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【書評】まじめに生きる人に贈るエール『わたしは、まじめちゃん』/江角悠子

皆さんは、「まじめ」と聞くとどのような印象を抱くであろうか。
その生き方は時に人から揶揄されたり、面白みのない人間であるかのような反応をされることがあることは、「まじめ」に生きてきた私も体感している。

破天荒なエピソードや面白おかしい話題の展開とは無縁のように思える、「まじめな生き方」をテーマにしたエッセイ。
タイトルを見た瞬間、私は強烈な興味を惹かれた。

本書はライター江角悠子氏が「まじめ」に生きていた半生を振り返り、その生き方を肯定し、同じように生きている人にエールを送る一書である。

本書が指しているまじめは、ただ几帳面な様を言っているのではなく、怠らず努力をすることや、礼儀正しさ、他人への気遣い、敏感に他者の気持ちを感じ取ることなどを包含している。

本書の中にはまじめに生きてきた人が共感せずにはいられないエピソードが随所にちりばめられている。

たとえば、相手の言葉の裏を読んだり、先回りしてついつい失敗してしまうということ。
共感力が高く、相手が機嫌を察して気を遣ってしまうこと。

そうしたまじめに生きてきた人ならではの「あるある」に対して、筆者は自身の経験から、一つ一つ、肩の力を抜くような言葉を語りかけてくれている。

中でも私が本書の底流にあるテーマだと感じたのは「完璧主義を手放す」ということだ。

完璧主義であると、他人にも完璧を押し付けてしまったり、失敗を恐れるあまりに挑戦できなくなってしまう。そして、0か100かの白黒思考になりがちであるという。

それらに対して筆者は、自分と向き合うことや、グレーを選択することの大切さを訴えている。
周到な準備を整え、白黒つくまで動かないのではなく、保留にして間をとることを選択することで、まず一歩、歩みを進めていくことが重要だというのだ。

実は私は、本書を読むまで筆者に対し、いわゆる「意識高い系」の方のような印象を抱いていた。

筆者はライターとして活躍し、書くことを志す人を対象にした、『京都暮らしの編集室』というコミュニティを主宰。
ライターの後進育成のために京都ライター塾も開講している。
毎日発信されているメルマガは、決断や行動することを促す内容のものも多いと感じていた。

多方面に忖度してしまい、様々なことを思い悩み、悶々とする私には、手の届かない、雲の上の人のような人に感じられることもあった。
そして動き出せない自分を責めるような気持ちになることもあった。

しかし、本書を読んで、江角氏は決して単に意識が高いが故に、
「いつやるの?今でしょ!」
と言っているのではないのだと感じた。

私は現在前述の京都ライター塾を受講している。
受講を決める前、スケジュールや様々な事情で、同塾の受講をするか、また受講スタイルをどうするかで悩んでいた。
悩んだ末に江角氏に相談のメールを送り、いただいたお返事の結びにはこうあった。


「もしRukaさんが生きている間にどうしてもやりたいと思っていることや、目指していることがあるなら、早めにやってみるのがいいと私は思っています。
人生は短いので、待ってる暇はないと、私は考えています。」

本書を読み、改めてこのメッセージを見た時、私はハッとした。
この言葉は、ただ意識が高く、強く逞しく人生を切り拓いて生きてきた人が、それを押し付けることから発せられるメッセージではない。

むしろ完璧主義を手放し、自分を許そうとした江角氏だからこその、グレーを選択するメッセージなのではないか。

「人生は短いし、腹決めて頑張れるか悩んでいるうちに終わっちゃう。今は決断なんてできなくていいから、まずやってみて、考えてみては?」
と肩を押す、慈愛のメッセージだったのではないかと思ったのだ。

自分を許し、自分の考えている気持ちに素直に生きる。
失敗する自分も受け入れる。
それこそがまじめな人が生きていく上で重要な力ではないか。


本書は江角氏が自分を肯定するために自身を見つめ、掘り下げ、受け入れる中で見出した、自分にも他人にも優しい生き方を教えてくれる一書である。
まじめに生きる人が、肩の力を抜いてホッとできるような励ましを送り、肯定のメッセージを投げかけているのが感じられるだろう。

江角氏はあとがきで、一人で頑張ることを辞め、自分の生きている世界を信じ、たくさんの人の力を借りることで、さらに大きなステージへ行けるのではないかと語っている。

もし今一人で頑なに、必死に頑張る「まじめちゃん」がいるなら、ぜひ本書を勧めたい。
自分を許し、世界を信じることで、一歩踏み出せ、何かが変わっていくかもしれないのだから。


江角悠子さん著  『わたしは、まじめちゃん』


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