第五十一景 今年登った山の話
今年の目標として、決めたことのひとつに、50の山の頂上に登るというものがあった。県外の山にも行くつもりであったが、コロナが流行り出したせいで、行かない事にした。その代わりの目標として、県内の登ったことのない百名山に登ってみようと思った。
県外の山に行くときは早起き(早い時は2時とか)をして、小旅行のような気分で行くことが多かったが、県内の登ったことのない百名山も行動時間が長いため、それくらいに起きなければいけなかった。
今年行くことが出来た百名山は、妙高山、火打山、平ヶ岳だ。どの山も行動距離が10キロを超える。平ヶ岳にいたっては20キロ以上の道のりになる。いきなり登るのは流石にきついので、長い距離を歩くために、近くの里山を歩くことにした。
まだ、コロナが流行っていない1月に長野県の上田市にある太郎山に行った。そこから2、3、4月は自粛し、5月中旬から本格的に始動した。6月は5~10キロの行程で登れる山に週1ペースで登った。
誤算だったのは7月だ。7月は週末に限って、雨降りだった。山に登って死にたくないので、雨の日は絶対登らないというポリシーを持っている。トムラウシの遭難事故の動画を見てから、低山でも夏でも、低体温症には気をつけなくてはいけない。
7月が明けて、8月の最初の週に妙高山に登った。7月は全く体を動かしていなかったので、計画とはかなり矛盾している。割と思いつき人間なので、そういうことがよくある。
その週の半ばでは、雨予報だったが週末が近づくにつれて、行けそうな雰囲気が出てきた。行きたくてうずうずしていたのだ。3時に起き、車で登山口に向かった。途中は雨で、着いても雨だった。しばらく仮眠しようと思ったが、次第に小雨になってきたので、出発することにした。
登山口は温泉だったため、温泉の香りがふんわりと漂っていた。温泉の匂いが好きなので、幸せな気分になった。野天風呂があって、帰りに入ろうと思っていた。
天気は徐々に良くなるように見えて、厚い雲の合間から青空がのぞくこともあった。最初の方は、谷になっていて、かなり下に川が見えた。高度感があって、高所恐怖症の僕は、終始びくびくだった。雨のせいか、舗装された道はツルツルしていた。
ところどころに落差のある滝があり、流れ落ちる水の音の大きさに驚く。滝や谷、この景色が見れただけで、来てよかったと思えた。ゆるゆる進んでいると、いきなり山道になった。
そして、傾斜がきつい。雨に濡れた土は、滑りやすく足元に気を遣った。そのあとは、無で登り続けた。登るときは、気が焦って、とにかく先を急ぐことが多い。
景色を見たいとも思うが、いつの間にか、辺りは霧に包まれていた。景色の見えないときの山登りは、修行になりやすい。
無心で登っていると、頂上に着いた。眺望はない。ただ大きな岩があった。久しぶりに、高い山に登ったこともあって、気分がよかった。いつもは頂上に来ると面倒になってしまい、お湯を沸かさないことが多いのだが、この時は沸かそうと思った。
バーナーに火を点け、水が沸くのをただ見ている。そうしていると、薄ら寒くなってきて、風よけをザックから取り出して着る。違う方のルートから、団体客が登ってきた。このご時世、非常識だと思い、少し気分が悪くなった。
そそくさとカップ麺を食べ、コーヒーを飲み、下山の準備に取り掛かった。下山でも続々と人とすれ違った。複数人のパーティーが多く、あまり気にしない人もいるんだなあと思いながら、歩いていると、雨が降ってきた。
結構な雨だった。ザックカバーをするのも面倒なので、ザックごと、風よけのシェルで覆った。雨はだんだんと強くなる。野天風呂もあきらめ、先を急いだ。
途中クワガタを拾って、目を輝かせた。名残り惜しかったが、自然に返した。温泉街の石段が滑りやすく、この日一番の難所であった。最後は土砂降りだった。
こんなに雨に降られたことは初めてで、山の天気は恐ろしいと改めて思った。登山口から、車を走らせ、下界に着いたら、晴れだった。雨なのは山だけであった。
そのあとも、翌週に火打山、9月に平ヶ岳、10、11、12月も晴れの日があれば、ちょくちょく登って、結局37の山頂に登ることが出来た。
来年も状況はそれほど良くはならないと思うが、自分が行ける範囲で色んな山に行って、そこでしか見ることが出来ない景色を見て、そこでしか感じることが出来ない感情に自分を染めたい。そう思っている。
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