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オホーツク核要塞 小泉悠 を読んだ

小泉悠さんの本を読むのはこれで三冊目。一冊目は現代ロシアの軍事戦略。ちょうどロシア・ウクライナ戦争が勃発する一年くらい前に発売された本で、その絶妙なタイミングの重なりによってロシアの論理を知りたがっていた大衆にとんでもないプレゼンスを発揮して、小泉悠という学者の地位を爆上げした本でもある。発売して間もないころ隣国ロシアと呼ばれる、あの何を考えているのかはっきりとわからないミステリアスさを醸し出す国家の輪郭を少し知りたいと思って買った。アマゾンの購入履歴を振り返ってみたら予約をして買っていた。めちゃくちゃファンだな俺。非常によかった。いいと思ったから彼の本はたびたび買うようになった。ロシア・ウクライナ戦争が始まる前から、ネットの番組か何かで彼のしゃべりを聞いて面白い人だなと追いかけていたらこの人気大爆発。やっぱいいよね小泉悠。俺の目に狂いはなかったようだ。

二冊目はウクライナ戦争。ロシア・ウクライナ戦争から十か月ほどして発刊した本。戦争以前一年ほど前から話を始めて戦争半年?くらいまでを順に追っていく形でストーリーが進められる。メディアに引っ張りだこだった彼が超人的な体力で隙間を縫って執筆したと思わしき本で、前著よりかは内容は薄め。ただロシア・ウクライナ戦争の概要を追うのにはうってつけの本だろう。 

そして満を持して発売に至ったオホーツ核要塞である。正確に言えばこの本の前に一冊出版されているが、専門家同士の座談会議事録だったのでちょっとパス。濃いです。ユーチューブで発売記念スペシャルと題した放送が国際政治チャンネルで放送されていましたが、その時も非常に濃い内容であることが明かされていた。非常にマニアックです。三冊目ともあるし、普段から軍事的な書き物が好きだからまあ何となくは読めるであろうと自分に期待していましたが、とてつもなくマニアック。もちろん一番彼の本の中では読みずらかったです。ウイキペディア的な細かさというんでしょうか、どこの基地の潜水艦師団が時代を進むとああなり改変しまして旅団になり~。的な記述が続きます。地理の知識を全復習しないと追いつけないし、兵器の固有名称がもうばんばん出てきます。ああこれまで読者に手加減をしてくれていたんですねと思わず感じてしまいました。ソ連ロシアの核戦略を語る上での必見の一冊だと思います。

話はそれるが小泉悠の良さは軍事屋にあるまじきバランス感覚だろう。この国の国防にかかわる人の典型な政治姿勢として、敵対する政治勢力の主張を徹頭徹尾否定して、その頭の悪さを馬鹿にする、非常に悪い伝統が日本にはある。まるで旧軍の亡霊が乗り移ったのかごとき強烈な愛国心は見ていて食傷を起こすことがしばしばだ。だが彼は非常にスマートなふるまいをする。そこが非常に好印象だ。愛国心を内に秘め、リベラリズム的な、理想論にも目を配りつつ、軍事屋としてリアルの国家の相互作用を冷徹に見つめる。論壇やジャーナリズムにかかわる人にとって彼の姿勢は学ぶべきものが多いはずである。少なくとも私はそういうパフォーマンスができる人が好きです。

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