4700万、捧げたお金の先にあるのは〇〇でした。
「今でもね、思うの。あの時私のお腹にいた赤ちゃんが、『生きててくれてありがとう』って言ってくれているって。」
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私がレイコと初めて出会った時、「この子がエースなんだ」と少し驚いたのを覚えている。明るめの髪に、小柄な体つき。俗にいうエースはバチバチに化粧をした「攻撃力の高そうな女」をイメージしていたのだが、レイコは柔和な雰囲気で、すぐに打ち解けることができた。
レイコは現在歌舞伎町でとあるホストのエースをしている。
月初に売掛(つけ払いで飲むこと。決められた曜日までに支払えば、ホストのその月の正式な売り上げとして計上される。)で飲み、月末までに掛けを返す。エースとして本担(担当の中でも本命の担当。サブ担がいる場合使われることが多い)に3桁(歌舞伎町では100万を3桁と表記する。恐ろしい。)の会計。
そんな豪快な飲み方を数か月も続けているようだった。
「でもね、私エースするの2度目なんだ。」そういってレイコは私に、1度目のエースをしていたころの話をしてくれた。
歌舞伎話譚 episode02.4700万円貢いだ愛の先
「彼女として」のんびり通った至福の時間。
金額を求められれば「客」なのかと不安になり、「病み」に繋がる。
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親元から逃げ、地方で生活していたレイコ。既に風俗は初めていて、余ったお金でホストクラブには数回通ったことはあった。その中でとある店舗で初回から送りを選び、数回指名したホストがいた。しかし彼にもハマらずにお店から足が遠のいていた。そんな時、たまたまアプリで知り合ったのがレイコが恋する後の担当だった。
アプリでやりとりを重ね、ご飯にも一緒に行った。そして数回あった後、交際。そして彼がホストだと知る。
「でもね、その時には既に私は彼に気持ちを持っちゃってて。ホストだろうが関係ないし、付き合って一緒に住んでたから彼女として普通に通えばいいかって。そこから彼を指名してお店に通い始めたんだ。」
彼女としてお店に通い、ゆとりがあるときには少しだけお金を使った。最初は安い金額のシャンパンから。安くても、コールもしっかりしてくれる店だった。
「シャンパンを入れたらもっともっと好きになっちゃって。指名した月の2か月後が彼の誕生日だった。彼に1000万行きたいって言われた。彼は当時、正直ホストをやる気がなくて悩んでいた。そんな彼を見て私、1000万いこうって言っちゃった。」
それまでレイコは自分の事を、たまにシャンパンを入れる細客だと思っていた。現に彼と付き合ってたし、同棲もしていたから。自分は本当の彼女だと思っていたし、使っていた金額も大した額ではない故、「お金じゃない」という安心感があった。しかし、もともとホス狂いの気質があるレイコは、やるからには彼女として応援したいと思ったのだ。だからその時は別にエースをする気なんてなくて、本数をつけて彼女なりの精一杯を想定していた。
「でもね、私が1000万いこうって言ったことで彼にも火がついちゃって。『じゃあやれよ』って。そう言われてから、『あ、私なんてどうせ客のうちの1人だ、営業だったんだっていう『病み』が彼との間で生まれるようになったの。『お前が1000万いけといった。やる気にさせといておとすなよ。』なんて彼に言われて、プレッシャー半端なくて。在籍でのんびり、なんて訳にはいかなくなって、まずは出稼ぎを始めた。」
出稼ぎ、箱ヘル、ソープ、掛け持ち。それでも足りない。
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そしてレイコの出稼ぎ生活がスタートした。今まで出稼ぎなんて行ったことはもちろんなく、ホストクラブには在籍のデリヘルでのんびり稼いだお金で通っていた。あくまで余ったお金で遊ぶ感覚であって、「ホストのために、あなたのために」というお金の使い方、遊び方をしたのは彼が初めてだった。
「出稼ぎに行ったけど、やっぱり病んじゃって。なんで私ばっかり、私ばっかりって。私がこうやっている間に、ほかの女と会ってるんでしょ、アフターしてるんでしょ、同伴してるんでしょ、セックスしてるんでしょって。何回も何回もメンヘラ起こして。リストカットもして。正直身体ボロボロになった。でもそれでも頑張って、メンヘラ起こして。担当も担当で、『俺も寝ずに頑張ってるんだ』って言いだして。1000万めざして頑張っていくうちに、『付き合っている』という前提以外のすべてがこじれた。『お前に睡眠時間はいらない。寝ずに働け。』って言われて。」
笑っちゃうよね、仮にも彼女だよ?なんて自嘲気味に笑いながら私に話すレイコ。その声はだんだんと涙と嗚咽が混じるものに変わっていった。
「だから、彼に寝ずに働けって言われて、私、箱(ソープ)やったりヘルスやったり、箱もデリも掛け持ちして。私の睡眠時間なんかほとんどなくて、風俗の待機中しか寝れなかった。そんな生活を3か月間ずっと続けた。でも、それでもさぁ、足りないって言われたの。それ以上何しろって言うの?ってなるじゃん。もうこっちは精神壊れても頑張り続けて。倒れてもやったの、本当に休みなしで。なのに足りないって何?私ガムシャラに働いたよ?」
そうこうしている間に、ついに彼のバースデーがやってきた。
そして芽生えた「1番じゃないと嫌」という想い
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働いて働いて貯めたお金で、迎えるバースデーイベント。レイコはタワーは嫌だと彼に言った。「だって1晩で消えちゃうんだよ。飾りなら永遠に卓に残るじゃない。」と話すレイコ。彼女がイベントで彼に卸したのは高級クリスタルボトルである「リシャール」と、その他飾りやシャンパン。総額数百万円を使った。それだけでも十分すごい。「彼女として応援」には十分すぎる金額だ。しかし、その日のイベントで彼のエースがやったタワーを目の前にして、レイコの心境に変化が生まれた。
「タワーが結局華じゃん、バースデーの。タワーの子も結局同じくらいの金額を使ったけど、タワーのコール中は本当につらくて、涙が出てきたの。私のクリスタルはあっさり卸されたのに、タワーはなんて華があるんだろうって。初めてのバースデー、初めての好きな人、初めての恋したホストで。目の前であんなに盛大にタワーをやられて本当にショックだった。被りのエースがその日使った金額は私よりもわずかに高かった。ラストソングは被りの横で歌われた。彼女なら客と張り合うな、って思う?でもね、私が1番好きで、私が1番愛されてるのに、彼の横にほかの女がいるのが許せなかったの。」
結局そのあと、彼のエースは切れてしまった。バースデーイベントを終えて、レイコは「何があっても今後は私が1番だし、イベントのたびにタワーをするのは私。その上で、高級ボトルも好きだから集めていこう。」と決心する。
そこから「エース」としてのレイコの生活が始まった。バースデーイベントでは現金が間に合わず、300万の掛けを噛んだ。しかし毎月の売り上げも落とせない。彼の「まずは来月」の言葉で掛けは先送りになり、毎月毎月200万は現金で用意するも、300の掛けは返せないままだった。
他店に現実逃避で行きたくても我慢して、彼を一途に応援し続けた。
NSソープ、AVとハードになる仕事の高い報酬と大きな代償
始まったDV
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待機時間を長くして寝ずに働くことに体力的に限界を感じたレイコは、NS(ノースキンの略称。コンドームを装着しないプレイを提供するので、性病にかかるリスクなどが極めて高い。しかし給与も高い。)の高級ソープに移籍した。性病をもらう可能性が極めて高い環境の中働いた結果、重なる性病の治療の為、約3か月間風俗で働けなくなった。
その間もレイコはご飯のみのパパ活など、股を開かない方法でお金を稼ぎ続け、その間も100~150万円は担当に使い続けた。当時の無理がたたったのかはわからない。しかし、身体に異変をと感じても目先の現金を優先して、検査に行くことを先延ばしにしていた。結果性病の発見は遅れ、一部の性病により後遺症を残す結果になった。
「性病はなくなったからNSに復帰したけど、後遺症が凄くて…。痙攣とか。でもそれすら担当は理解してくれなくて働け働け働け。なにか言い訳したら掛けの事を責められる。出会って半年~1年たったころ、彼のDVが始まったの。毎日殴られて蹴られてボッコボコ。身体に痣が残ったまま出勤して、クビになったこともあったなぁ。」
それでもめげずに働き続けたレイコ。そんな彼女に彼は「役職に上がりたい」と言い出す。役職に上がるには6か月連続でナンバーに入らないといけなかった。それには今以上にお金がいる。
「私は正直、身長も低いしルックスも中の上。顔だけで選ばれるレベルじゃなくて、保証(一定の条件で出る1日の賃金の保証額。客がつかなくてもお金がもらえる保険のようなもの。当然かわいい子は高く、ブスは低い。)も出て7だった。」
どうにかして稼ぎを上げたい。次にレイコが選んだのは海外での出稼ぎだった。慣れない土地に知らない言語という環境でレイコは病んでメンブレを起した。それでも彼の一番を守るためにやり切り、エースを継続した。
「それでも彼に足りないって言われて、AVを始めた。そしたら肩書で指名料も指名もつくようになって、デリとかS着でも稼げるようになった。」
最愛の彼との子ども、幸せな時間と凄惨な結末
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そんな中、彼との子供の妊娠が発覚した。悩んで話し合った結果、彼と「育てよう」ということになった。6か月連続でナンバーに入る目標は、赤ちゃんのためにあきらめた。彼が自分と二人の間にできた命を大切にしてくれて、レイコは改めて愛されていることを実感した。
妊娠している数か月は幸せだった。専業主婦をしながら、パパ活やエステなど身体に負担がかからない程度にお金を稼ぎ、彼に使った。そのころは一本釣りだったから使う金額が減ってもエースではいられた。
彼はいつも「身体あったかくして寝な。」とレイコの身体をいたわり、レイコを第一に考えてくれた。酷かったDVも、妊娠してから止まった。全てが満たされていた。
しかし、幸せは長くは続かなかった。妊娠して10か月。もうすぐ待ちに待った赤ちゃんが産まれるというその時に、レイコは腎臓の病気を患ったのだ。
子どもの命を取るか、レイコ命を取るかというあまりにも残酷な選択肢しかレイコと彼には与えられなかった。レイコは子どもを、彼はレイコの命をと話し合った。結果、レイコは自分と愛する彼の子供を、死産した。
再び始まったDV。エースを続ける疲労。何もかも限界だった。
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「子どもがいる間はDVはなかったけど、死産した後はまたDVが再発した。エースとして更に頑張るように言われて、NSのソープにも復帰した。だけど、DVの悪化、ソープの疲労、お金を使うことの執着。掛けもたまりにたまって、正直何度も限界だ逃げたいって思った。それでも1年は頑張った。」
死産してから1年後の秋。レイコはまだエースを続けていた。子ども命日は、彼には忘れられてた。日々のストレスからマンションから飛び降りようと何度もしたし、首を吊ろうとしたこともあった。
「私だけ命日覚えてて、泣きじゃくってた。命日の日の夜ね、その子夢に出てきたの。泣かないで私は元気だよって。その子、歩いてたよ。しっかり自分の足で不安定ながらも歩いてたの。実際には育てられてはないけど、夢の中でちゃんと成長してくれてた。それが私の幻覚で、たとえ理想像だとしても、ちゃんと私の心の中で生きていてくれてるんだって思えて、すごくうれしくて。それと同時にごめんねって気持ちもあって。ただひたすら涙を流してた。」
「赤ちゃんが今でも見守ってくれてるの、私の事を。そんなはずないって思うと思うけど、多分同じ思いしたことある子ならわかるんじゃないかな。前にあるフォロワーさんから、ずっと子供が見守ってるよ、私がそうだから。って言ってくれたことがあった。だから多分そう。でも私、弱かったけどその子のおかげですごく強くなれて。彼氏にも言い返せるようになったし。それでついに、彼のもとを離れるって決めたの。」
長らく離れていた親の元に訪れ、すべてを話して土下座した。彼氏と離れたい。2年半で4700万を捧げて、多額の借金があると。DVを受けていることも話し、警察に彼氏を突っ込んだこともあるほど、自分の身が危険なことを伝えた。そして親と共に弁護士を立てて、借金の手続きを進めてもらった。親元に逃げて離れたあの日から、レイコは彼に一度も会っていない。地方にはいられないと感じたレイコは、次なる居場所…いや死に場所を求めて、歌舞伎町に足を運んだ。
彼の元を離れ、死に場所を探してたどり着いた歌舞伎町
とあるホストの言葉が彼女を死の淵から救った
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彼と離れた後のレイコは精神的に不安定だった。何度も何度もメンヘラを起こしてリスカもした。屋上から飛び降りようとして第六トーアにも上った。彼の事を思い出したくなくて歌舞伎に逃げてきて、ホストクラブで札束を紙屑のように使った日もあった。
手首はズタズタ、重なるODと自殺未遂。そんなボロボロなレイコを変えたのは、とあるホストの言葉だった。
「もう死にたい。」そうただ繰り替えすレイコに彼は、「死ぬ勇気があるなら死ぬ気で生きてみろ。」と言った。子どもを失い彼氏の元から離れてから長い間ずっと、灰色だったレイコの世界が色づき始めた。
レイコは今、歌舞伎町で元気に暮らしている。私に病んで電話をかけてくる日もあれば、幸せそうに惚気てくれることもある。レイコの歌舞伎町での物語はまだ始まったばかりなのだ。取材の最後、レイコは最後に私にこう話してくれた。
「私が今生きているのは子どもと今の担当の言葉のおかげ。。彼氏との2年半は本当に最悪な思い出って思った時期もあった。でも今は、私の人生の軌跡というか、いい思い出かな。愛されてないって感じたり、ただのお金なんでしょって思ったことは何度もあった。それでも愛されてて幸せだった時間があるのも確かでさ。最後に言えるのは、こんな私を愛してくれてありがとう。ほんとに、いい思い出をありがとう。私は精一杯幸せになるよ、かな。」
子供の存在、元彼の存在、そして担当の存在がレイコという1人の少女を強くし彼女の人生を変えた。
彼女は今、担当の隣で幸せそうに笑っている。
彼女の歌舞伎町での物語が幸せな終わりを迎えるように、と私は切に願う。
4700万という多額のお金をささげて、レイコに残ったもの。それは彼女に宿るたしかな「強さ」なのだろう。
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