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ITベンダーの部長職から転職して『ユーザ側のシステム部長』になってしまった物語(4)

転職後、4月1日から始まったグローバルのトップのMTGや社内のキックオフが終わり、最終は、社長が各工場内を訪問し、各部門で改善内容のプレゼンを受けるイベントがあった。上司から、「一日かけて4工場を回るから大変だよ」と言われた。もちろんそのような経験がない私にその意味が分かるわけもなかった。それまで製造、装置業のシステム導入の経験がなかったわけではない、もちろん工場の説明を受けたことはあった。しかし、それは私が経験したことがあるものとはまったく違っていた。

その日は朝7時に本社前に集合、バスで回るとのことなので、予定時刻に集合場所に行くと、チャーターされたであろうバスの乗車口に案内係の人がいて、こちらに乗ってくださいと言われバスに乗った。車中にはすでに何人かの役員、管理職の方々が乗られて談笑されていた。いかにも長年苦楽を共にされてきた感じで、名前を呼ぶのも「ちゃん」付けだったりして、和やかな感じであったが、当然、私には知っている人はなく、声をかけられるでもなく、孤独感と今日一日がどうなるのかと感じながら、出発時刻となりバスは出発した。

当たり前であるが、通ったこともない道、広がる畑、見たこともない景色、知人もない、「いや~、ここでひとりやってきて何年過ごすのだろう」ボーっとそのようなことを思っている間に工場に到着した。バスを降りると工場の方々がバスから降りて来る人達を迎える形で「おはようございます」と大きな声で挨拶をしてくれた。そして、ワイヤレスイヤホンを渡された。社長は、社長専用車でやってきて、そして社長を先頭に工場に入っていく。

訪問順は、工程順でその工程の前にはプレゼンのボードが用意してあり、若手社員のプレゼンテーションが始まった。社長は一番前でそのプレゼンを聞き、「これは、他でも活かせるの?」、「海外にも展開できそうなのか?」など、Q&Aを繰り返し、最後に「これは、素晴らしいね」と言って、プレゼンを行っている社員の上司に発表の内容の次の展開を指示して、最後に若手社員に次への期待を述べて激励し、次工程へと移って行った。

これは、パッと見、テレビに映る、要人(例えば、国内外の首相や大臣、著名な社長)が関係者を引き連れて工場を訪れ、工場の方々が自社製品の説明をしている光景に似ている。いわゆるカイゼンの説明を聞いたり、その集団にいることが新鮮であり、本当に製造業に来たんだな、と思って、聞いていてわかることはほとんどなかったにもかかわらず感動した。

この説明は、ひとつの工場で明確に覚えてはいないが、少なくとも10工程はあったのではないか、4工場で40工程、1ケ所10分程度、工場内を歩く時間、工場間をバスで移動する時間、当然、お昼ご飯を食べる時間を含めて2日間続けられた。確かに、足には疲労が溜まるし、大変なことだと思った。すべての工程で社長は若手社員の話を真剣に聞き、ご自身も勉強されているのだろう、そして成果を褒め、鼓舞する。社長は、これが一番の楽しみだと仰っていた、恐らく、本心であろう。自分の会社が良くなっていくことに喜びを感じてらっしゃる、会社を、従業員を愛するという気持ちを勝手ながら想像させていただいた。

私は、製造業のSI事業部門がスタートだったので、若いころにはソフトウェアのQC活動(TQC)があった。稼働結果の論文を書き、プレゼン資料を作成し、そしてチームメンバーが交代で発表していくのだ。役員からコメントを頂き、次に向けて改善する、標準化するという活動を行っていた。私も発表したり、その発表会の司会をしたりと、今となってはいい思い出でもある。しかし、ある時からTQCの活動はなくなった。その活動は、汎用機が主流であった時代で、90年代にオープン化されてからは、開発言語、開発ツール、開発方法(ウォーターホールから、RAD、NRAD、DOA、プロトタイプ、オブジェクト指向、アジャイル、パッケージ化、クラウド化、ローコード、ノンコードなどなどなど。。。)多岐に渡ってきていて、特定のOS、特定の言語の開発方法、自分達が持つ資産に磨きに磨きをかけていくという時代ではなくなったからであり、磨き上げて社内で発表するころには、違う方法が出てきて、もはや製造業とは違う形態になってきたからであろう。

工場周りが終わり、最終日の夜には、社員をねぎらうパーティがホテルの会場を貸し切って行われた。多くの社員が集い、社長、役員が立食している各テーブルを回り、談笑し、盛り上がる、いい会社だなあ、明らかに私がいた業界とは違う文化を感じた。

では、また。


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