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第五十九景 マッチングアプリ大戦記 episode10-3

次は温泉旅行に行くことになった。なにかと旅行に誘いたがるのは、僕の趣味だ。1ヶ月くらい間が空いていた。蔵王温泉へ行くことになり、初めて行く場所だったのでとても楽しみだった。

出発の前日の夜に、彼女の家に泊まり、翌朝一緒に山形県へ向かうことになった。自宅から出る日の朝は、寒かった。時間が有り余っていたので、山形回りで福島へ向かった。

途中、お肉が有名なお店に寄った。焼肉定食を食べたのだが、とても美味しかった。ボリュームがあり、満腹になった。

山形に入ると雨が強く降っていて、福島はどんな天気だろう?と心配しながら車を走らせた。彼女に会うことが待ち遠しく、時間が長く感じられた。

やっと福島に入った。この日、彼女は実家に帰り、親戚と会うため遅い時間にならないとアパートに帰ってこないようだった。

彼女の部屋のお風呂を借りるのも忍びないので、日帰り温泉にでも寄ろうと思っていた。コロナで営業しているか不安だったが、やっていた。サウナと温泉を交互に繰り返し目一杯時間を潰した。

それでもまだ時間があったので、おいしそうなラーメン屋を調べた。不慣れな道を運転し、なんとかたどり着いたラーメンは煮干しが効いた澄んだ美しい一杯だった。

それでもまだ時間があった。雨道を走って車が汚くなっていたので、洗車をすることにした。ピカピカになったところで、彼女の家に向かった。彼女の家の近くには車を置く場所がなく、びびりな僕は正規の駐車場に停めたかったので、最寄りの駅の隣の大きい駅の近くの駐車場に車を置いて、電車はあったが、3キロ歩くことにした。

親戚の集まりがちょうど終わり、もう少しでこっちに来るから待っていてと彼女は言ったけれど、なんとしても歩きたかった。頬を突き刺すような冷たい風を受けながら、歩を進めた。

30分くらいかかっただろうか、閑散とした暗い住宅街を通り抜け、駅っぽい明かりが見えてきて安堵した。まだ着かないとのことで、近くのコンビニで温かい紅茶を買って、イートインスペースで飲んでいた。

ほどなく、家に着いたとの電話がきた。喜び勇んで、外に出た。彼女の指示とは、逆の方向にわざと歩いた。そっちじゃないと彼女が言い、振り返るとクリーム色のパーカーを着た女性が飛び跳ねて、手を振っていた。部屋着で飛び跳ねる姿は可愛かった。

久しぶりに会ったのに、ギクシャク感はなく、ずっと一緒にいたような感覚だった。コンビニから数分のところに家があった。ひとり暮らしの女性の家を訪れるのは、大学生ぶりだとしみじみと思った。

部屋の中は、よく片付いていた。部屋の中が男くさいと言われるということを気にしていたが、そんなことは全然なかった。彼女は実家で、天ぷらを揚げたらしく、油のにおいがした。歩いてきた道は暗かったので、明るい部屋では、彼女の顔がはっきりと見え、目を合わせることが恥ずかしかった。

温かい緑茶をいただいて、テレビをぼんやりと見た。こたつの中に椅子があって、なんであるのかと聞くと、「邪魔だからそこに隠してある」と彼女は答えた。やはり変わっている。

お風呂はどうするの?と聞かれたが、入ってきたと答えた。彼女がお風呂に入っている間も、なにをするでもなく、テレビを見ていた。これからどうなってしまうのだろう?

とりあえず歯磨きをしようと、念入りにプラークコントロールをした。上がってきた彼女は、学生時代の半ズボンの体操着を着ていて、想像していたよりも、もちっとしていた脚が露わになっていた。

なぜかそのまま、布団の方へ行ってしまった。僕も歯磨きを済ませ、パジャマに着替え、彼女がいる布団に行こうとしたが、念のため「隣で寝てもいいんですよね?もしあれだったらこたつで寝ますよ。」と聞いた。

隣で寝てもいいとのことだった。彼女はトイストーリーの恐竜のぬいぐるみと共に寝ていて、どこかよそよそしく、僕の方を見ずに、壁の方を向いていた。ビッチエピソードを聞いていた割には、恥じらいが感じられた。

僕はなにもする気はなかったのでそのままじっとしていた。眠ろうとしたがなかなか寝付けない。彼女も寝れないようで、途中、会話をして、寝たのか寝てないのか分からないまま朝がきた。

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