生き方と特権について

今日、久しぶりに私が通っていた保育園の前を自転車で通った時母親が、隣の施設を児童擁護施設だと教えてくれた。近くにも一つまた別の施設があるという。保育園に通っていた頃、日中は園で一緒に遊んでいた子供達の何人かが、夕方になると隣の建物に帰って行ったのはかろうじて覚えている。
20年以上地元に住んでいたにも関わらず近所に児童養護施設があったことを初めて知り、驚いた。そしてこのことに驚いている自分にさらに驚き嫌気がさした。様々な事情で肉親と共に暮らすことができなくなった子供達や児童養護施設(今はあまり使われない言葉だが孤児院)のことは、表象物やニュースを通じてもちろん知っていた(つもりになっていた)。でも、それらが自分の生活と地続き、隣り合わせであると認識できていなかったから、こんなに驚いているのだろう。

一昨日、サークルの後輩と二人で長く話す機会があった。後輩は、自分の同期が度々サークルでホモソーシャルなノリを展開することや、恋愛に興味が持てないにも関わらず同級生たちが口々に「恋愛は楽しい」と言い張ることへの嫌悪感や違和感を語っていた。さらに後輩は、それでもそうした同期や同級生達の方が世間から見れば多数派であり、サークルの内外で実績を持っているから社会からも評価されるのを考えると、何の実績もない自分に無力さや絶望感に駆られているとも話してくれた。私は「あなたは間違っていないし、学内外でジェンダーやセクシュアリティについて話せるコミュニティもある」と話したけれど、後輩はネガティブな気持ちをキッパリとは払拭できずにいた。別れ際「19年ぐらい生きてきても、自分に自信が持てないんです。」とも言っていた。

私が、実生活やインターネットで多数派の価値観を振り回してそこに属さない人達のことを傷つける人達を見ても、「嫌なもの見たな」とは思っても、その人達の方こそが「間違っている」と迷いもなく考えて深く悩むことがないのは、自信を手にしているからだと思う。20年間生きてきて、自分の属性や社会的立場で差別されたり馬鹿にされたりしたことがないから、自分で努力さえすれば自信を手に入れられたから、だと思う。

先週、高校時代の同級生と久しぶりに新宿で飲んだ。店を出た後、新宿歌舞伎町タワーの周辺を散策した。また別の一人は、新宿の風俗はどこがいいか、歌舞伎町のあの通りには売春をしている女性達がいて相場はどれくらいかなどを話していた。そのすぐ後に、Xのタイムラインに流れてきた下の記事を読んだ。

この記事に出てくる人達、いわゆる「トー横キッズ」達は、新宿歌舞伎町で目に入っていたのに、自分達は他人事として片付け、自分たちに接近する場合があるとすれば、それは裕福な自分達が性的快楽を満たす時ぐらいだとしか認識していなかったことにまたも気付かされた。


これらの物事は全て、私が生まれた時から手にして、今の自分の生を支えている「特権」を指し示している。性別時に割り当てられた性も、今までの性自認も「男性」であり、私立の中高一貫校や大学に通えるような家庭に生まれ、今すぐ就職しなければならない理由もないから大学院に進学することもできる自分。こうした特権を知らなかったわけではないけれど、身を以て理解したのは本当に最近のことだ。
自分の特権に気づいた時に、去来した感情に任せてこのnoteを書いているが、その感情だっておそらくはそうした無知で思い上がった自分への恥ずかしさや焦り、つまり自分本位の感情でしかないのだろう。
新宿で飲んだ同級生の内の一人は、就活を終えて来春から大手企業で働くと言う。帰りに電車の中で、彼から就職活動をどのようにして成功させたのか、彼が務める企業の福利厚生にはどのようなオプションがあるのかを知った。彼のような生き方は理解できるし、とても正しいと思う。
一方で、中高一貫校から名門大学、大手企業というエリートコースを歩み、アルバイトやインターンでも全て同じ人生を進んだ人達とだけつるみ、社会に出て金の稼ぎ方や人生設計を学んでいる人達。他方で、世間一般で「普通」とされている生き方以外の生き方をしていたり、そうした生き方をする人たちをサポートしていたりする人達。そのどちらが視野が広くて、物事を知っているかをジャッジできるほど、私は世間のことも社会のこともよく知らない。
でも知らないでいることはまずいということは知っているつもりだ。そして、自分の特権を何も考えずに享受するような生き方はしたくないと。この考えも決意も独善的なものにすぎないとしても。
そのためには学び続けるしかないのだろう。聴かれなかった声を聴くこと。相手には相手固有の生があり、それは自分の想像力だけで推し量れるものではないということ。独りよがりの自己嫌悪や驚きに心を操られているより、本を読み人と話すようにしたい。そして願わくば、現状の日本で「普通」とされている生き方とはまた違う生き方で幸せを掴みたい。
そんなことを考えている。

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