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「ノマド」と「マルチ商法」

「ノマド」と呼ばれる人々のことを、ご存じだろうか。

「特定の仕事場を持たず、場所や時間、組織に囚われない働き方をする人」のことを、一般的に「ノマド」と呼ぶらしい。

旅をしていると、この手の働き方をする人に山ほど出会う。途上国を中心に回っていると、旅先で出会う日本人なんて、大学生とノマドだけと言っても過言ではない。

ただ、自分はどうしても彼らのことを好きになりきれなかった。

一緒に酒を飲み、一晩を明かし、旅をして、山を登った。
同じ日本人という連帯感もあり、仲良くなるのは簡単だった。

各々の旅や人生を語った。基本何人かの集団で行動している彼らも、元々は全く知らない赤の他人だったと聞いた。

別に変な人たちではない。それどころか、彼らは総じてそこそこ優秀で、明るくて、普通に話す分には全く違和感はない。
出身大学は異様にMARCHやSFCが多かった。体感8割くらいはこの辺出身だった気さえする。

いつも明るくポジティブで、酒飲みが多く自分と馬があい、ノリも近くて最高だった。酔うと熱く人生論とか語り出しちゃうところも、まさに自分と同じである。

それでもダメだった。何か心の底に引っかかるものがあり、言語化できないモヤモヤがいつも残っていた。

結局最後は彼らと別れ、長期間行動を共にすることはなかった。どの集団と出会った時もそうだった。自分の中のセンサーが、「これ以上はやめとけ」と訴えかけてきたからである。



さて、本題に戻る。

タイトルにもある通り、自分はこの違和感の正体を、彼らの稼ぎ方から垣間見える「マルチっぽさ」に見出したのだ。

もちろん、ノマドの方全員が「マルチ商法」に加担しているわけではない。
そもそもノマドとは働き方やライフスタイルの一種であり、ビジネスモデルの一種である「マルチ商法」と論理的必然性を持つわけがないのだ。

それでも、「マルチ商法」と相性が良く、現にマルチ紛いのビジネスが散見されたのも、また事実である。


ここで、ある有名ノマドの方のポストを引用する。このポストにこそ、自分がノマドに「マルチっぽさ」を感じる理由が詰まっているのだ。

「ノマドを目指して副業をはじめたけど、もらえる金額が少なすぎて、一生独立できる気がしません」と相談を受けたので、ノマドたちに「最初の頃、どれくらいもらってた?」とヒアリングした結果を公開します

ブログ:100円 Webライティング:500円 ラジオ出演:3,000円 台本作成:4,000円 動画編集:5,000円 名刺デザイン:5,000円 イベント出演:15,000円 コーチング:175,000円



ルイス前田 / 著書「海外ノマド入門」

https://twitter.com/NY_ruisu/status/1710804754211746299


ここで一番目を引くのは、やはり圧倒的高単価を誇る、「コーチング」である。

「コーチング」の具体的な中身は当然人によって異なるが、基本的には自分の持っているスキルを他人に教える行為である。

このポストがどれだけの人を対象にヒアリングした結果かは分からないが、自分の体幹としても、特にノマド初心者(コロナ期以降に始めた人たち)は、「コーチング」で収入の基盤を作っている人が多かった印象である。


これの何が問題なのか?


想像してみてほしい。特にフリーランス初心者で、基本的なライティング技術や動画編集技術しか知らない人が、他人に何を教えられると言うのか。

せいぜいその辺のYouTubeや本を読めばすぐにわかる程度のものであり、ありがたがってこんなまとまった金を投じるほどのものでないことは、火を見るより明らかだ。

しかも、これは何もノマド初心者から教わる場合だけではない。

世の中には、ノマド養成講座的なものがいくつかあり、1ヶ月の合宿で、1人30万円(サイトでは金額を伏せているところが多いが、実態としてはこれくらいが相場である)程度もする。

その合宿で何をやるかというと、Webマーケや動画編集、ブログライティング、デザインなどのフリーランスがよく使うスキルを10個程度、1つにつき3日程度で教えていくのである。

その道で食べている人が聞いたら抱腹絶倒ものだろう。
一応擁護しておくと、これらは決して「即戦力」に鍛えるものではなく、「自分にどのスキルの適性があるか」を見極めるのも目的らしい。

その程度のことを無料の媒体を使って自分の力でやらないあたり、フリーランスそのものへの適性が欠如しているのは言うまでもないが。


では、この講座を卒業し、晴れて「ノマドデビュー」を果たした人は、その後どのように金を稼ぐのか。

まずよくあるのが、需要の大きい「動画編集」である。
もっとも、この業界は今編集者の数が爆増し飽和状態にあるため、上記の通り1本5000円がいいとこであろう。
初心者で動画編集に不慣れなことも考えると、一本編集するのに3日程度かかるのもザラである。

そのほかの仕事も、初心者から毛が生えた程度では、バイトレベルの単価で稼ぐのさえ難しい。世の中は「リモート勤務のフリーランス」という住所も責任もない存在に、とにかく厳しいのだ。

すると、当然自分と同じような初心者へのコーチングが魅力的な選択肢となる。魅力的というか、海外で生活し何かと物入りな彼らにとって、生活維持のために不可欠な選択肢とも言える。

そこで案件獲得のために、SNSでキラキラした生活を送る写真を上げ、「日本脱出!」「一度きりの人生!」といったメッセージと共に、不自然なまでに笑顔の写真を上げる。ポエムをあげたり、生い立ちを語るYouTubeを上げることもある。

それらに釣られた初心者へのコーチングは、もちろん何らかのスキルのことにも触れるのだろうが、結局は「誰かにコーチングをしよう」と言うところに行き着くだろう。

もうお分かりだろうか。
この「コーチング」や「ノマド養成講座」と言う商品を、「日本から脱出して絶対幸せになる超ウルトラスーパーメソッド」という名前に置き換えてみよう。
この商品の購入者は、「日本から脱出して絶対幸せになる超ウルトラスーパーメソッド2」を作って売ることを教えられ、これをまた新しい誰かに実行する。

一気に胡散臭くなってきた。

もちろんマルチ商法そのものでないことはわかっているが、「中身のない商品を、夢を語って売りつける」という構造的な共通点は、マルチっぽさを感じさせるには十分ではないだろうか。


彼らは私に、仕事として夢を語り、仕事として人生を語っていたのである。
もちろん彼らの言葉に嘘はなかったのだろうと思うが、このズレが私の中に植え付けていった違和感は、今でも払拭できていない。


彼らは今後どうしていくのだろうか。



キラキラした言葉からは、どこか深い絶望の香りがする。










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