『聖痕の超共感者(エンパス)』2話
■渋谷・街中
ミヤコ、バジリスクを背に、タオと犬束を見やる。
ミヤコ「この人達……もしかして……!」
タオ「(ミヤコに)そこのJKちゃん、その子連れてここから離れて。あとはプロがなんとかするから」
ミヤコ「噂で聞いたことある。魔軍と戦う秘密組織があるって!」
タオ「噂になる時点で極秘じゃないけどね」
タオ、さらに撃つ。
前脚を擦り、悶えるバジリスク。
犬束「(銃を構えて)行ってください!」
ミヤコ「わわ、わかりましたッ!」
ミヤコ、男の子に肩を貸して逃げ出す。
■同・ビルの影
スカートの端を破くミヤコ、
包帯代わりにして男の子の足に巻きながら。
ミヤコ「(笑顔)これでよし。お姉ちゃんと一緒に我慢できる?」
泣きながらも頷く男の子。
ミヤコ「(撫でて)偉い偉い」
言いつつ自分の足を意識するミヤコ。
ミヤコM「痛みが落ち着いてる。やっぱり人の痛みと繋がって……『共感』してるんだ」
するとズキン、と腕に痛み。
ミヤコM「いたっ……!?」
不安そうな男の子。
ミヤコ「(気づいて)ふふ、何でもないよ。けど、ここからは一人で逃げられるかな」
■同・高架下
バジリスクから少し離れた地域、
一人で周りを見回しながら走るミヤコ。
腕を怪我した初老の女性を見つける。
ミヤコ「痛……いけど大丈夫、私が生きてるから生きてる!」
女性に近づくミヤコ、さらにスカートを破いて包帯を作り、
女性の腕を止血する。
女性「ありがとう、お嬢ちゃん」
ミヤコ「いえいえ、人は相互依存ですから」
女性「依存はよくないんじゃないかねぇ……」
水のペットボトルを渡し、一息つかせるミヤコ――
瞬間、腹部に痛みが。
ミヤコ「うっ……まだ近くにケガ人が……」
ミヤコ、女性に一礼して立ち上がり、腹を抑えながら歩きはじめる。
ミヤコ「(苦しい)マグダラのマリアさん……この超共感<エンパス>っていうの、使い道限られてません……?」
× × ×
腹をスカートの包帯で巻かれ、礼を言いながら去っていく中年女性。
ミヤコはすっかりスカートが短くなり、太股が露わになっている。
ミヤコ「だ……だいたいは見つかったかな、ケガしたヒト……」
ミヤコ、疲労で朦朧としている。
ミヤコ「ダメだこれ……限界かも」
倒れそうになるミヤコ――その背中を、何者かが抱きとめる。
見上げると、それは犬束。
ミヤコ「あ……さっきの秘密組織の人……」
犬束「貴方は……逃げるように言ったじゃないですか! どうしてまだここに!?」
ミヤコ「あは、なんというか、共感で」
犬束「……?」
ミヤコ「そっちはなんとかなりました?」
犬束「人の心配してる場合ですか、ひどい顔 色ですよ……」
言いながらミヤコの太腿が露わになっていることに気づく犬束、
目を逸らして。
犬束「なんでこの短時間で、そんな格好に」
上着をミヤコの腰に巻く。
胡乱な目で、犬束をじっと見るミヤコ。
犬束「(さらに赤面)~~~~!」
ミヤコ「そっちの顔色も変ですけど……?」
犬束「そ……そっちじゃなくて、犬束です」
ミヤコ「あ、秘密組織なのに名乗った……」
そのとき、建物の向こうから巨体が倒れてくる。
絶命したバジリスクである。
その後ろから歩いてくるタオ。
拳銃の硝煙を軽妙に吹きながら、バジリスクの上に飛び乗り。
タオ「けっちゃ~く。って犬束氏、何ちゃっかりJK襲ってんの?」
犬束「タオさん……この短時間じゃ無理です」
タオ「時間の問題なんだ」
ミヤコ「仲間の名前も言っちゃうんだ」
息がピッタリなミヤコとタオ。
犬束「二人とも初対面ですよね」
タオ、バジリスクから降りてくる。
ミヤコ「その魔軍――倒しちゃったんですか」
タオ「(得意げ)まね。私達『籠目』の前線部隊なら、こんぐらいの魔軍なんて楽勝もんすよ」
ミヤコ「皆さん、ネタバレグセあるです?」
「やべ」と汗が流れるタオ。
犬束「タオさん……覚悟しておきましょ、浜渦班長の大目玉」
タオ「うぐぐ……まあそれは置いといて。(ミヤコに)あんたもしかして能力者?」
ミヤコ「え……」
タオ「これ、魔軍に反応するんだけど、魔軍と戦える能力者にも反応すんの」
手元のスマートウォッチ型『羅盤』を見せてくるタオ、
羅盤は発光している。
タオ「バジリスクは倒したし、犬束以外ならあんたしかいないよね」
ミヤコ「それが……なんというか、戦うには微妙な力っていうか……」
タオ「何、もしかヒーリングポーション系?」
ミヤコ「違くて……エンパスっていう、人の痛みがわかる力みたいなんですけど」
犬束「エンパス……聞いたことないですね」
タオ「ふーん、テレパスとも違うんだ。調べてみっかね本部で」
そのとき、さらに羅盤ウォッチが発光。
タオ「何!? バジリスクは倒したはず――」
真横、高架の柱が崩れる。
現れる一回り大きい巨体――バジリスクの別個体。
愕然とするミヤコ達。
タオ「げぇ! も、もう一匹いたの!?」
犬束「大きい……まさか、つがいの雄!?」
ミヤコ「ひっ……ひいいい……!」
怒るバジリスクが咆哮をあげ、突進。
ミヤコ「きゃああっ!!」
タオ「ぐえっ……!」
犬束「くっ……!」
ミヤコら、たまらず吹き飛ばされる。
タオと犬束、すぐに立ち上がれない。
ミヤコも倒れ、身動きが取れない。
ミヤコ「け、結局これ……?」
× × ×
ミヤコがいる場所から遠く、ミヤコを見つめている、
無表情な一人の青年。
国場春人――光の子である。
国場「そこにいるのはお前か……我が復活を見届けた女……」
天を見上げ、複雑そうに目元を歪める。
国場「――なぜ彼女を遣わすのです、主よ」
その瞳から、血の涙が流れる。
× × ×
一方、咆哮するバジリスクの傍ら。
ミヤコ「い……」
ミヤコの心臓が激痛にドクンと高鳴り、目から血の涙が一筋。
ミヤコ「痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
バジリスクを前に、激痛で転げ回るミヤコ。
ミヤコ「痛い……痛い、痛いぃぃぃ……!」
バジリスクも狼狽え、ようやく体勢を整えたタオと犬束も怪訝そう。
タオ「その能力って、そんなに激しく痛いの……?」
するとタオの腕、羅盤ウォッチがこれまで以上に強く光り、
点滅しはじめる。
タオ「へ?」
さらに、警告の音声メッセージ。
『警告、警告。付近空間の超常度に、急激な上昇を検知しました』
驚愕するタオ、犬束。
犬束「タオさん……!?」
タオ「な……何この反応!? こんなの神霊レベルか、人間ならとんでもない高僧や神仙か――」
息をのむタオ。
タオ「神に選ばれた聖人。いや、聖女……!」
犬束「聖女……彼女が……!?」
ミヤコの手首から、血が流れ始める。
それは、イエスが磔になったとき、手首に杭を打たれた傷で――
ミヤコの絶叫が響き渡る。
続く
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