トルコ旅行記1:カッパドキアは岩の王国
飛行機を乗り継いで乗り継いで、ネヴシェヒル空港に到着した。
レゴブロックで建てたみたいな1階建てのちいさな空港で、職員さんが到着した人の名前をひとりひとり追いかけて確認していた。
手荷物受取所も田舎のスーパーぐらいの大きさ。
空港からは事前に予約したミニバンでホテルまで移動。車の速さは、今まで訪ねたことある9カ国の中でダントツ。そしてマリオカートばりに他の車を抜かす。もちろんゴリゴリに揺れる。なんだかローカルっぽさが増してきてうきうき。
見渡す限り、平らな土地が遠くまで続いている。ひざぐらいの背の低さの草がぱやぱや生えている中に、たまにころんとしたフォルムの低木が落ちるように生えている。
荒野と呼ぶにふさわしい無骨な景色に、「遠くまできたな」と初めて実感する。
窓の外を飛んでいく景色の中にちらほらおかしな形の岩が現れ始める。
ちいさな空港、ぱやっとした荒野、飛ばしまくるミニバンで完全に油断していたときに初めてのものを見たので、長時間フライト明けの脳みそがびっくりする。
行先は、滞在先の洞窟ホテルの一つであるKelebek Special Cave Hotel。狭い急斜面の路地もミニバンは容赦なく突き進む。人と犬はおっかなびっくり端を歩いている。
家を出てだいたい丸二日後、ようやっとチェックイン。
旅の疲れはもちろんあったけど、洞窟ホテルの内装のあまりのエキゾチックさに大はしゃぎ。
岩をくり抜いて作られた部屋に、アンティークの調度品がほの暗くライトで照らされていて、今来たばっかりなのに秘密基地に帰ってきた気分になる。
部屋の各要素に味がありすぎて、何を見ても騒いだ。
なのにやたら落ち着く。
この日はホテル内のレストランで晩ごはん。
そして、ここではじめて突き出し式で提供されるパンを体験した。いわゆる「これ食って待ってろ」パンである。
さすがヨーロッパとアジアの境目、バターに頼らない、小麦一本勝負の潔い香ばしさ。あまりに美味しくて、こんもり出されたパンを思わずメインディッシュばりに食べすぎる。
そしてメインディッシュが来る頃にはなんと腹8分目強。
さらにこの失敗はこの後8日間繰り返される。
あれもこれも、パンがおいしすぎるのが悪い。
パンを食べすぎながら待っていると、ようやく壺ケバブの登場である。恥ずかしながら来るまで知らなかったけど、この地方ではかなり有名なメニューらしく、どの店に入ってもおすすめされる。
こぶし2個分ぐらいの大きさで、陶器でできたベージュの壺の中には肉と野菜が入っていて、ごうごう燃える炎をまとった状態で出てくる。食べるときは店員さんが壺の上を棒でコチコチ叩いて封を開け、皿に中身を空けてくれる。
ケバブは味が濃いものと覚悟して胃腸ともども身構えていたけど、お肉のうまみがしみ込んだお野菜たっぷりの壺ケバブは、長旅で疲れたおなかにほんわり優しかった。
さすがにその日はすぐ就寝。泥のように眠った。
翌日はホテルのテラスで朝食。
抜群の眺め、絵本みたいにおしゃれな朝食、全く急いでいない店員さん、外のソファでのんびり寝ているわんこ、全てが最高の朝だった。
朝食後は、カッパドキアでは鉄板のGreen tourに参加。色んな形の奇岩群をしこたま見まくるRed tourに対して、Green tourでは地下都市やハイキングでカッパドキアの多彩な顔を見られるのが魅力。ただ、多彩な顔の岩である。
ここでようやく、満を持して私たちの岩見まくりライフが幕を開けた。
まず初めに、ツアーバスはPigeon valleyという見晴らしのいいスポットに到着。
ツアー客は放流されて、15分間岩を見まくる権利を得る。
さて、昔のトルコでは、鳩を伝書鳩として使うだけでなく、壁画に使うタイルの接着剤として卵の白身を使うなど、何かと欠かせない存在だったそう。
そんな大事な鳩ちゃんのためのおうちは、人用のおうちに併設されている。
ちっちゃい穴がたくさん並んでマンション「メゾン・ド・鳩」ができている。とてもかわいい。
ところで、トルコでは至るところでこの青い目の飾りを見る。
初めて見たときはぎょっとしたけど、これはトルコでポピュラーなお守りだそう。どうりで街の中にも外にも道にも、このおめめが溢れている。
どうやらこのお守りを身に着けると、わたしたちの代わりに人の妬み嫉みなど、あらゆる悪意を吸い取ってくれるらしい。すなわちこれは、「あなたは周りの目なんて心配しないで、のびのび自分らしく好きに生きればいいんだよ」というメッセージを持つとてもすてきな一品なのだ。
そして、トルコの人たちは家族・友人が周囲の心無い悪意に傷つかないよう、お互いにこのお守りを贈りあう、とガイドさん談。
なるほど、トルコの人たちがいつもリラックスしていて優しいのはこのおかげもあるのかな。
日本で人の目を気にしすぎて疲れていたわたしは「絶対に買って帰って、これと共に毎日を送るぞ」と決心。
その後は、心機一転、地下に潜る。
デリンクユという、2万人が住んでいたといわれる巨大な地下都市は、地下16階まであるらしい。
モンゴルの侵攻から身を隠すため、キリシタンの迫害から逃れるため、厳しい冬を越すため、など長くにわたって色々な用途で使われていたとの説があるが、未だ詳細は謎に包まれているとのこと(ガイドさん談)。
下っても下っても底に着かない。
腰を曲げてようやく1人が通れるほどの小さな小さな通路は、敵の侵入を妨げながら地下深くの町を繋ぐ。
腰を痛めながら2時間ほど歩き回った後、ガイドさんが「今見た部分は、全体の約30%です。」とけろっと言うので「でかすぎんだろ・・・。」と絶句した。
お昼ご飯を食べた後は、うずたかい岩の合間をハイキング。
緑あふれる山のふもとから、相変わらず大きな岩が見える。
そういえば、視界を横切る家畜がなんだか見慣れない見た目をしていることに気づく。
たとえば、足がふさふさなにわとり。
君に至っては、いったい何者なんだ・・・。
ハイキングをした山には農場が併設されていて、そこかしこを鳥がダッシュしていて微笑ましい。そして道でも知らない見た目の鳥がぶらついている。
まさか鳥に異国感を見出す日が来るなんて、思ってもいなかった。
ところで、トルコ3か所を旅して、猫と犬が地域ぐるみで甘やかされている場面をよく見た。
例えばここカッパドキアのハイキングスポットでは、もうすぐ出産を控えた猫ちゃんが、安静にすべきなのにみんなについてテクテクお散歩に出かけるので、地元の人に捜索&回収されていた。
町にはほかの野良猫、野良犬も多いけど、みんな名前がついていて、餌もお水もたっぷりもらって可愛がられている。
しかもケバブの残り肉とかをもらっているので、揃って毛艶がよい。
そしてご飯の心配が全くないので、リラックスしきっている。
触って大丈夫?と地元の人に聞くと、「Of course! She is very friendly.(もちろん!やさしい子だよ)」と教えてくれる。
近寄ると嬉しそうに手にすりついてきて、撫でられると気持ちよさそうに体を預けてくる。
みんなに優しくされている子なんだな、とうれしくなる。
その日の夜はManti(トルコ版ラビオリ)を食べる。
小指の爪サイズのプチ餃子にトマトソースとヨーグルトソースがかかっていておいしい。
トルコ料理、思ったよりさっぱりしていておいしいぞ!
その日もご満悦でぐっすり眠った。
次の日は15時のバスで次の町に出発の予定だったので、それまで国立公園をおさんぽ。
これまでの数日はあいにくの曇り空だったけれど、この日はきっぱりと晴れて、岩々の輪郭が際立ってことさら綺麗だった。
そして、偶然も偶然、前日のツアーで丸一日一緒にいた台湾やロシアからの人と道でばったり出くわして、大笑い。
旅って楽しいな、ムフフ、と手を振って別れた後ににやけた。
この時点で、トルコに滞在して3日目。
景色も食事も素晴らしかったけど、この国では人も、犬も、猫も、見返りを求めず純粋な好意・やさしさを与えてくれる、というのがここ数日で一番心に沁みたことだった。
悪意は青い目のお守りが代わりに受けてくれるから、みんなコミュニケーション自体を怖がらず、フレンドリーに話してくれる。
なんて素敵な国なんだ、トルコ。
ここカッパドキアは、岩の王国。
大きな大きな岩の中に、小さな人がたくさん住んで、ついでに鳩も飼っている。
雄大な大自然、というよりかは、岩の中に住む人たちの町。
こんなところ、はじめて来た。
と、この時点までは感激100%、大大満足のご満悦だった。
(次回、パムッカレ編)
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