見出し画像

ITベンダーの部長職から転職して『ユーザ側のシステム部長』になってしまった物語(6)ー サインと予算・事業計画ー

月曜日の部長会も終わり、いよいよシステム部長との仕事がスタートする。
私がベンダーにいたころに接してきたシステム部長は、基幹システムの提案の際に行うプレゼンの時に目の前に座ってこちらを厳しい目でいている人、そしてプレゼン後の営業活動を行うためにアピールするための人、この人が決定権を持っている人達の中のひとりであることは間違いないと思って接する人、ということで、社内で具体的にどういう仕事をしている人かは分からない。時々、役員とのやりとりや、反対派の意見を教えてくれたりして、なんとなく、プレッシャーをかけているのか、応援してくれているのか、どちらともいえない発言をして、なんとなく、自分はキーマンだぞってほのめかしてくる。

社長面談の際に「自信があります」と答えたものの、やったことがないことは分からないというのが正直なところで、かといって緊張したり、不安に思ったりというようなこともなく、まずは、前任者が一方的に話をしてくれることを聞いて考えるか、というスタンスだった。前任者は、最初に、「とにかくサインが多いから、ハンコを作っておいたよ(丸いゴム印で3つに区切られていて、上は『承認』、真ん中は日付、下は苗字のもの)」と言われた。まず、この意味が分からなかった。「サインが多い?」私はこの業界に入って以来、「サイン」なるものをしたことがない、確かに遠い昔、昭和の頃、印鑑は押していた。でも、日常の仕事で多いということはなかった。それはいったい何だ、と思ったが、席には多くの紙がトレーに乗っていたのである。

最初の仕事が、この紙を見てサインをすることになったのだが、内容については、担当者に説明を受けないと分からないので、話を聞いた。
「これは、システムの保守をしたいので、Administratorのpassword発行の申請です、passwordは、部長が管理することになっているので、管理台帳からpasswordを出しください」、「これは、利用者がこれまで行わなかった業務を行うことになったので権限を付与するため、権限付与するための申請です」、「これは、プログラムの修正が終わって、本番のプログラムを置き換えるので、その申請です」、「備品を買うのでその申請です」、次から次に申請がやってくる。当然この会社のルールの説明など受けることもなく始めたのだから、口では「分かった」と言いながら「このハンコの前の流れも、あとの流れも良く分からない、とりあえず押さなければ、作業が進まない、分かったと言ったものの、実は良く分からない、というかワークフローじゃないの」と心の中でつぶやいた。

確かに申請は多かった、それも毎日である。毎回、毎回サインをしていたらそれは、手が疲れるのは確かだっただろう、余談であるが、面白かったのは、回ってくる申請書に書かれているサインが本当に読めない、つまり、有名人が書くようなサインが書かれているのである、このサインはみんな同じ作業着を着て仕事をしている人達の一つの自己表現なのかもしれないと思うとなんとなく含笑したくなる感じであった。

これらの作業は、IT全般統制の作業の運用の一部であるが、IT全般統制については別の機会に触れたい。

前任者から次に説明を受けたのは事業計画の話である。この事業計画という言葉に最初はピンと来なかった。というのもベンダーにいた私のイメージは事業計画=ビジネスプランで間接部門で事業計画というのはいかなるものか、予算とはいかなるものか、ということで、興味津々である。

始めて見るIT部門の予算、ユーザが行うまさに実務に紐付く管理で予算の費目の多さに驚いた。この会社は、コピー機のリース料からそこで使う紙代、Mobile WiFi、USBメモリ、ありとあらゆる電子機器、それに伴う消耗品費、備品にいたるまで全てIT部門で管理するということになっていたので、通常であれば、総務や拠点の管理部門で管理して良いのではないかと思われるものもすべてIT部門で管理していた。その予算が適切なのかどうかというのはもちろん私には分からない、ひとまず、これまで管理してきた、アシスタントもしくはそれにかかわる担当者が毎年の流れの中で、各部門からの申請ベース及びこれまでかかってきている経費の継続で積上げているというやり方なので、多いとも、少ないとも担当者も分からない。管理というか事務作業というか、というものであった。

一方で投資については、ソフトの投資、ハードの投資として管理されており、過去に実施した投資で資産となっているものについては、減価償却としての費用が計上されている。今年の投資計画についても管理されていた。

なるほど、これがユーザ企業の事業計画かと。これまでは、私が行ってきた事業計画は、年度であれ、中期であれ、受注・売上の目標ありきである、システムを販売・構築・保守していくことそのものが事業であり、大雑把に言うとその事業を達成するために、分析(いわゆるSWOT分析的な)を行い、戦略を立て、施策を作り、実現するための体制、投資、回収を行う計画が事業計画である。

しかし、ユーザサイドのIT部門の事業計画は、会社全体の事業計画の一部として組み込まれたものであるということを理解した。ビジネスを成長・拡大の計画を考えるのは経営企画、営業、研究・開発等であり、それを支えるためにそれぞれの関係部門があり、さらに、すべての部門を支えるためのIT部門である。位置づけは理解したものの、基幹系システムを中心にビジネスを行ってきた私にとっては、すべての部門を支える、すべてのハード、ソフトの選択、購入、運用、保守についてIT部門の部門長としてどのように振舞えばいいのか、ものすごく悩ましいものであった。

では、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?