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【狩6】一狩り行こうぜ!⑥

<スター・アイテムズ>に入店したアルフレッドの目前に広がる光景。それは。

まずは滅茶苦茶に荒らされた店内だ。どうやら何らかの暴力行為か爆発でもあったらしい。綺麗に陳列されていたであろう様々な商品が、床一面そこかしこに散乱している。

そして2人の人物。ともに若い女性だ。ひとりが外傷をしているらしく倒れ、もう1人がそれを介抱している。

介抱している方の女性は半袖半ズボンで手足を露出させた、健康的で可憐な少女だ。髪を仔馬の尾状(ポニーテール)に結い上げ、活動的な印象を受ける。

良く見ると露出した手足は、程良く筋肉が発達している。小柄ながら、中々に鍛え上げられた肉体のようだ。

そして介抱されているもう1人の女性。その特徴的な髪と瞳の色から魔術師であることは一目瞭然だが、それより一際眼を惹くのはその服装だ。

一見するとメイド服を基調としているようだ。だが一般的なメイド服が首から上と手以外殆ど肌の露出が無いのに対し、彼女の衣装は半袖に短いスカート、大きく開いた胸元と、随分と肌の露出が多い。

髪型はいわゆる双尾の狐(ツインテール)。もう1人の少女同様小柄な身長だが、胸のサイズは随分と大きい。腰回りは細いが、全体的に豊満で女性的な肢体だ。

「大丈夫ですか!? 一体何が!?」

云いながら2人の許へ駆け寄るアルフレッド。魔術師の外傷の具合を確認する。出血はあるが、命に関わる重傷ではない。これなら自分にも治療できそうだ。

アルフレッドはシャストア高司祭になって覚えたての《大治癒(メジャー・ヒーリング)》の詠唱を開始する。不慣れではあったがどうやら成功したらしく、少女魔術師の傷が癒えてゆく。

「どうもありがとう。えっと、君たちは一体……?」

未だ気を失っている少女魔術師に代わり、ポニーテールの少女がアルフレッドに礼を云う。と、そこに騒ぎを聞き付けて来たらしいガヤン捜査官たちが駆け付け、一行は現場検証と事情聴取に巻き込まれるのだったーーーー。

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ガヤン神殿での事情聴取。アルフレッドたち3人は口裏を合わせ、観光のためリトを来訪したことにした。

そして土産物を物色すべくたまたま立ち寄った店があんなことになっており、少女魔術師が外傷を負っているのを見て治療を施していたのだと。

最初は事件への関与を疑われた3人であったが、ふたりの少女の証言により疑いはすぐに晴れた。そして事情聴取から解放された少女たちを含めた5人は一度、<スター・アイテムズ>へと戻ることにした。

店内は中々の散らかりようだ。復旧には骨が折れそうだ。

「無関係なキミたちを、こんな事件に巻き込んでしまってごめんなさい。えっと……?」

少女魔術師が頭を下げた後、まだアルフレッドたちの名前を聞いていなかったことに気付いて困惑する。

「僕はアルフレッド。見てのとおり、旅の吟遊詩人だ」

「オイラはバート。裏タマットっス」

「カシアだ。よろしくな」

三者三様の自己紹介をする。

「アルフレッドにバート、カシアだね……。ボクはミオ。魔術師だよ。一応この店の看板娘……かな?」

小首を傾げながら自己紹介する少女魔術師。

「あたしはミリィ。ミリィ・マキシマム。隣の<鍛冶屋マックスの店>の娘で、ミオとは幼馴染みで親友。ジェスタ信者だよ」

ポニーテールの少女も名乗る。

「ミオにミリィ。よろしく。ところでここはミオの店なのかい?」

アルフレッドの質問に。

「ううん。この店の持ち主はボクの師匠だよ。ボクはただの店員」

聞くところによると<スター・アイテムズ>のオーナーはミオの魔術師としての師匠で、名をレーナと云う。現在は街を不在にしているとのことだ。ちなみにミオの個性的(!?)で蠱惑的な服装は、100%師匠の趣味らしい。

「ミオは僕たちのことを無関係と云ったけど、実はあながちそうでも無いんだ。何故なら僕らは<スター・アイテムズ>を目指して、はるばる海を航ってきたんだから」

「!? どう云うこと!?」

アルフレッドの言に眼を丸くするミオ。アルフレッドは懐から封筒を取り出すと。

「この紹介状に詳しい事情が書いてある。まずは眼を通してくれないか?」

「判った」

そう云って封筒を受け取ったミオは開封し、中の書状を取り出すと黙読を開始する。と、脇から手紙を覗き見ていたミリィが。

「ドントー!? ドントーだって!? この紹介状を書いたのは、あの伝説の鍛治師ドントーなの!?」

と何故か興奮気味に訊いてくる。ミリィに大人しくて控えめそうな印象を抱いていたアルフレッドは面喰らいつつも。

「ミリィ、ドントー師を知っているのかい?」

と問う。するとミリィは。

「知ってるも何も……。ドントーさんはウチのお爺ちゃんの兄弟子なのよ」

「何だって!?」

今度はアルフレッドが頓狂な声を上げる。

聞くところによると、ミリィの祖父とドントーはうんと若い頃、同じ師匠の許で鍛治師としての修業を積んでいたらしい。

その後ミリィの祖父は故郷であるリトの街に戻って鍛治の店を開いた。そしてこの街で結婚し息子が生まれ、その息子を一人前の鍛治師として育て上げたのち店を譲り、現在に至る。

凡百の鍛治師であったミリィの祖父にとって、同門にドントーのような歴史に名を残す腕前の鍛治師が居たことは、誇りであったらしい。

「そのドントーさんの武器製作に必要な素材を手に入れるため、はるばるウチの店を訪ねてきてくれた、と云うワケか。そしてその必要な素材と云うのが…………<神の鳥>の羽ぇ!!!?」

今度はミオが素っ頓狂な声を上げる。

「そ、そうなんだ。貴重な品だとは聞いているが……。是非、譲って貰えないだろうか?」

ミオの反応に面喰らいながらも、アルフレッドが頭を下げる。だが、ミオは首を左右に振ると。

「ごめんねアルフレッド。残念ながら、それは出来ないんだ」

と、哀しげに断ってきた。

「な、何故だい!? やはりこれほど貴重な品を他所者に譲る訳にはいかない、と云うことかい!?」

アルフレッドが興奮気味に問う。ミオは両手を左右に振ると。

「あ、いや、違うんだ。キミたちがどうこうと云うワケじゃない。譲らないんじゃなくて、出来ないんだよ」

「……? どう云うことだい?」

いくぶん落ち着いたアルフレッドが改めて問うと。

「何故なら、今回の強盗事件で盗まれたのが、まさにその<神の鳥>の羽なんだ」

「何だって!? だって、ガヤン神殿では……!」

そう。先刻までのガヤン神殿での事情聴取に於いて、ミオはこう答えていた。強盗たちは覆面をしていたため正体は判らず、また犯人の心当たりもない。盗難の被害は調べてみないと判らないので、後日ガヤン神殿に目録を提出する、と。

「あれ、嘘なんだ。実は犯人も、その狙いも知っているんだよ」

「何だって!? 一体、どう云うこと!? 何だってガヤン神殿に嘘なんかを……!?」

アルフレッドは混乱している。

「一刻も早く事情聴取を切り上げて、犯人の後を追うためだよ。早くしないと手遅れになるかも知れないから」

「手遅れ……?」

頭の上に沢山の疑問符を浮かべるアルフレッドに、ミオは決意を込めてひとつ息を吐くと。

「……そうだね。ここまで巻き込んでしまって、しかも助けて貰ったキミたちには、本当のことを話しておこう。この店を襲った強盗犯の正体は<ブラッディ・シャーク>の狂信的邪術師、<スタージェン>」

「<ブラッディ・シャーク>!? それ、ホントなの!?」

ミオの上げた名に、ミリィが誰よりも早く反応する。

「本当だよ。自分で名乗ってた」

ミリィに対しミオが答える。

「<ブラッディ・シャーク>……?」

その名にぴんときていないアルフレッド。バートの顔を見るも、彼も首を左右に振っている。

「君たち、<ブラッディ・シャーク>を知らないのか? あの有名な海タマットを? 他の国では、あまり知られていないのかな……?」

アルフレッドの反応にミリィが驚いて問う。

「海タマット……?」

聞き慣れない単語に、今度はバートが疑問符を浮かべる。

「海を拠点に活動する闇タマット。だから海タマット。平たく云えば海賊団だね。<ブラッディ・シャーク>は、ロベールでも最大規模の犯罪組織だったんだ。国の正規軍である海軍とも正面切って渡り合っていてね。『国家の敵』とまで認定されたんだ」

「『だった』……? と云うことは、今は違うのかい?」

アルフレッドの疑問に。

「そう。ある1人の騎士見習いの登場と活躍をきっかけに、首領はじめ幹部連中の殆どが逮捕か処罰されたからね。事実上壊滅したと云って良い。ただ、全滅したワケじゃない。残党は今も各地に潜伏しているんだよ」

ミオが答える。この場合の処罰とは、戦闘の過程で殺害したと云うことだ。

「この店を襲った<スタージェン>……だったっけ? そいつも残党の1人、と云うことかい?」

「そう云うコトだね」

アルフレッドの言葉に頷くミオ。

「奪われたのは<神の鳥>の羽だけっスか? 密売して活動の資金源にでもするつもりっスかね? でもだとすると、他の商品に眼もくれなかった理由が判らないっスけどね」

バートが頭を捻る。

「あ。<スタージェン>の狙いなら判ってる。奴は羽を媒介に儀式魔法を行って、<神の鳥>をこの島に喚び寄せるつもりなんだ」

ミオが答える。

「そうなの!? どうして判ったの!?」

驚くミリィが訊ねると。

「本人がそう云ってた」

「……素性や目的をぺらぺらと明かして、その<スタージェン>って奴は莫迦なのかい?」

アルフレッドが呆れながら訊ねると。

「……まあ本人は幹部でも何でもない、三流以下の邪術師だね。ボクが不覚を取ったのも、完全に不意を衝かれたからだし」

「<神の鳥>を喚んでどうするんスか? 魔法で支配して、仲間たちの復讐にでも使う気っスか?」

バートの疑問。

「いや。<神の鳥>を支配なんて不可能だよ。ただ喚ぶだけさ」

「喚ぶだけ? それじゃ、何の役にも立たないじゃないか?」

アルフレッドのその言に、ミオとミリィ、ふたりは顔を見合わせると。

「キミたち、ひょっとして<神の鳥>が何なのか知らないのか?」

そう問うてきた。

「百年に一度、この島に飛来する巨大鳥……と訊いているけど?」

アルフレッドが、ドントーに訊いた話を答えると。

「巨大、なんて一言で云い表せるレベルじゃない。その羽ばたきで建物が吹き飛び、着地で地形が変わる。そう云うレベルの大きさだよ」

「たとえ<鳥>の側に悪意や害意がなくとも、ただ飛来するだけで島全体に大きな災厄をもたらす。それが<神の鳥>なんだ」

ミオとミリィの発言に、ごくり、と唾を呑み込むアルフレッド。

「<神の鳥>は正確に百年に一度、ロベールに飛来する。だから飛来期が近付くと、時の王は災害に備えるのさ。飛来する場所は毎回大体同じらしいから、島の離れた地域に国民を避難させたり、建物の地下階を整備したり、水や食糧の備蓄を始めたり」

「エクナ島に別荘や別宅を持ってる上級貴族なんかは、とっととロベール島を脱出してしまうみたいだしね」

「そうなのか……」

自分の認識の甘さを思い知らされるアルフレッド。

「じゃあ、全く想定していない時期に突如<神の鳥>が飛来したりしたら……」

アルフレッドの想像に、ミオは頷きながら。

「国が滅ぶ。その可能性もあるよ。<スタージェン>の狙いは、怖らくそれだと思う」

「大変じゃないか。それならなおさら、ガヤン神殿の力も借りた方が良いんじゃあ……?」

アルフレッドの意見に、だがしかしミオは首を左右に振り。

「この街の領主とその側近は話の判る人でね。この話をすればすぐにでも動いてくれると思うんだけど、残念ながら今は2人とも街を不在にしているんだ。そうなるとガヤン神殿では手続きだなんだと動くのに腰が重過ぎる。しかも<ブラッディ・シャーク>の関与を知ろうものなら対応について中央政府にお伺いを立てる可能性だってある。そんなものを待っていたら本当に手遅れになってしまう」

「それでか……」

アルフレッドはガヤン神殿に於けるミオの対応の意図をようやく理解した。

「それで、その<スタージェン>って奴は、本当に<神の鳥>を喚び寄せることが出来ると思うっスか?」

バートの問にミオは。

「……いや、無理だと思う。さっきも云ったとおり<スタージェン>は、幹部でも何でもない只の雑魚だ。アイツ程度にそんな真似が出来るならとっくに他の邪術師がやっていて、この国は滅んでると思う」

「だったら、そんなに慌てることは無いんじゃ……?」

「とは云えそれはあくまでボクの希望的観測だ。もしもそんなボクの勝手な思い込みで奴を放置しておいて、結果本当に<神の鳥>を喚ばれでもしたら眼も当てられないでしょ? やっぱり奴を止めて、羽を取り戻さないと」

「そうは云うが、そいつの現在の居所は判るのか?」

今まで黙って皆のやり取りを聞いていたカシアが、初めて口を開く。

「大丈夫。魔法で追跡する手段があるんだ」

と、ミオ。

「あ。ひょっとして盗まれた羽に、追跡の魔法か何かが掛けてあるんじゃ……?」

「いや。羽は魔法を寄せ付けないんだ」

「どう云うこと? <神の鳥>の羽には魔法を打ち消すような力があるのかい?」

アルフレッドの度重なる疑問に。

「そうじゃないんだ。<神の鳥>はその圧倒的な質量と魔力量で、他のあらゆる力を寄せ付けないんだ。例えて云うならそうだね……。<天空の龍の島>くらい巨大な岩が頭上から降ってきたとするよ。その岩を《完全障壁》で防げると思うかい?」

ミオの問い掛け。

「無理……だね。いかに物理存在を完全に遮断する魔法でも、魔法ごと押し潰されてしまう」

「そうだね。そして羽はそんな<神の鳥>の圧倒的な力の象徴なんだ。だから追跡用の魔法なんて寄せ付けない」

「だったら、どうやって<スタージェン>を追跡するんスか?」

バートの疑問に。

「秘密はこれさ」

そう云ってミオが取り出したのは、鈎状の棘がいくつも生えた、植物の種であった。

「それは……雑草の種、だよね? よく服にくっついてくる」

「そう。何処にでも生えている雑草のね。勿論花の栽培が盛んなこのリトの街でも、そこらじゅうに生えてる」

アルフレッドの問にミオが種を指し示し答える。

「それが一体……?」

「師匠が考えたんだけどね。この種にあらかじめ追跡の魔法を掛けておくんだ。で、万引き犯なんかの服に投げつける。種自体はこの街の何処で付着しても不自然ではないから、気付かれにくい」

「……そうか! ひょっとしてその種を<スタージェン>の服に?」

「ご名答。これで奴の行先を知ることが出来るんだ」

ミオはそう云って、にこりと笑った。

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