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「おすそ分け」の旅

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飛騨高山に行った。気ままな一人旅だ。

東京から名古屋または富山まで新幹線に乗り、そこから特急に乗り換えても5時間近くかかる。首都圏から見れば、日本アルプスを越えた山の向こう側になる。

その独特で歴史的な街並みのせいもあって、日本人よりも、どちらかといえば欧米の人に人気らしい。フランスのミシュランガイドによれば、国内で紹介された観光地のうち数少ない「三つ星」のひとつらしい。ちなみに、それ以外だと京都や奈良がランクインしている。

長野県や富山県だと勘違いする人もいるかもしれない。しかしここはまぎれもなく岐阜県だ。南北に長く、かつては美濃と飛騨というふたつの国があったほどの広さを誇る岐阜県では、「国」が違ったり、あるいは険しい山に囲まれているせいもあって、同じ県内でも文化や方言がけっこう違うそうだ。

ちなみに高山市、実は日本一面積が大きい市としても知られている。それもなんと東京都全体と同じぐらいの広さがあるらしい。ちょっとスケールが違いすぎて驚いてしまう。

季節は秋がはじまり、もうすぐ9月が終わろうとしていた。

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早秋の飛騨地方は、稲刈りの真っ只中だった。

すでに収穫を終えた水田も多く、刈り取りを終えた稲が干されている様子をたくさん目にした。ちなみにこれを稲架掛け(はさかけ)と呼ぶことを知ったのはつい最近のことだ。

列車の窓からは、まだ稲が残った黄金色の田んぼと、すでに収穫を終えた風景とが隣り合わせに見える。

東京で暮らしていると、季節の変化にどこか乏しさと物足りなさを感じることもある。けれどもこうして一面の田んぼが広がる光景を見れば、目の前の自然がわかりやすいほどに季節の変化を知らせてくれる。

遠く見える山の景色はまだどこか夏のようだ。しかし水田はすでに秋の色である。おそらく来月には山の木々も紅葉しはじめ、そしてこの地方に長い冬がやってくるのだろう。

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今回の旅は、直前の思いつきに近いものだった。

予定していた北アルプスへの登山が、台風によって中止となった。せっかく取っていた休みもあったので、代わりにどこかへ行ってみようと思ったとき、この街のことを思い出した。

元々僕は高山に興味があった。古い街並みを見て回るのが好きだったので、いつか行ってみたい場所だった。

たまたま僕の友人に、この高山で生まれ育った人がいる。出発間際に連絡して、どこかおすすめの場所とかないですかと聞いてみると、たくさんのお店の名前が並んだリストを送ってくれた。有料noteでお金を取れそうなほどの情報量だった。

また別の友人は、かつて飛騨の古川という街に長期滞在していたことがある。彼女に連絡すると、同じようにいくつかお店の情報を教えてくれた。

僕はこの旅になんの予備知識も持ち合わせていなかった。いつもはある程度自分で調べようとするけれど、でも今回は思い切って、この二人の「おすすめ」に身を任せてみようと決めた。

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高山名物「古い街並み」をみたり、全国的にも珍しい「高山陣屋」にも行ってみた。列車で隣町の古川まで行き、里山の方を自転車でまわったり、博物館に入って飛騨地方の木工技術について勉強したりもした。

友人たちが勧めてくれたリストを参考に、いろんな食べ物にも挑戦した。

美味しいそば、高山ラーメン、朝市で買った味噌。それから地元のお惣菜屋さんで買った天むす。別のお店では量り売りのおかずを前に、お店のおばちゃんにおすすめを教えてもらいつつ、パックに入った山菜ご飯をこっそり大盛りにしてもらったりもした。

地元の飲み屋さんにも入った。ふだんお酒を飲まないのでどうしても一人旅だと足が遠ざかってしまうけれど、勇気を出して入ることにした。たまたまカウンターで隣同士になった一人旅の男性と話が盛り上がり、お互いのいろんな話をし合って楽しい時間を過ごした。

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振り返ってみると、今回の旅は「地元の人のおすすめ」をひたすら巡る旅になった。友人たちのおすすめのおかげで、彼らのことをより深く知るきっかけにもなった。

Googleマップや食べログとにらめっこしながら、一人その場でお店を探すのも悪くはない。しかし、その土地をよく知る人から教えてもらった情報には、インターネットでなぞるだけでは得られない価値が含まれている。

考えてみれば、誰かに自分のおすすめを紹介することは、その人にとっての「おすそ分け」のようなものだ。

僕たちは情報の「おすそ分け」を受け取ることで、あたかも旅をその人との時間として記憶するようになるのだと思う。その人がすすめてくれたお店の情報というものもまた、まぎれもなく「その人の一部」であるからだ。

そして僕たちは情報の「おすそ分け」をしあう度に、ごくわずかな「僕たち自身」をやり取りしあっているのだろう。だからこそ、誰かに教えてもらったおすすめが思わぬラッキーを引いた時、僕たちは「おすそ分け」してくれた人のことを思い出すと同時に、自分たちだけで旅するその何倍も大きな幸せを感じるかもしれない。

そんなことを考えながら、僕自身も誰かにたくさんおすすめしながら生きていこうと思った。自分の「おすそ分け」で相手が少しでも喜んでくれるのなら、きっとなおさらのことだ。

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