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【書評】『R・E・S・P・E・C・T』/ブレイディみかこ



本書は実際に2014年にイギリスで起こった公営住宅占拠事件をモデルに描かれた小説である。

オリンピック開催を契機に、ロンドンでは再開発が進み、ジェントリフィケーションがすすめられていた。
ジェントリフィケーションとは、住む人の階層が上がり、地域全体が上流化していくこと。家賃は高騰し、それに伴い労働者階級はその街で暮らしていくことが難しくなる。

この物語の主人公、ジェイドたちはホームレスとなったシングルマザー。ロンドンのホームレス対象のホステル、サンクチュアリに住んでいたが、緊縮財政を理由に退去を言い渡される。
ロンドンには住める家賃の住宅もなく、役所はロンドンを出て郊外で暮らしてはどうかとけんもほろろ。
一方で公営住宅はまだ住める状態であるにも関わらず、再開発に備え、空き家のまま放置されている状況が続いていた。


ジェイドたちは立ち上がり、E15ロージズを結成。安心して暮らせる住居の提供を求めて運動を開始した。
同じく貧しい立場のロンドン市民たちをはじめ、多くの人々の支援を受け、E15ロージズの活動は広がりを見せ、団体はさながら互助コミュニティとして機能し始めた。
多くの世論を巻き込み、ついに運動は佳境を迎えるーー。


それぞれ事情を抱えてホームレス状態になったシングルマザーたちの視点。

渦中に置かれた当事者と、安全な立場にありながら応援者となる人々との思いのギャップや矛盾。

本書は勧善懲悪の単純なストーリーではなく、様々立場の人々の複雑な思いや葛藤を描いている。

また、日本では暴動や社会運動が起こることはめったになく、なかなか馴染みにくい物語の背景を、日本人記者の史奈子とアナキスト幸太の視点も織り交ぜながら、分かりやすく伝えていくれている。

「いつもビクビクして黙っていると、あたしやあたしの赤ん坊のような人間は存在しないもにされてしまう。おとなしくしているからいいんだと思って、どんどん生きるために必要なものを取り上げられてしまう」

「あたしたちが求めているのは少しばかりのリスペクトなのです」

「あたしたちの声を聞けよって・・・、あたしらは生きていて、ここに存在しているんだから、あたしらをいないものにするなって・・・。もうあたしは黙らないからなって、それがあたしの本当に言いたいことなんです」


尊厳を求めて声をあげること、果たして自分にはできるか?と考えさせられた一書である。

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