見出し画像

006.電柱と家賃と昔話(1/3)

 数年前、親戚の遺産を相続した。
山奥で静かに暮らしていたその家には後継ぎがおらず、親族の不幸も重なってお家断絶の危機に陥った。まだ先の話だろうと気楽に考えていた時間の猶予がなくなったため、急遽白羽の矢が立てられた私が養子に入る形で家は形を残すことになった。田舎の家では割とよくある話だ。

家の遺産を完璧に整理してあの世に旅立つ人間などほとんどいない。
申告のために親族がどんな資産を持っていたかを調べて役所や法務局をハシゴした。面倒な部分は親がある程度まとめてくれていた為それほど苦にはならず助かった。こういった非日常的な手続きはそれなりに貴重な経験になったと思う。もう一度やりたいとは思わないが。

出てきたのは現金のほかに保険、証書、家や土地など様々。土地の権利書などは100年近く前のものがタンスから出てきたりしてタイムカプセルを開けている気分だった。どれもこれまで自分には無縁だったものだ。
(詳細は割愛)


 資産整理がひと段落して暫くした頃、実家の両親から連絡があった。
電力会社から電柱敷地料の妙な通知が来ているという。
最近引っ越しをして住所変更の連絡を忘れており、あて先不明で実家の方へ届いてしまったのだった。

日本全国に無数に存在する電柱は、そのほとんどが電力会社とNTTが所有・管理している。ただしその”敷地”まで全て自前で用意するのは手続き的にも税金的にも難しいため、街中では個人所有の土地に電柱を立て、電柱敷地料という”家賃”を支払う形をとるのである。

数年前に「山に投資する」という書籍で話題になったことがあるが、電柱の敷設された山を買うことで(年間数100円ではあるが)電柱の家賃収入を得ることができる。これを狙って山を買いまくるのだという。割に合うとは思えないが面白い着眼点だと思う。

相続した家は元々祖父が管理していたが、その敷地内に電柱が立っていて家賃が発生するということは既に知っていた。親もそれは承知していたはずなのだが”こんなもの”は知らないという。何を言っているのかと不思議に思って通知を見せてもらい、目を丸くした。

電柱の所在地:I村K地区。
そこには相続した家から離れること数キロ、数十年前に放棄され、現在は誰も住んでいないはずの地名が書かれていた。(続


この記事が参加している募集

#ふるさとを語ろう

13,680件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?