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どうしてもかめはめ波を打ちたい女

 私はサイヤ人ではない。ただの人間だ。痛いのは嫌いで、喧嘩に対しても消極的。そのうえ怒りの感情をほとんど持っていないため、かめはめ波を打ちたい相手もいない。地球を救おうにも、この星は今のところ平和である。素晴らしいことだ。


 ドラゴンボールは、幼い頃、初めて夢中になった漫画だった。

 冒険することへのワクワクドキドキ。肉体と精神を伴った強さへの羨望。決して諦めない悟空たちの勇気。そのすべてに眩しさを覚え、私は子供心に強くなりたいと心に誓い、髪の毛を悟空のように固めたりしていた。(やることの方向性が間違っている気がする)

 完全なる余談だが、初恋の甘酸っぱいときめきも、胸がひりひりするような初めての失恋も、私はドラゴンボールのベジータで味わった。


 それから10数年経ち、私は大人になった。そして久しぶりにドラゴンボールを読んで、こう思った。

 「理由なんてない!かめはめ波を打ちたい!!!」

 私の心はいかにも、少年のままであった。


 と、いうわけで。

 この自粛期間、気を集中させ、エネルギー波を生み出す特訓を始めることにした。

 目を瞑り、体の中の気の流れを確認する。それを掌にゆっくりと慎重に集め、その気が最も充実した瞬間!

 それがかめはめ波を打ち出すときだ!

「か〜…め〜…は〜…め〜…………波ァ〜〜!!」

 残念。かめはめ波は出ない。


 「家でかめはめ波の練習して大丈夫?近所迷惑じゃない?」と心配してくれたそこのあなた。

 その心配の通り、私の住む家は格安物件のため、壁が薄い。隣の人のくしゃみやイビキが聞こえるほどだ。

 私は大人なので、かめはめ波を練習するときの声量には充分気を遣っている。そのへんはご安心いただきたい。

 今日も私は隣人に気を遣いながら、かめはめ波の練習をする。 

 だけど実際できて便利なのって、かめはめ波より舞空術じゃない?あぁ、舞空術で出勤したいな。

 かめはめ波の練習やめるか。


次回「どうしても舞空術で出勤したい女」

(続きません。)

 

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