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ゆめをかなえる

 木陰から飛び出してきた子どもの影は日が高い時間とは思えないほど淡く今にも消えてしまいそうだった。シルエットもぼやけているように見えたが、それよりも影の淡さに目を取られた。するとその子どもはいつの間にか姿を消していた。目の前で起こったことを科学的に証明するのは困難であり、誰も信じてもらえないだろう。それでも気のせいで済ませたくないもやもやが身体中を駆け巡った。
 昔から運に恵まれないことが多かった。それだけならまだましだが、いじめの標的にもなっていた。まるで死神に魅入られた無表情のロボットのように生活をしていた。窮地から救い出してくれるヒーローは現れることがなく生きる意味も失い未来も悲観していた。無限に広がる大空を自由に滑空する鳥がうらやましかった。 
 その中であの正体もわからないこどもと話がしたくなった。もしかしたら自分を不安から救うヒーローかもしれない。一縷の望みをかけて必死に探した。以前見かけたときと同じ時間に毎日出向いた。しかし一向に姿を見ることができない中、何度目かの不運が襲った。涙を浮かべながら幼少期からやり直したいと常に思っていた。すると木陰からこどもが飛び出してきた。淡い影にぼやけたシルエット、まさに探し求めていたヒーローが現れた。しかし待ちに待ったヒーローはどこか見覚えのある目をしていた。それは自分に自信があった幼少期の自分そのものだった。すると今度はけたたましく鳴いた鳥の声に気を取られているうちにその姿は忽然と消えた。会いたかったヒーローはいつも目の前で消えてしまう。そういえば初めてあの子どもを目撃したときも深く落ち込んでいた。なにもうまくいかず途方に暮れていた。そんな全ての推理材料が揃ったとき、おのずと答えが見えてきた。あの子どもは自分が作り出した空虚、そしてそれは自分の理想の姿をした死神だった。つまり必死になって探していたあの子どもはあの時期からやり直したいと強く願い、自らの理想をつめた流れ星に過ぎなかった。 
 そのことに気付いたと同時に大空がよく見えるところへと向かった。そして震えた手を抑えながら叫んだ。思いのまま胸に秘めた想いを叫んだ。次は夢を叶える番だ。そして鳥になるために地面から足を離した。口角は上がったままだった。

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