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【ベ叛7】ベルリオース叛乱篇⑦

「お前たちが居ると云うことは、ギルスやガイアーの奴も来ているのだろう? 奴らはどうした?」

カシアが周囲を見回しながら訝しげにふたりへ問い掛ける。

「いや。ベルリオースに来たのは僕たちふたりだけなんだ」

アルフレッドが答えると。

「お前たち2人だけ? ならこの鉄屑の相手は難儀だったのではないか? 何せお前たちお得意の駆け引きが、通用しなさそうな相手だ」

そう云ってカシアが、<自動機械人形(オートマトン)>の残骸を蹴飛ばす。

「そうなんスよ! ホント死ぬトコだったっスよ! 助かりました、カシアの姐御」

バートが調子良く答える。

「ここに居ると云うことは、お前たちは抵抗軍と関わっているのか?」

カシアが問うと。

「カシア、君は抵抗軍のことを知っているのかい?」

アルフレッドが逆に質問で返す。

「云わなかったか? ウォルターにシスターンへ連れて来られる前、オレはベルリオースの抵抗活動に参加していたと」

「なんと、そうだったのかい? で、ここへはどうやって?」

「大金持ちで情報通の知り合いがベルリオースに居てな。オレがシスターンに渡った後のことはそいつを脅…………情報提供して貰った。この大剣(バスタード・ソード)も、そいつの所蔵品の中でいちばん硬くて頑丈だと云うんで、奪…………譲り受けたんだ」

「その人、ほんとうに友だちなんだよね!?」

会話の随所に見え隠れする不穏当な発言に、思わず確認するアルフレッド。

「勿論だ。何を疑う? シュトラと云ってな。

闘技場の所有者であり見世物の主催者、そして賭け試合の胴元でもある。オレも昔修業を兼ねて参加していてな。随分稼がせてやったものさ」

「さっきから2人の友情につながるエピソードが1個も出てこないんだけど、ほんとうに大丈夫!?」

もう悲鳴に近いアルフレッドのツッコミ。

そんなアルフレッドの反応を心底理解出来なさそうな表情で首を傾げるカシア。一体、何を疑問に思っているのかさっぱり判らない、と云った様子だ。

「とまあ、親友のシュトラにここ最近の抵抗軍の動向について吐かせ…………教えて貰ってな。今はこのドワーフ軍の秘密工場への破壊工作の最中だと聞き、急ぎ駆け付けた訳だ」

「ついに親友って云ったよコイツ。なんでその人抵抗軍の内情にそんなに詳しいの!? 工場襲撃って、ついこの間決まった秘密作戦だよ!?」

「アイツは情報通だからな。それに金で買えるものなら基本何でも手に入れる奴だ。さて、こんなところで立ち話もなんだ。この作戦、指揮ってるのは誰だ?」

「それならフルーチェさんだよ。ビナーク王子も参加しているけど、作戦立案は彼女だ」

「あの女狐が来てるのか? なら丁度良い。アイツに訊けば大体の事情は判るな。よし、奴と合流しよう。居場所は判るか?」

「いや。この工場の何処かで闘ってるとは思うけど。僕たちも探していたんだよ」

「戦闘の気配を探せば良いんだな? それなら得意だ。ふたりともオレに付いて来い!」

「がってんだ、姐御!」

ーーーー程なくして、工場内の全班が合流した。

再会の挨拶や積もる話は後回しにして、まずは工場中枢である動力部の破壊だ。

工場内に試験配備された試作型<自動機械人形>5体をすべて破壊し終えた彼らは、ありったけの爆弾を用いて工場動力部及びライフラインを完膚なきまでに破壊した。

これで、ドワーフ軍への当面の武器供給は完全に断つことができた。そして既にフルーチェの頭の中では、王都での最終決戦に至るまでの青写真が、描かれつつあったーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「まだ生きてたか女狐。随分待たせちまって悪かったな」

「アンタこそ無事で何よりよゴリラ女。また逢えて嬉しいわ」

そう云ってお互いがっちりと腕を交差させるフルーチェとカシア。

「お二人は、旧知の仲だったのですね」

そんな2人の光景を微笑ましく見つめながら、アルフレッドが問い掛ける。

「それはこっちの台詞よ。まさか貴方たちがゴリラ女と知り合いだったとはね」

呆れたように云うフルーチェ。

「シスターンで邪術師に自由を奪われたオレを助けてくれたのがこいつらでな。借りがあるんだよ」

「それにオイラたちが逢いに来た知り合いと云うのが、姐御のことなんスよ」

カシア、そしてバートが発言する。

「アンタの自由を奪うほどの邪術師!!!? 一体何者なの? まさか、女王の手の者じゃあ……!?」

眼を丸くするフルーチェに対し。

「いや。オレの誘拐はドワーフ軍とは無関係だ。それにそちらは解決済みだ。ここに居るアルフレッドとバート。そしてその仲間たちのお蔭でな」

「このゴリラ女を手玉に取るほどの邪術師を、斃したと云うの……!? アルフレッドにバート、ほんとうに貴方たちは一体、何者なの?」

フルーチェの、アルフレッドとバートを見る眼が改めて変わる。

「僕らじゃないよ。残りふたりの仲間が頼りになったんだ」

「そうそう。ガイアーのアニキは戦士としてどんどん成長していったし、ギルスは凄く頭の切れる魔術師っス」

「謙遜するな。お前たちの闘いぶりも見事だったぞ」

アルフレッドとバートは否定したが、カシアがふたりの能力を評価する。

「ありがとうカシア。君はこの後抵抗軍に戻るのかい?」

アルフレッドが訊ねると。

「ああ勿論だ。どうやら最終決戦が近いらしいからな。闘いの終わりを見届けさせて貰うさ。最前線でな」

「なら僕たちも引き続き一緒に闘うよ。乗り掛かった船だし、カシアだけでなくフルーチェさんやリカルドももう仲間だからね」

「ありがとうアルフ。とても心強いよ」

アルフレッドの言に、感謝を述べるリカルド。

「そう云うことなら、私もさん付けは結構よ。是非フルーチェと呼んでちょうだい」

「判った。改めてよろしく頼むよ。フルーチェ」

「よろしく頼むっス」

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ここからは最終決戦へ向けてのカウントダウンが始まる。この場に居る全員が、フルーチェの計画通りに動くことで納得した。

まず、クロイセ率いる抵抗軍ラグアト支部。彼らは全員ラグアトに戻り、怪我人の治療をするとともに、都市の守りを固める。叛乱を知ったペリデナ女王が、街の奪還のため兵力を差し向けることが確実だからだ。

リカルド率いる抵抗軍クラスタ支部も同様だ。ただクラスタは工場から最も近い街と云うこともあり、彼らには囚われていたオキアの民の一時保護もお願いすることにした。

オキアの民はその動物制御能力に眼を付けられ、女王の命令によって囚われていたらしい。能力を効率的に戦力として運用するため、工場にて様々な実験を行う予定だった、とのことだ。機械技術との組み合わせを想定されていたらしい。

実験が本格的に開始される前に抵抗軍が救出したらしく、具体的な実害が発生していなかったのが不幸中の幸いであった。

抵抗軍に救出されたことで、彼らオキアの民はヨクの話に耳を傾けてくれた。そしてこれまでは関心を持っていなかった王国の内情、つまり現在オキアの民を迫害しているのは政権を簒奪したドワーフ軍であり、人間の王は従来のようなオキアの民との平和的共存を望んでいることと、人間の王政府が復権した暁には、オキアの民の自主独立と自由を保障したいと考えていることに理解を示してくれた。

囚われていたオキアの民のリーダー格が部族へと帰還し、部族長たちにヨクから聞いた王国に関する話を伝え、そのうえで人間の抵抗軍に助力するよう説得してくれるとのことだ。

作戦の詳細は追ってフルーチェから連絡することとし、抵抗軍諸氏は一度それぞれの拠点へと帰還したーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

鉱山都市ラグアト。港湾都市クラスタ。そして虎の子の武器製造工場。ドワーフ軍にとって3つもの重要拠点を失ったと云う報は、すぐにペリデナ女王の耳にも届くところとなった。

かつての女王は思想的に偏ってはいつつも理知的なリーダーであった。

だが今の彼女は怒りの抑制が利かず、癇癪(ヒステリー)に任せて件の3拠点への派兵を決定した。どれほどの流血を伴おうと、必ず叛乱分子を殲滅し軍による支配を取り戻せと云うのだ。

……フルーチェの思う壺であった。彼女は、この時を待っていた。

この派兵は、王都の中央軍から人員を割くものだ。つまり、それだけ王都を守る戦力が手薄になる。布石その1だ。

更にフルーチェはこの日のために、国内主要都市の抵抗軍支部との間に魔術による通信網を確立していた。魔法の通信符を配布済なのだ。そのための時間はじゅうぶんにあった。

それら通信網を通じて、各支部に一斉蜂起の決行を依頼した。ただし目的は街を軍の支配から解放することではない。各都市のドワーフ軍をその場に釘付けにすることだ。

万一王都で『何か』があって、中央から各都市軍へ援軍の派兵要請があっても、兵を動かせぬよう足止めする。布石その2だ。

そして各都市での決起と合わせ、王都でも抵抗軍による過去最大の攻勢が始まる。当然ドワーフ軍は総力を挙げてこれを潰しにかかるだろう。だが、これすらも陽動だ。布石その3である。

ほんとうの決戦部隊は最精鋭のごく少数。女王すら知らぬ、かつての人間の王族の王城からの脱出路を逆に辿り、直接城内へと進攻する。

そして守り手の殆ど居なくなった女王と直接対峙しこれを撃破する。フルーチェの王手(チェックメイト)だ。

決戦部隊に選ばれたのは、ビナーク王子、レクト、ヨク、カシア、アルフレッド、バート。レクトの部下たる抵抗軍本部の精鋭騎士たちが数名。

最後はもちろん、フルーチェだ。

「キィ!!!!」

「もちろん忘れてないよ。トピも決戦部隊の立派なメンバーだよ」

「キィ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

かくして、最終決戦の火蓋は切って落とされた。

地下通路をひた走る決戦部隊一行。事前に仕掛けた数々の布石が功を奏し、殆ど何の障害もなく城内への侵入に成功した。城を守るべき兵士の多くは、蜂起した抵抗軍の対処にかり出されている。

それでも途上現れる女王直属護衛軍の近衛兵との対決を騎士たちに任せ、女王の謁見の間を目指し走り続ける一行。

謁見の間の大扉の前には、長槍を持つ1対の門兵たちが守りを固めていた。そんな彼らをバートの魔法が眠らせると、カシアが重い両開きの大扉をいとも容易く押し開ける。

ーーーー果たして謁見の間にて待つは、頭頂から足先まで、板金鎧で完全武装したペリデナ女王その人であった。

どうやら王都で暴れる抵抗軍(陽動部隊)を殲滅せしめるため、自ら陣頭指揮に立つべく準備をしていたようだ。

「何奴ぞ!? この下郎めらが!! 一体何処から忍び込んだ!?」

女王の一喝。だがそれに気圧されることなく、宝剣<やわらか斬り>をすらりと抜いたビナーク王子が高らかに宣言する。

「我が名はビナーク! 王権簒奪者ペリデナよ! 国の正しき秩序と国民の安寧のため、正統の王たる我が下へと、今こそ王権を返して貰うぞ!」

すると女王は。

「ビナークだと? そうか貴様が、売国の痴れ者どもの末裔か。これまで地蟲の如く地下に隠れ潜んでいたようだが、自ら我が前に姿を現すとは好都合。飛んで火に入る夏の蟲とはまさに貴様のこと。ここで貴様の命を確実に摘み取り、痴れ者の血統を絶やしてくれようぞ!!」

そう気勢を上げる。

すると騒ぎを聞き付けたのか、謁見の間の入口から幾人かの近衛兵が現れた。

「曲者か!? 一体何処から!?」

「そんなことより、陛下をお守りするぞ!!」

それを見たカシア、近衛兵たちの前に進み出ると。

「こいつらの相手はオレに任せろ。お前たちは、大将首に専念しな」

大剣(バスタード・ソード)を肩に担いだまま、そう宣言した。

「貴様! たった1人で我ら近衛兵隊を相手にできるとでも!?」

カシアの宣言を侮辱と捉えた近衛兵の1人がそう声を上げると。

「てめえらじゃ役不足だっつってんだよ! この三下!!」

逆にこれ以上ないほど侮辱された。

その様子に満足そうに微笑んだフルーチェが。

「頼んだわ。ゴリラ女」

「確かに請け負った。女狐」

力強いカシアの返答に、フルーチェたちは玉座の方へ振り返る。

そこには完全武装のペリデナ女王と、その傍に影のように付き従うローブ姿の老人が1人。ドワーフではないようだ。

(そうか。あれが戦術・戦略アドバイザーとして女王が外部から招聘したと云う、宮廷魔術師……!)

フルーチェが油断無くその姿を見据える。

するとアルフレッドとバートが魔術師の前に進み出る。

「カシアの云う通りさ。女王の相手は君たちがするべきだ」

「露払いはオイラたちに任せるっスよ」

「アルフレッド! バート! ……任せた!」

カシア対近衛兵隊。アルフレッドとバート対宮廷魔術師。ビナーク、レクト、ヨク対ペリデナ女王。そしてフルーチェは、すべての戦況を俯瞰できる位置に立つ。

謁見の間に今、3つの戦場が展開していたーーーー!

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