【狩7】一狩り行こうぜ!⑦
「それにしても、ルーくんもキーくんも、師匠も居ない時にこんなことになるなんて……。いや、だからこそ狙われた……?」
ミオが爪を噛みながら何やらぶつぶつと呟いていると、ミリィが。
「ミオ、羽を取り返しに行くんでしょ? あたしも一緒に行くよ」
そう云って、<スター・アイテムズ>を出る。
「装備を整えてくるから、待ってて」
隣の自宅へと入っていった。
「2人で<スタージェン>を追うのかい? ミオ」
アルフレッドが改めて問う。
「まあね。ガヤンはあてにできないし」
ミオが答える。するとアルフレッドは。
「僕らも一緒に闘って良いかな? ミオ」
と、訊ねた。
「え!? だってキミたちには関係の無い闘いだよ!? 闘う理由が無いでしょう!?」
困惑するミオ。
「いや、そんなことはないよ。僕らの目的は<神の鳥>の羽を譲って貰うことだけど、<スタージェン>に奪われたままではその目的を達成出来ない。……そこで相談なんだけど。ミオ、僕らが力を貸して首尾良く羽を取り戻すことが出来たら、その羽を譲って貰えないだろうか?」
アルフレッドが交渉をする。
「そりゃあ、羽を譲ることは別に構わないけど……。本当に力を貸して貰っても良いの?」
「勿論だ。改めてよろしく頼む。僕はシャストア高司祭で、細剣術(フェンシング)と魔法が使える。バートは盗賊系技能が得意だ。カシアは戦士で、怖らくこの中の誰より強い」
「……ふたりも、本当にそれで良いの?」
ミオがバートとカシアにも確認する。
「ま、アルフの人助けはいつものことっス」
「オレは、強者と闘えるならなんでも構わん」
バートとカシアの2人も、異存は無いようだった。
「……ありがとう。みんな」
と、そこに革鎧(ヘビー・レザー)を身に纏い、左手に中型楯(ミディアム・シールド)を装着し、背中にジェスタ・アックスとジェスタ・メイスを背負ったミリィが姿を現した。
「準備できたよ。行こう、ミオ」
「ミリィ、アルフレッドたちも力を貸してくれるって」
ミオがミリィに告げる。
「君たちも……?」
一瞬、訝しげな眼でアルフレッドたちを見るミリィであったが。
「羽を取り返す、と云う目的は合致しているんだ。協力させてくれないか? ミリィ」
と云うアルフレッドの言葉に。
「……判った。ミオが承諾したのなら、一緒に行こう」
そう云って、アルフレッドと握手を交わす。
その間にミオは、背負い袋に霊薬(エリクサ)の小瓶やら魔力石(パワーストーン)やら様々な魔法道具やらを詰め込んでいた。
「で、どうやって盗っ人を捜す?」
カシアの問に。
「ちょっと待ってね……」
ミオが、魔法道具の一つを手に持ちその動作を確認する。
「…………こっちだよ!」
ミオの先導に従い、一行はリトの街を出て街道を南下してゆくーーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「……なあ、ミオ」
「うん?」
道中、アルフレッドがミオに話し掛ける。
「ひとつ、気になっていたことがあるんだけど、訊いても良いかな?」
「良いよ。何かな?」
「ミオの話に依ると、<スタージェン>は<神の鳥>の羽を用いた儀式魔法で、<神の鳥>の本体をこの島に喚び寄せようとしている」
「その通りだよ」
「だけどミオはこうも云った。<神の鳥>の羽はあらゆる力も魔力も寄せ付けない。本体の持つ、圧倒的な質量と魔力量の象徴であるがゆえ」
「そうだね」
「それって矛盾しないか? 羽が魔法を寄せ付けないのなら、そもそも儀式魔法の対象にもなり得ないんじゃ? <スタージェン>の儀式魔法は成立しないんじゃ?」
アルフレッドの指摘にミオは。
「凄いねアルフレッド。魔術師でもないのに良い着眼点だよ」
そう云ってひとつ咳払いをすると。
「この儀式魔法に於いて、羽は怖らく触媒として使われているんだ」
「触媒?」
「そう。羽は直接の魔法の対象じゃない。この儀式魔法に於ける羽の役割は、怖らくは<神の鳥>が飛来する際の座標の指定」
「羽がある場所に<神の鳥>がやって来る。そう云うことかい?」
「ご名答。だから儀式魔法は成立するよ」
「でもミオちゃんは、<スタージェン>の魔法は成功しない、って思ってるんスよね?」
ふたりの会話に、バートが割って入ってくる。
「そうだね。そもそも召喚魔法は難しい魔法なんだ。召喚主と召喚対象との間に高い親和性がないと、まず成功しない。<スタージェン>と<神の鳥>の間に親和性があるだなんて、どうしたって思えない」
「なるほど。それで……」
アルフレッドが納得する。
「とは云え、ありとあらゆる原則破りを可能にする。それが<悪魔>と云う存在なんだ。そして<悪魔>が強ければ強いほど、その可能性は増してゆく」
「<スタージェン>は、どの程度の<悪魔>と契約してるっスかね?」
バートが問う。
「前にも云ったけど奴は邪術師としては三流だ。せいぜいが<獣の悪魔>ってところじゃないかな? だけど油断は禁物だよ。<獣の悪魔>だとしたって決して侮って良い相手じゃない」
「そうだね。たった一体の<獣の悪魔>のために全滅したと云うドワーフの鉱山村の話を聞いたことがあるよ」
アルフレッドがうんうんと頷く。
「とにかく、儀式の成功失敗に関わらず<スタージェン>は止めるよ。そして羽を取り戻すんだ」
ミオの総括に全員が頷くと、旅路を急ぐのだったーーーー。
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「……ここだ!」
半日ほど南下した後、街道を海側に外れ辿り着いた海岸。
打ち捨てられた難破船とおぼしきぼろぼろの帆船。追跡魔法の掛けられた種の反応は、船の中にあるようだった。
「船腹に大きな穴が開いているね。ここから中に入れそうだ」
ミリィの云う通り、船体の横腹に大きな穴が開いている。船内への侵入は容易そうだ。
「ちょっと待ってね……」
ミオが魔力石を使って、《生命感知(センス・ライフ)》の魔術を行使する。
「……うん。この船の中に居る人間の反応は1人だけだ」
「そいつが<スタージェン>で、間違いなさそうだな」
カシアがそう云って、両拳をばきばきと鳴らす。
「罠があるかも知れないっスからね。オイラが先頭を行くっス。ミリィちゃん、ミオちゃん、アルフ、姐御の順に続いてくださいっス」
先頭に躍り出たバートが指示を出す。的確な判断だ。
かくして一行は船の中を進む。途中、いくつか簡易な罠があったが、バートにかかれば足止めどころか時間稼ぎにもならない。
やがて一行の進む先に、広い空間が現れた。
気配を消してそっと覗き込むバート。木製の床に不恰好な魔法陣が描かれており、その中心にローブ姿の人物が立っている。その傍らに二足歩行の魚人間ーー彷徨いの月に属する海の種族・ディワン族に相違ないーーが居り、更に魔法陣の周囲には、躰は人間のフォルム、但し頭部は鮫のそれをした骸骨たちが無数に立っている。
「<竜牙兵(ドラゴン・トゥース・ウォリアー)>は聞いたことがあるが、鮫はな…」
その光景を見ながらカシアが苦笑する。
「魔法じゃないね。怖らくあそこに居るディワンの秘術じゃないかな?」
ミオが<鮫歯兵(シャーク・トゥース・ウォリアー)>についてそう評する。
「敵は1人だと云っていたよな? 何故連中はミオの魔法で感知出来なかった?」
カシアが訊ねると。
「《生命感知》は命あるものを感知する魔法なんだよ。<鮫歯兵>は鮫の歯から創られた創造物で、ただの擬似生命なんだ。不死生物(アンデッド)と同じだよ。だから感知出来ない」
「あっちのディワンはどうしてだ?」
とカシア、今度はローブ男の傍らを指差す。
「確かに変だね。……ん? あいつ、不死生物じゃない?」
ミオが眼を凝らし、アルフレッドたちもそれに倣う。確かに、ディワンの様子は命あるもののそれではない。生気が無く、体表の一部は屍蝋化しているように見える。
「なるほど。この船の中で『命あるもの』はあのローブ野郎1人と云う訳か」
「それにしても想定以上の戦力だね。特にあの骸骨たちは隙間が多くて、僕の細刀(サーベル)やバートの槍とは相性が悪そうだ」
アルフレッドがぼやく。
「なら骨どもはオレが片付けてやる。お前たちは本命の蝶鮫野郎を始末しな」
カシアがそう云って拳を構え、不敵に笑う。
「待って。いくらなんでもあの数を1人で相手するのは無茶だよ。あたしも一緒に闘う」
そう云ってミリィが、背中からジェスタ・メイスを抜いて構える。骸骨と相性の良さそうな、打擊武器だ。
「ならアルフレッドとバートとボクで、<スタージェン>とディワンの相手をする。これでどうかな?」
「判った。それで行こう」
ミオの言にアルフレッドが同意し、闘いの準備を始める。
まずはカシアと、《倍速(グレート・ヘイスト)》と《盾(シールド)》で強化されたミリィが<鮫歯兵>の群目掛けて突撃する。相手に反撃の暇を与えず、2人それぞれが一撃の許に次々と<鮫歯兵>を破壊してゆく。
そして突然の不意打ちに狼狽するローブ男の前に、アルフレッド・バート・ミオが躍り出る。
「<スタージェン>!! 盗んだ<神の鳥>の羽、返して貰いに来たよ!!」
果たしてローブ男の正体は予想通り<スタージェン>その人であった。ミオがびしっと指差し口上を述べる。
「小娘貴様、リトの骨董屋の……!? ふん、莫迦が! 興味が無いので折角見逃してやった命を、わざわざ捨てに来るとはな!!」
嫌味な口調に妙に甲高い声が癇に障る。この<スタージェン>と云う男、性格や行いとは無関係に理由無く万人に嫌われるタイプの人物だ。
「念の為に云っておく。<神の鳥>を喚び、この国に破滅をもたらすなど、莫迦な真似は辞めろ!」
アルフレッドが呼び掛ける。だが<スタージェン>は。
「莫迦な真似!? 莫迦な真似だと!? 誰もが私を無能だ不要だと蔑んだ! <ブラッディ・シャーク>、彼らだけが私の才能を認めてくれた! 私を必要だと云ってくれた! そんな彼らをこの国の人間は私から奪った! これは復讐だ! 私がこの国の人間にされたことを、そっくりそのままこの国の人間にしてやろうと云うのだ! それの何処が悪い!? 何が悪い!?」
喚き散らす<スタージェン>。予想はしていたが、やはり話し合いに応じるような相手ではないようだ。
「聞く耳は持たないか。どうやら実力行使で止めるしかないらしい」
アルフレッドたち3人が、各々武器を構える。
対する<スタージェン>もまた杖を構える。一方で、鯰に似た顔の不死生物らしきディワンは全く動きを見せない。棒立ちのままだ。何故だろうか。
「怖らく、<鮫歯兵>を動かすのに集中が必要なんだよ」
アルフレッドの疑問に答えるように、ミオが推理する。
「あれだけの数の骸骨たちを、あのディワン1人が操っているのか?」
アルフレッドの更なる疑問。
「いや。<鮫歯兵>の1体1体は自律思考で動いていると思う。ただ、そもそも<鮫歯兵>が動き続けるためには術者の集中が必要なんじゃないかな?」
ミオがそれに答える。
「つまり、あのディワンを斃せば骸骨たちの動きを止めることができるんだな!?」
そう云ってアルフレッドは細刀を構え、ディワン相手に刺突攻撃を繰り出す。
ずぶり!!
アルフレッドの細刀がディワンの肉体を貫いた、次の瞬間ーーーー!
「うああああああああ!!!?」
アルフレッドが悲鳴を上げる。ディワンを貫いた細刀を持った彼の右腕を、凄まじい電撃が襲っていた。
たまらず細刀を引き抜くアルフレッド。右腕を強い痺れが襲い、震えて思うように動かせない。
「どうしたんスかアルフ!?」
「あのディワンに細刀を刺した瞬間、雷に襲われた。気を付けろみんな」
「で、電気ナマズっスか!?」
云い得て妙だ。どうやら鯰ディワンの特殊能力のようだ。
躰が雷を帯びていて、攻撃を命中させた相手に自動的に電撃のカウンターダメージを与える、と云ったところか。
「オイラの槍なら木製の長い柄が付いてますから、電撃の心配は無いっス!」
そう云ってぐさり、と槍の一撃をディワンにお見舞いするバート。
「飛び道具も、反撃の心配は無いよ!」
ミオもまた、《火球(ファイアボール)》を生成してディワンに投げ付ける!
2人の攻撃は確実にディワンにダメージを与えている。だが不死生物は痛みを感じないため、集中が途切れることはないようだ。
そしてアルフレッドは、動かない右腕に代わり左手に細刀を持ち換え、狂信の復讐者<スタージェン>と対峙するのだったーーーー。
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