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第五十八景 マッチングアプリ大戦記 episode10-2

2回目のアポの日時が決まるまで、頻繁に電話をした。日が変わるまですることもあり、本当に楽しかった。主に聞いたのは、その日の仕事の愚痴だった。職場に対して思うところがあるらしく、常に不満を漏らしていた。

週末は友達と飲む予定が多く、なかなか日時が決まらなかったが、今度はこっちまで来てくれることになった。またも泊りで飲み歩くことになった。

高速バスのバス停で彼女が来るのを待った。よく晴れた冬の寒い朝だった。到着までロータリーを暇そうに歩いた。しばらくすると、長い大きめのバスがやって来た。

あのバスに彼女が乗っていると思うと、心が躍った。バスが止まり、彼女が降りてくる。嬉しそうな顔をするかと思いきや、ここでもつんとした表情を見せた。

宿をどこに取ったのか聞くと、僕と同じホテルだった。素直に言えばいいのに、なんとしても先に折れない意地を感じた。先に荷物だけ預け、彼女がインスタで見つけたカフェに向かうことにした。距離があったので、バスで向かった。

映えのする店内に足を踏み入れた。プリンが美味しかった。コーヒーの豆の種類にこだわっているようで、僕は苦みの強い豆、彼女は酸味のある豆だったが、口に合わなかったらしい。

帰りのバスでも、過去仕事の出張で出会った人に告白された話をされた。とにかくモテたいらしい。そして嫉妬させて、愛情を感じるタイプなのかしれないと、うすうす思った。

そのあとはお昼ご飯にパスタを食べ、駅のショッピング街をぶらぶら歩いた。チェックインできる時間になったので、再び宿に向かった。部屋に荷物を置いたあと、夜まで時間があるので、部屋に連れ込んだ。

タカアンドトシの出ている旅番組を見た。たぶん温水洋一も出ていた。それをベッドに腰かけ、並んでぼーっと見た。もちろんなにもない。性欲解消をするためだけなら、自慰行為で足りる。そんなことを彼女には求めていない。嘘だ。ずっとドキドキしていた。

お店の開店時間の間際になったので、彼女は自分の部屋に準備に戻った。ロビーで待ち合わせをし、お店に向かった。夜になるにつれて、寒さも厳しくなっていった。

新潟の美味いものがなんでも揃う居酒屋だった。とりあえずビールと刺身の盛り合わせを頼んだ。またもカウンターで、魚を捌く職人の手際に舌鼓を打つ。いつ見ても飽きない。

彼女は自分の家族の話をし出す。かなり重めだ。色々と複雑なようだ。幼少期の出来事や家庭の環境は、大人になるうえでとても重要なことなのかもしれない。しんみりしたところで、思い出のたれかつを頼んだ。彼女にとって新潟で一番おいしい食べ物らしい。

そのあとは、ビアバーとじとっこ組合を徘徊し、ホテルに向かった。エレベーターでお互いの階に向かった。僕の方が下の階なので、先に降りた。部屋に戻って今日の感謝を伝えたが、エレベーターでの別れ方が不満だったらしい。

もっと僕といたかったのかもしれない。色々と深い話を聞かされたので、好きになりかけていたが、今後の関係をどうするか迷っていた。抱きしめることも、気の利いた言葉もかけなかった。

後付けでもっと一緒にいたかったと伝えたが、彼女はいじけて、その日は返信が返って来なかった。次の日の朝食は食べずに、バス停まで送ることをLineで伝え、寝た。

翌朝、朝ごはんは食べないと言ったが、お腹が空いたので、朝ごはんを食べに一人で向かった。僕にも気分屋のところはある。起きたことをLineで伝え、セルフのバイキングで好きなものを食べた。

約束の時間になった。エレベーターから降りた時に、正面に見えるところに座り、彼女を待った。降りてくる彼女を笑顔で迎えた。時間が経って、顔を合わせるときはいつもつんとしている。

また会えたらいいねと話をしながら、バス停に向かう。バスが来ても、発車するまで、話をしていた。帰ってしまうのが本当に悲しかった。好きだったのかもしれない。

バスに乗り込んだあとのLineで、ホテルのロビーで待っていてくれて嬉しかったと言われた。エレベーターでなにも無かったことで、自信をなくしていたらしい。そんなところも可愛らしかった。

3回目のアポまで、またも週末は忙しいらしく、なかなか会えなかった。その間も頻繁に電話はしていた。自分の時間を自分に使うより、友達に使うことで寂しさを紛らわしているように思えた。それなのに、友達の愚痴は言う。

電話ではビッチエピソードを多々聞かされ、落ち込んだ。心配だったので「ちゃんと検査してよね」と言った。ちょっと言い方が冷たかったかもしれない。


彼女はわざと嫉妬させるようなことを言って、自分への気持ちを確かめるタイプなのだと確信した。

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