風俗嬢のあの子の結婚を応援したい【2話】私辞めます(前編)
【登場人物おさらい】
■音(おと)ちゃん。22歳。
身長は160センチ程度、色白でたれ目。カジュアルファッションがとても可愛い。
デリヘル嬢。
店長と付き合っている。
■店長 47歳
シングルファーザー。
元嫁と奇妙な同居生活を送っている。
キャストの音ちゃんと付き合っている。
■俺 34歳
サラリーマン。
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~あらすじ~
デリヘルのフリー指名で来た音ちゃん。
明るさの中に危うさと暗さが混在する女の子。
彼女はかなわぬ恋に悩み、泥のような夢におぼれていた。
俺は再び彼女に会おうとした。俺は彼女に何が出来る。
その先に待つのは閻魔か悪魔か。光はない。
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「彼女繊細なんで、優しくしてくださいね。」
今回もその一言から一日が始まった。
うだるような暑さ、じとじとした湿っぽさが何とも不快だ。
俺は今日は彼女に会う。
俺はまだ彼女の決意を知らない。
彼女だけはこの結末を知っている。
第二話『私辞めます』
久しぶりの休み。
何をしようか。
いつものように問いかける。
もう一人の自分に。
俺が人生をかけて為すべきことはなにか。
己を賭して成し遂げたいことはなにか。
自分自身が生きた証をどう残せるか。
俺はいつものデリヘルに電話をした。
「お電話ありがとうございます~。」
特徴的な関西弁。
店長だ!
彼は俺の番号を登録していたようで
「こんにちは〇〇さん!今日はどうしますか!?」
相変わらず陽気な接客スタイルだ。
こんな陽気さ、韓国の東大門で「おー!ハンサムボーイ!チャンドンコン!イビョンホン!」と謎の呼び込みをしてきた服屋の店員以来だ。
きっと彼女から何かしらの報告があったのだろう。
俺は何もしらない風な口ぶりで「おとちゃん、今日空いてますか?」と聞いた。
彼の声色が少しだけ変わった。
「いますよ。〇時だったら大丈夫です。」
分かりました、じゃあその時間で予約しますね。と俺は答えた。
少し間が空いた。
店長が口を開く。
「・・・承知いたしました。あのー…彼女は凄く繊細なので、優しくしてあげてくださいね。」
まいったな。またこの調子。
前回と一言一句違わない。
隣で少年隊も「まいったね、今夜」を歌いだしてる。
店長は数ヶ月前と何も変わっていなかった。
愛する彼女を知らない男に遣わす気持ちは俺には到底分からない。
せめてもの気持ちの表れなのか。
電話を切った。
準備をする。
お前らは風俗嬢に差し入れする派?
俺はする。
【風俗嬢が受け取って喜ぶベスト3差し入れ】
1位:現金
2位:アマギフカード
3位:App Store & iTunesギフトカード
俺は10位にも満たない彼女の好きなエナジードリンクを片手にホテルに向かおうとしている。
時は2009年、学生日本一になった立命館パンサーズが社会人日本一のパナソニック電工インパルスに挑んだ。
試合前、緊張して気持ちが高ぶるパンサーズの選手たちに、古橋由一郎監督は声をかけた。
『男にはな、人生をかけて戦わなあかん時がある。相手がどんなに強い、相手のほうが絶対に有利だと言われててもな、立ち向かって行かないかん時がある。
松下電工が強い、有利だというのは、マスコミが言ってるだけやろ。フットボールの内容、チームワーク、どれを取ってもわれわれのほうが上や! それぐらいの力はお前ら1人ひとりが持っとる。お前らならできる、お前らならできるんや!
やろう! このチームで最後の最後まで頑張って、力を出し尽くして今日は勝つ!
さあ、勝つぞ! 1・2・3・GO!』
俺はエンジンをかけた。
動き始めた車の車輪は簡単には止められない。
俺たち3人の物語がまた回り始める。
like a rolling stone
転がる石に苔なんかできるわけないだろ。
《後編へ続く》
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