見出し画像

【狩2】一狩り行こうぜ!②

武器職人ドントーに別れを告げ、険しい山道を降るアルフレッド・バート・カシアの一行。

「あの爺さん、とんでもない強者だぜ。武器作りを依頼するんでなきゃ、是非闘ってみたかったぜ」

カシアが闘志を剥き出してそんなことを云う。

「そうなのかい?」

驚いてアルフレッドが問う。

「ああ。オレでも勝てるかどうか判らん。あれほどの強者が居るとはな。ちくしょう気分が良いぜ。誰彼構わずブッ飛ばしたい気分だ!」

剣呑な雰囲気を醸し出すカシア。そうとう闘気が昂っているようだ。

「親父さんと、どっちが強いんスかね?」

危険な感じになっているカシアの気を紛らわすため、バートが慌てて質問をする。

「そりゃあ…………親父だろうな。爺さんは『勝てるかどうか判らない』だが、親父は『勝てる気がしねえ』からな」

「お父上は、そこまで強いんだね?」

「まあ、あれでも最強の龍人だからな。もう化物の域の強さだよ」

カシアが肩を竦める。

「お父上と云えば……ドントー師が云っていた幻の種族って、あれ龍人のことだよね?」

「だろうな。人の話を聞かねえ爺さんだったな」

「素材のひとつは龍人の鱗か……。カシア、君には鱗はあるのかい?」

アルフレッドが問うと。

「いや。オレのガワは見ての通りおふくろ寄りでな。残念ながら鱗は無い」

カシアは龍人の族長を父に、人間の巫女を母に持つ混血だ。そして彼女の見た目はほぼ人間だ。

「と、なると……。もう一度シスターンに航って<龍人の里>でどなたかに鱗を分けて貰わないといけない訳か……」

「いや、それには及ばないぜ」

アルフレッドの心配に、カシアが自らの腰に提げた革袋から何かを取り出す。

カシアが取り出したもの。それは1枚の鱗だった。

「それは?」

「親父の鱗だ」

「お父上の!?」

「ああ。オレはガキの頃から親父に勝ちたくて喧嘩を売り続けていてな。その度に手も足も出ずぼこぼこにされてた。だが時が経てばオレも徐々に成長していくもんでな。16歳くらいの頃だったか、とうとう親父の頬に一発拳打を入れることが出来てな」

「勝ったのかい!?」

「いや。結局その後ぼこぼこにされた。だが初めて親父にクリーンヒットを入れた時の気持ちを忘れないよう、その時親父から剥げ落ちた鱗を護符代わりに持っていたと云う訳だ」

「それじゃあ、大事なものじゃないか!?」

「そうでもないさ。今のオレなら親父に一撃入れるくらいそう難しいことじゃないからな。尤も相変わらずまだ一度も親父に勝ててはいない訳だが」

そう云って苦笑するカシア。

「と云う訳でひとつめの素材はこの鱗を使ってくれ」

「判った……。ならふたつめの素材を探しに行こう。ベルリオース島の素材があるのは、確か<魔神封印の螺旋塔>……だったっけ? バート、場所は判るかい?」

アルフレッドがバートに問う。

「場所は判るっス。けど、そう簡単な話でもないっスよ」

「どう云うことだい?」

「考えてもみてくださいっス。<螺旋塔>には<悪魔>と合体した神が封印されてるんスよ。そいつを崇拝の対象としているイカレた連中や、復活させて世界を破滅させようなんて云うテロリストどもが毎日のように襲撃を仕掛けて来ている。あの<塔>は特別厳戒指定区域なんスよ。関係者以外が立ち入ることはまず不可能っス」

バートが嘆息とともに語る。どうやら第二の素材はそう簡単に入手出来るものではないらしい。

「ぱーっと力尽くで侵入して、取るものだけ取ってとっとと逃げ帰って来る訳には行かねえか?」

「絶対によしてください姐御。救国の英雄が一夜にして全国指名手配犯っスよ」

カシアのとんでもない提案を諫めるバート。

「……そうだ! 報奨を使って入塔の許可を貰うと云うのはどうかな?」

アルフレッドが思い付く。

ーーーー先の軍事政権打倒後、アルフレッド・バート・カシアにはそれぞれベルリオース新王政府へ高官待遇での仕官のオファーがあった。が、3人とも丁重にお断りしていた。

ならばせめて、抵抗軍としての働きに対する正当な報奨を支払いたい、との申し出がビナーク王からあった。

それならば、と云うことでアルフレッドはガヤン神官への昇格を希望した。

国にあるべき秩序を取り戻したその働きは、ガヤンの信者に相応しいと云うことで、ビナーク王の名の許に、アルフレッドのガヤン神官昇格が正式に認められた。

これでアルフレッドは、シャストア・ガヤン双方の神官位を得たことになる。

一方でバートとカシアは、特に望みは無いと云うことで報奨を保留にしていた。

「報奨としてビナークから<塔>に入る許可を貰う訳か。どうせ報奨なんぞ貰う気はなかったからな。なるほど悪くねえ」

「ついでに魔鉱石を持ち出す許可もね。なら早速、フルーチェに相談に行こう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「あら? お早いお帰りですこと」

王城を旅立ってわずか数日。出戻ったアルフレッド一行をフルーチェが出迎える。

「嫌味を云うなよ女狐。てめえに相談があって戻って来たんだ」

「アンタが私に相談? 珍しいこと。一体なに?」

「実は……」

面倒臭がりのカシアに代わり、アルフレッドがドントーの依頼についてかいつまんで説明する。

「なるほど……。それで<魔神封印の螺旋塔>に入るための許可を王子……王さまに貰おうと云うワケね。抵抗活動の報奨として」

「そうなんだ。可能だろうか?」

アルフレッドの問に。

「貴方たちへの協力を惜しむつもりは無いわ。ただ、ひとつだけ問題があるのよね」

「問題?」

訊き返すアルフレッド。

「そう。実は<魔神封印の螺旋塔>は独立機構でね。王や政府の権限も及ばないのよ。だからたとえ、ビナーク王が『カシアを入れろ』と命令したとしても、<塔>側にはその命令に従う義務は無いのよ」

「え!?」

困惑するアルフレッド。

「つまり王の許可も意味は無いと?」

「そう云うことになるわね。<螺旋塔>では四島すべてのタマット神殿を束ねるタマットの最高司祭、彼が管理者としてすべての権限を握っているわ」

「そうなのか……」

落胆するアルフレッド。と、そこに新たな人物が合流する。

「とは云え仮にも一国の王からの依頼だ。無下にはすまいよ」

現れた新たな人物。それはビナーク王だった。

「王子……王さま。また公務をサボってこんなところへ。片付けなければいけない仕事が山のように溜まっているでしょ?」

呆れたように云うフルーチェ。

「まあそう云うなフルーチェ。息抜きも必要だ。あんな量の仕事を休み無しで延々やらされてみろ。すぐに心がアルリアナさまの許へ旅立ってしまう」

肩を竦めるビナーク。

「王の名に於いてお前たちの身元保証と紹介状を書いてやる。いかに強制権限が無いとは云え、悪いようにはせんだろう」

そう云って、書状をしたためるビナーク王。

「だがこんなものが報奨で良いのか? カシアよ。もっとお前自身の望みを云ってくれて良いのだぞ?」

ビナークの申し出に。

「これでじゅうぶんだ。助かるよ、ビナーク」

そう云って笑顔を見せるカシアだった。

「あ、そうだアルフレッド。そう云えば、貴方宛ての荷物が王城に届いていたわよ?」

フルーチェが思い出したようにアルフレッドに云う。

「荷物? 僕宛てに?」

フルーチェの指示で、宮廷魔術師見習いのモナリが一抱えほどある箱を運んできてくれた。

「ありがとう、モナリさん」

アルフレッドが箱を受け取る。

「一応、危険物のチェックはしておきました」

モナリの言に頷くと。

「な~んかこの状況、既視感があるんだよな……」

云いながらアルフレッド、箱を開封する。中には折り畳まれた外套(マント)に一冊の本、それと手紙が入っていた。

手紙を開いて読む。綴り手はシスターンにてアルフレッドのシャストア入信を承認した、プリメラ高司祭だった。

“一国の軍事政権を打倒し、本来の王家を復権させると云う国の転換期の物語。そこに語り手としてだけでなく、物語の担い手としても参加していたこと。つくづく小僧は物語に愛されているようだね。稀有にして貴重なる経験とその活躍を踏まえ、小僧の高司祭昇格を認めるよ。これからも頑張りな”

外套は老マハノチの革製の逸品。そして書物はシャストア高司祭用の魔法教本であった。

「師匠……。相変わらず何処で見ていたんでしょう……? ともあれ、感謝致します」

天空の赤の月に向け、祈りを捧げるアルフレッド。師匠は案外近くで見ているんじゃないか、なんて思ったりしながら。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

ベルリオース島の砂漠地帯を進む、アルフレッド・バート・カシア一行。この砂漠の中心に、<魔神封印の螺旋塔>はあるのだ。

そもこの砂漠自体、風の魔神の影響により形成されたものだ。<悪魔>と契約する前の風の小神は、砂漠の渇いた風を司る存在だった。

それが<悪魔>と合体したことで、『すべてを風化させ、命を奪う死の風』の生み手へと変質したのだ。

この砂漠地帯は千年を掛け、少しずつゆっくりと拡大を続けてきた。いつかはやがて、ベルリオース島全土を覆ってしまうのではないか、とこの国の人々は噂している。

蜃気楼に欺かれたり、砂蛸や逃げ水地獄と云った砂漠の凶悪な怪物との戦闘を繰り広げたりしつつ、一行はようやく<魔神封印の螺旋塔>へと辿り着く。

「ここが、<魔神封印の螺旋塔>……!」

その名の通り天を衝くが如く空に向かって螺旋に伸びる塔の偉容を見上げながらアルフレッドが呟く。と、塔の入口を護る門兵とおぼしき人物のひとりが、槍の穂先をこちらに向けて構えながら走り近付いて来る!

「貴様ら! ここに一体何用だ!?」

バートに事前に聞いていた通り、この場所はテロとの闘いの中心地のようだ。衛兵たちがピリつき、いや殺気立っている。

「僕らは怪しい者ではありません。ベルリオース王の紹介により参りました。そちらにもお話が来ていると思うのですが……?」

そう云ってアルフレッド、兵士を刺激しないようゆっくりとした動作で懐からビナーク王の紹介状を取り出し、彼に提示する。

「王の紹介か。確かにこちらにも話は来ている。吟遊詩人に盗賊、隻腕の戦士の3人組……か。なるほどな。判った。今、責任者を呼んでくる。ここで暫し待たれよ」

そう云って門兵のひとりが、建物内へと走ってゆく。

待つこと暫し。ひとりの人物が門兵に伴われ、建物の中からアルフレッドたちの方へと走って来る。

見るからに文官然とした、ローブ姿の小柄な女性だった。栗色の長い髪をした、知的で可憐な美人だ。

女性はアルフレッドたちの前まで来ると、深呼吸をして乱れた息を整えながら。

「お待たせしました。私はこの施設の管理者であるタマット最高司祭さまの秘書を務めています、ファルカ、と申します。王のご紹介の方々ですね。お話は伺っております」

「アルフレッド、バート、そしてカシアです。お忙しいところご対応いただき、ありがとうございます」

アルフレッドはそう云って、ファルカと名乗る眼の前の人物に紹介状を手渡す。

封書を受け取ったファルカは、封筒を開封し中の書状を取り出し開く。そして黙読すると。

「なるほど確かに。それでは、最高司祭さまはご多忙につき私が代わりに施設内をご案内いたします。皆さま、私について来てください」

かくしてアルフレッド一行は、タマット最高司祭秘書ファルカに案内され、ベルリオース島最大の魔境とされる、<魔神封印の螺旋塔>へと、足を踏み入れるのだったーーーー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?