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【ベ叛5】ベルリオース叛乱篇⑤

抵抗軍の戦士たちが、武器を手に<自動機械人形(オートマトン)>に立ち向かう。がーーーー。

がぃぃぃぃぃぃん!!

装甲が硬過ぎて歯が立たない。文字通り、武器の刃が通らない! そして!

「ぐああああ!!!!」

逆に人形の一撃によって弾き飛ばされる。重傷を負う。

攻撃を躱しながら、フルーチェは対抗策を考え続ける。

(最も厄介なのはあの機動性。足を止めると云う発想は間違ってない!)

フルーチェは、人形の進路上の床面に《べたべた(グルー)》を仕掛ける。がーーーー。

べりべりべりべりべりべり!!

<自動機械人形>は、その重量とパワーに物を云わせ、力尽くで粘着面を引き剥がしながら進行してくる。移動に殆ど支障が出ていない。

(《べたべた》では止められないか。床面を破壊して段差を作ることが出来れば)

……いや。それも難しいだろう。この工場の床面は<自動機械人形>の重量や滑走に耐え得るほど頑丈だ。簡単に破壊できるとは思えない。武器の方が壊れるのがオチだろう。

などと思考を巡らせていると、気付いたら<自動機械人形>がフルーチェの目前にまで迫っていた!

(やばっ!!)

ーーーーと、その時。フルーチェを庇おうとでも云うのか、ヨクのパートナー動物であるコビトザルのトピが、ヨクの肩を離れ一直線に<自動機械人形>の方へ向かって行った!!!!

「キィ!!!!」

「危ない!! トピ!! 戻りなさい!!!!」

悲鳴のような声を上げるフルーチェ。がーーーー。

その鉄塊の如き拳で、トピが叩き潰される未来を想像してしまうフルーチェ。が、人形はトピに眼もくれることなく、フルーチェを追跡し続けている。

(ーーーー!?)

トピが人形の肩まで登り、その小さな両拳でぽかぽかぽかぽかと叩いても人形は見向きもしない。

(どう云うこと? 工場詰めのドワーフが<自動機械人形>の攻撃対象とならない以上、何らかの形で敵味方識別をしているのだとは思っていたけど……。ここのドワーフを記憶して、それ以外の者をすべて攻撃……と云う訳ではないのよね?)

そうだとすると、トピが攻撃対象にならない説明がつかない。

(……そうか。野生動物にいちいち<自動機械人形>が反応して、攻撃していたらそれは警備上問題よね。だから人形への命令は、『登録外の<源人の子ら>を発見したら攻撃せよ』、ってところかしら?)

フルーチェが思案を巡らす。と、そこへ。

「トピ!! 戻りなサイ!!」

ヨクが叫ぶ。それを聞いたトピは、慌てて人形の肩から降り、ヨクの元まで走ってくる。

「ヨク、頼みがあるの」

フルーチェがヨクの側まで走り、『頼み』について耳打ちする。するとそれを聞いたヨクはあからさまに嫌そうな顔をするが。

「大丈夫。今のを見ていたでしょ? 安全は保証するわ」

とのフルーチェの言葉に、仕方なく頷く。

……小さな革製の鞄を背中に背負い、再び一直線に<自動機械人形>の元へ走るトピ。それを心配そうに見送るヨク。

……やはり思ったとおり。人形は自分の方に真っ直ぐ向かって来るトピに見向きもしない。敵と認識していないのだ。

トピは人形の躰を登る。そして腰のジョイント部分にまで辿り着くと、おもむろに背中の鞄を開け、中身を取り出す。

鞄の中身。それはデルバイ神殿製の爆弾であった。

トピはそれを、人形のジョイント部分に押し込む!

「良くやったわトピ! 戻りなさい!」

フルーチェのその声に、慌てて人形の躰から降り帰って来るトピ。フルーチェは既に、呪文の詠唱動作に入っていた。

「ーーーー《発火(イグナイト・ファイア)》」

フルーチェが指を弾くと同時。人形に仕掛けられた爆弾が、爆発したーーーー。

ーーーー正面から爆発の威力に晒されたのであれば、あるいは耐えられたのかも知れない。

だが、躰の内部からの爆発は、<自動機械人形>の五体を完全に破壊した。

「ありがとうねトピ。勝てたのは、貴方のお蔭よ」

「キィ」

フルーチェの言葉に、誇らしげに胸を張るトピ。

……とは云え、<自動機械人形>は思った以上の強敵だった。たった1体を相手に大勢の負傷者を出した。想定以上の被害だ。

「……ここからは三手に分かれましょう。私とヨクはこのまま工場の中枢を目指すわ。重傷者は工場の外へ避難して待機。護衛付きでね。残りのまだ闘える者は、他の班の支援に回ってちょうだい。もしも別の<自動機械人形>に遭遇していたら、きっと苦戦している筈」

「はい!!」

フルーチェの指示に的確に動く戦士たち。

(<やわらか斬り>を保有しているビナーク王子の第1班はともかく、後の2班はそうとう苦しんでいる筈よね)

不安を押し殺すように、それぞれの目的へと散る第4班であったーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

工場の外縁を大きく回り、海側に直接開けた工場搬入口へと到着したアルフレッドとバート。

「……ここに見張りは居ないね。まあ、船が直接乗り入れる口だものね」

「階上に塔がありましたからね。見張りはそっちに居るんスよ。そもそも海から来る敵なんて早く発見しないと意味無いスからね。砲撃されちまうっス」

「やっぱり船があるね。きっと物資輸送用だろうけど……。さて、これを破壊するだけなら話は簡単なんだけど」

そう云ってアルフレッドは、フルーチェから借り受けた爆弾を確認する。

「オイラたちはここの見張りも何とかしないといけないスからね。じゃあ、作戦通りいきますか」

「うん」

頷いてアルフレッドは、フルーチェから借り受けたもう1つのアイテムーーーー魔力石(パワーストーン)を握り締めたーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「ん…………!?」

最初にその異変に気付いたのは、工場上部の塔から海の方を見張っていたドワーフ兵だった。

「おい、あれ! 俺たちの船じゃないか!?」

工場内に係留していた筈の物資輸送用の船。今、その船が、遥か沖の方へと流されていっていた。

「何処の莫迦だ!? きちんと船を係留するのを忘れた奴は!?」

慌ててドワーフ兵たちが、階下の搬入口へと階段を駆け降りて行く。

「そんな!? 俺は確かに係留した!!」

「云い訳は良い!! それより今は船だ!!」

果たして搬入口に辿り着くと、そこにある筈の船の姿が無い。もぬけの殻だ。

「くそ!!!!」

ドワーフ兵たちは次々に、手漕ぎ用の小さなボートに乗り込む。船を追い掛ける気だ。

かくしてドワーフ兵たちは、小さなボートで大海へ向けて漕ぎ出した。目指すは漂流する輸送船だ。

徐々に近付く輸送船。だがそこで、ボートに乗り込んだドワーフ兵の1人が気付いた。

「なんだこれ?」

雑貨の間に隠すようにして、置かれていたその物体を引っ張り出すと。

バートの細工により導火線の長さを調整された、それは爆弾であった。

「爆弾だ!!!! 爆発するぞ!!!!」

焦ったドワーフ兵たちは爆弾を海に投げ込むと云うごく当たり前の発想にすら思い至らず、全員がボートから海に飛び込んだ!

直後。

ぼぅぅぅぅぅぅん!!

爆弾が爆発し、ボートが木っ端微塵に四散する。更に。

爆発の衝撃は空気を揺るがせ、その波動を受けた輸送船は陽炎のように揺らぎ、消えた。

「げ……幻覚?」

ドワーフ兵たちの殆どは、爆発の衝撃で意識が朦朧としぷかぷかと水に浮いていた。

辛うじて意識のあった1人がボートの切れ端に掴まりながら輸送船が消えるのを見て、そう呟いた。やがて、意識を失う。

彼らはだいぶ沖まで来てしまった。意識を失っている間に、更に遠洋へと流されるだろう。

いずれにせよ、すぐには工場に戻って来られない筈だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

工場の搬入口から、ボートが爆発し輸送船の幻覚が消えるのを確認し。

「どうやら上手くいったようっスね、アルフ」

バートが親指を立てる。

「そのようだね」

アルフレッドが大きく息を吐き、魔法を解除する。すると搬入口内にドワーフ軍の輸送船が出現する。

ーーーーつまり、こう云うことだ。アルフレッドは2つの幻覚を用いてドワーフ兵たちを翻弄した。

1つは工場内に停泊する輸送船だ。上から周囲の風景を再現した幻像をかぶせ、あたかもそこに船など無いかのように見せた。

もう1つは勿論沖に流れていった輸送船だ。こちらは工場内から見張りを追い出すためのトラップだ。

「さて。見張りは追っ払ったっス。あとはこいつを沈めれば、任務完了っスね」

バートがそう云って荷物の中から爆弾を取り出し、輸送船の船底に仕掛けた。

まもなく爆弾は爆発し、輸送船の船底に大きな穴が開いた。これでこの船は航行不能だ。

「それじゃあ、他のみんなに合流しようか」

そう云いながら、工場内へと進むアルフレッドとバート。

ちょっと油断したふたりが、通路の曲がり角で遭遇したもの。それはーーーー。

「ーーシンニュウシャ、ハイジョ」

脱兎の如く逃げ出すふたり。それを猛追する鋼鉄の人形。

「凄い速度で追って来るっス!!!! 何スか!!!? あれ!!!!」

「たぶんフルーチェさんが云ってた<自動機械人形>だよ!! アイアンゴーレムを改造したって云う!!」

「改造!? ただのアイアンゴーレムだって勝てないっスよ!!!! ふざけろちくしょう!!!!」

直線を移動する人形の速度は速い。振り切れない!

「何なんスかあいつ!? 滑りながら追って来るっスよ!!」

「あの速度、ひょっとして曲がり角で曲がり切れないんじゃ!?」

「なるほど!! 曲がりながら逃げれば良い訳っスね!?」

ふたりは次の曲がり角を、直角に曲がる!

だがーーーー!

ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

人形は速度を落とさず、ドリフト走行で角を曲がって追い掛け続けて来た!

「そんなんアリかよ!!!?」

「どのみち僕らの武器じゃ傷付けられそうにない!! 逃げるしかないよ!!」

「幻覚や眠りの魔法も、効きそうにないっスからね!!」

そうして命懸けの鬼ごっこを続ける、アルフレッドとバート。

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