
彼は、2つ年上の俳優仲間であり、過去に幾度か同じ作品に出演したことがある。
そのため、プライベートでも飲みに行く程度に仲良くはなった。
歳が近いため、フレンドリーに接してもらっており、あまり気を遣うことがなく楽だ。
ただ、天然だったり鋭いことを言ったりとよく分からない人でもある。
なお、今回は僕が主演をやらせてもらい、竹内さんは主人公を狙う犯人役という設定だ。

さて、僕もメイクを始めなければ。
メイクをしてもらいながら、もう一度今日撮影する台本を叩き込もうとしたところ、竹内さんから話しかけられた。

「そういえば、最近よくニュースになっているやつ見た?
どうやら、昨日2人目の被害者が出たらしいよ。」
「あー、例の解剖された遺体が発見された事件ですか。
殺害した上に遺体をほじくり返すなんて、マジでいかれてますよね。」
「ほんそれな。でも、証拠は全く残ってないらしいよ。」
「うわ...。それ犯人捕まえられる見込みないじゃないですか。
物騒ですね…。」

通称、人体解剖事件は2週間ほど前に1人目の被害者が出た。
被害者は殺害された後、メスのようなもので切り刻まれ、人体内部がむき出しの状態で発見されたという、極めてグロテスクな事件だ。
その事件の2人目の被害者が昨日出たという。

「被害者の繋がりが分からないけど、俺たちも一応世間に名前が出ている身だから気をつけないとな。」

そう言って、竹内さんは控室から出ていった。

「竹内さんはそうかもしれないですね。」
僕はそう心の中で思いながら、再び台本に目を向ける。

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