【狩5】一狩り行こうぜ!⑤
ベルリオース島中央を占める砂漠地帯を、ようやく脱したアルフレッド・バート・カシアの一行。
次に向かうべきは<花の街>と名高いロベール王国の商業都市リト。この街に、収集すべき最後の素材<神の鳥>の羽があるらしい。
ロベール島へと航るにはまずは中央島エクナを経由しなければならない。一行は、エクナ島へと航るべく勝手知ったる港街クラスタを訪れた。
この港はベルリオースに来訪したアルフレッドとバートが最初に上陸した街だ。そして当時は抵抗軍の支部長であり、現在は街の行政執行官を務めるリカルドと協力し、抵抗軍の一員として初めて闘った街でもある。
「アルフ! バート! それにカシアさん! お久し振りです!」
出航前に挨拶に立ち寄ったガヤン神殿で、3人はリカルドの歓迎を受けた。
「久し振り。リカルドも元気そうだ。……それにしても、忙しそうだね?」
リカルドの執務机に積まれた書類の山を見て、気の毒そうに云うアルフレッド。
「ま、ドワーフ軍の占領下では何もかもが滞っていましたからね。仕方ないっすよ。それで、わざわざこの街に立ち寄ってくださるとは、今日は一体どうしたんすか?」
「実は……これからロベールに渡航しようと思っていてね。それで挨拶をと思ってさ」
アルフレッドの報告に。
「……! そうか……。とうとうベルリオースを旅立っちまうんすね」
いくぶんショックを受けるリカルド。
「ま、今回はアイテムの収集依頼だから、終わり次第一度ベルリオースに戻って来るけどね」
「けど、その後はずっとベルリオースに定住する訳じゃないんすよね?」
「そうだね。新たな冒険を求めて、旅を続けることになると思う」
アルフレッドの答に、何か云いたそうにしていたリカルド。だが結局何も云わず、頭を大きく左右に振ると。
「皆さんと出逢え、そして共に闘えたこと、本当に光栄でした。ありがとうございます」
そう云って、右手を差し出すリカルド。
「それは僕らの方だ。ありがとうリカルド。また逢おう」
差し出された手を、固く握るアルフレッド。
そうして一行はリカルドに見送られ、ベルリオース島を後にしたーーーー。
数日の航海の後、無事エクナ島に到着したアルフレッドたち。
前回ベルリオースに初上陸した際は、国の内情についての調べが足りなかったため、入国即逮捕の憂き目を見ることとなった。
そのため今回は事前に少し、ロベールについての情報収集をしておこう、と云うことになった。航路の中継点であるエクナ島には、3国の様々な情報が集まる。バートの腕の見せ処だ。
船乗りたちからの情報に依れば、一行がこれから向かおうとしているリトの街とその周辺は、ロベールの中でも比較的治安の良い一帯らしい。
なので多少遠回りにはなるが、一行はリトの街に程近い小港に行き先を変更することにした。航路が延び、多少船賃がお高くなるが、そこからなら1日とかからずリトの街に到着できる。
海賊や海の魔物に襲われる、と云ったこともなく、航海は穏やかなものだった。カシアは不満そうではあったが。
「そう云えばさ、四島すべての神殿を統べる最高司祭と云うのは、どう云った方々なんだろう?」
穏やかな船上。アルフレッドが思い立ったように疑問を口にする。
「最高司祭スか? オイラの知ってる範囲で良ければ、お教えしましょうか?」
「知っているのかい? 是非頼むよ。バート」
アルフレッドの要請に応じ、バートが各神殿の最高司祭についてのレクチャーを始める。
「まずはガヤン神殿スけど……。アルフ気付きましたか? エクナ島に、ガヤンの中央神殿があるんスよ」
「中央神殿? いや、気付かなかった」
「観光地としてはそれなりに有名なんスけどね。エクナの中央神殿は各国に対し絶対中立の立場を宣言してるんス。なので、国際会議やら条約の調印式やらの舞台に使われるんスよ。で、ここの神殿長が」
「ガヤンの最高司祭、と云うことだね?」
「そうっス。神殿は基本各国の内政には不干渉、が不文律っス。なのでガヤンの最高司祭は国際会議の見届人だったり、条約締結の立会人を頼まれたりするっス」
「なるほど」
「次は、シャストアの最高司祭っスが……。この方が謎に包まれてまして。ひとつところに留まらずいっつも放浪してるらしくて。何処に居るか判らない。おまけに男か女か、若いのか高齢なのか、容姿や名前まで不明ときています。あ、勿論他の最高司祭たちはご存じらしいんスが……。なんか逢うたびに姿形が異なる、なんて噂話もありますね」
「シャストアさま同様、変幻自在なのかもね」
「あり得るっスね。で、次っスが……。エクナ島には、サリカとアルリアナの合同神殿があるんスよ」
「合同神殿?」
「ええ。ここの目的は戦争や災害の被災者を国境無関係に支援することっス。サリカ神殿は傷病者の治療、アルリアナ神殿は困窮者の生活支援や、心の傷を負った人のケアなんかっスね。で、ここの神殿長が」
「サリカとアルリアナ、それぞれの最高司祭、ってことだね?」
アルフレッドの言にバートは頷くと。
「次は、都市伝説みたいなモンで眉唾なんスけど……。エクナ島の何処かに、<無限図書館>と呼ばれる施設があるらしいんスよ」
「<無限図書館>?」
「ええ。なんでも世界中のありとあらゆる書物の写本が収蔵されているらしいっス。その名のとおり内部は無限の拡がりを見せていて、入るたびに内部構造が変わるとか、入っている最中にも内部構造が変わるとか、色々な噂があるっス」
「凄い話だね。その<無限図書館>の場所は判るのかい?」
「いえ。噂に依ると<図書館>はこのルナル世界の何処でもない異空間にあるらしくて。本当に調べ物を必要とする人の前に入口が現れるらしいっス。ただ、さっきも云ったとおり内部はさながら迷宮(ダンジョン)の様相を呈してまして。お目当ての本を探すのは至難の業っス。この<図書館>の、司書の力でも借りない限りは」
「その<無限図書館>の司書って云うのが、ひょっとして……?」
「そうっス。ペローマの最高司祭っス」
アルフレッドの閃きに頷くバート。
「この方も正体不明でして。シャストアの最高司祭と並んで最も逢い難い最高司祭と云われてるっス。ま、<無限図書館>の話がフカシだったとしても、何処かで隠遁生活を送っているのは間違いないでしょうね」
「なるほど……」
「お次はタマットの最高司祭スけど……。この方のことはもうご存じっスよね?」
「ああ。こないだ僕らが訪れた、<魔神封印の螺旋塔>の管理者……だよね? 結局お逢いすることは出来なかったけれど」
バートは頷くと。
「次はジェスタっスね。エクナ島最大のジェスタ神殿は、『エクナ中央防災センター』と呼ばれているっス」
「防災センター?」
「はいっス。知ってのとおりエクナ島は火山島っス。あの島特有の温泉資源も、その恩恵だったりする訳っスが……。でもってエクナの火山は現在も活動中の活火山っス。なので、その火山活動を監視・警戒しているのが……」
「『エクナ中央防災センター』ってことだね。ひょっとして、そこのセンター長がジェスタの最高司祭かい?」
「そうっス。ただ噂に依ると、ここのセンターが警戒しているのはエクナの火山活動だけじゃないらしくって……」
「と、云うと?」
「これも噂の域を出ないんスが……。エクナ火山の地下には巨大な爬虫人の巣(コロニー)があるらしいんスよ。奴らは地上侵略を虎視眈々と狙っているらしくて……。しかも、奴らの魔法だか元素獣だか元素神だかなら、火山活動をも自由に操れるとかなんとか……」
「つまり、センターは火山活動だけじゃなく、爬虫人の動向をも警戒している、と?」
「そう云うことっス。で、最後の最高司祭ですが……。リャノの最高司祭はシスターン漁業協同組合の組合長っス」
「シスターン漁業協同組合……。あれ? それって確か、アドとサムの……?」
アルフレッドは、かつてシスターンで起きた不審船事件でともに調査隊として活動した漁師の兄弟を思い出していた。
ふたりは双子の兄弟で、ともにシスターン漁業協同組合に所属していた。そしてガヤン神殿からの協力要請に応じて、リャノ神殿の代表として派遣されてきたのだ。
「そのとおりっス。リャノの最高司祭はアドとサムのボスっス。そしてふたりの大師匠でもあるっスよ」
アドとサムはともに鍛え抜かれた肉体を持ち、そして独りで妖獣ガンテ1体を相手取るほどの人間離れした戦闘能力を誇っていた。その2人をして若輩者扱いをする最高司祭とは、果たしてどれほどの強さなのだろうか。
「噂では八大司祭中最強とも、人類最強とも云われているらしいっス」
そんなアルフレッドの思考を読んだのか、バートがリャノ最高司祭の評価について教えてくれる。
「以上がオイラの知る最高司祭の方々の情報っス
。ま、所詮噂なんで眉唾の話も多かったっスけどね」
「ありがとうバート。とても参考になったよ」
「オレは、そのリャノの最高司祭と闘ってみたいがな」
これまでバートの話に、退屈そうに欠伸をしていたカシアだったが、リャノ最高司祭の最強と云うくだりには興味を惹かれたらしかった。
そんな穏やかな海を征くこと数日。とうとう目的地であるロベールの小港街に到着した。
今回は即逮捕、などと云ったアクシデントに見舞われることもなく。
街で必要な物資を調達した一行は、乗合馬車でリトの街へと。
昼前には港街を出発できたため、トラブルが無ければ夕刻前にはリトの街に到着できるらしい。
「ロベールは随分治安の良い国なんだね」
港街そしてここまでの道中。馬車に揺られながらアルフレッドが率直な感想を漏らすと。
「ロベールの治安は地域差がありますよ。ロベールはその領土の広大さゆえ、事実上地方領主による分割統治みたいなモンスから。地方の治安はそこの領主次第スね。この辺りは、良い領主に治められているようっスね」
バートが教えてくれる。
「なるほど……」
やがて前方に、リトらしき大きな街の全景が見えてきた。
特筆すべきは街を取り囲むようにして広がる一面の花畑だ。ゆうに街を数倍する面積である。
鮮やかな色彩が眼を楽しませてくれるが、それだけではない。むせかえるような芳香が、ここまで漂ってくる。
ただ、決して不快な香りではない。ここまで濃密であるにもかかわらず、気分を和らげ気持ちを落ち着ける、万人受けする香りだ。
リトの街は花の栽培と販売が主要産業と聞く。商品としてのこれらの花々は、先人たちの永きに亘る努力の積み重ね、その成果なのだろう。
美しい光景を楽しんでいるうちに、馬車はリトの街へと到着した。花畑は観光名所としての一面も持っているらしい。リトは、一大観光地でもあるのだ。
観光案内所で<スター・アイテムズ>について訊いてみる。街でも名物(?)の店らしく、場所はすぐに教えて貰えた。
一行はとりあえず<スター・アイテムズ>を目指す。店はすぐに見付かった。大通り沿い、<鍛冶屋マックスの店>の隣。案内所で教えて貰ったとおりだ。
「ごめんくださいーーーー!!!?」
挨拶をしながら、店の暖簾をくぐるアルフレッド。だが、彼がそこで眼にした光景はーーーー!!
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