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第四十七景 マッチングアプリ大戦記 episode6

「6人目 Nさん アラサー 上野樹里似」

紅葉を見るための待ち合わせ場所に向かう途中、スマホが震えた。「共通のコミュニティの人からいいねが届きました」とポップアップに表示されていた。

アプリを開いてみると、DYGLという日本人バンドのコミュニティだった。日本人離れしたサウンドで、全英語の歌詞を歌っている。めちゃくちゃかっこいいバンドだ。

彼女に一気に興味を持った。草原の上で歩いている姿の写真しか無かったし、横顔しか分からなかったが、このバンドを好きな人は稀有なので、すかさずマッチングした。

家に帰り、メッセージのやり取りを始めた。一日一通のやり取りでもどかしかったが、他におすすめのバンドを聞くと、フェニックスとストロークスを教えてくれた。この人は本物だと思った。

一刻も早く会わなくてはと思い、空けておくつもりだった富山旅行の翌日にねじ込んだ。前日に起こったことを考えると、いれない方が良かったと思った。

旅行の翌日、げっそりしながらランチに臨んだ。かまど炊きのご飯がウリのお店だった。いつも魚沼産コシヒカリを食べているので、お米を食べたいと思うことは少ないのだが、たまたま行きたい店リストに入れてあったのを思い出した。

約束の時間まで近くのファミレスのドリンクバーで粘り、のろのろ歩いて行った。店の前に着くと、ちょうど彼女が車から降りてきて、妙なテンションで先導された。

不思議な人だなあと思い向かいあった。向かい合ってみると、新潟のご当地アイドルのNegiccoのkaedeの盛れた時の顔に似ていた。よく言えば上野樹里だった。

彼女は終始妙なテンションだったので、明るい人なのだと思った。昼ごはんはセブンのコーンパンしか食べないことを教えてくれた。変な人なのだと思った。会計をするとき、全部払おうとしたが、自分の食べた分は払うと言って聞かなかった。頑固な人なのだと思った。

2回目はピザを食べに行き、3回目は映画を見に行った。映画を見に行った時は、アパートまで迎えに行った。普段大きな道路を走り慣れていないことと、隣によく知らない人が乗っていることで緊張して、無理な右折をして死にかけた。

映画を見ていると、隣で鼻をすする音がしてきた。泣いていた。泣いていたことには、あえて触れなかった。映画で泣ける人はいい人だと思った。

4回目はカレーを食べるのを口実にして、ビールを買いに行くのについてきてもらった。彼女はアルコールを飲まない。にもかかわらず、一緒に出掛けてくれたことは嬉しかった。

それで浮かれていた部分はあるかもしれないが、車内の暖房をマックスにし続けて、暑いとキレさせてしまった。饒舌に話していた以前と比べ、口数が少なかった。押しても引いても、手応えがなく、つかみどころがない。

キレさせてしまい、素気なくなったから、しばらく放置していた。そのあと色々あって、忘れることはあったが、映画を見るならこの人とが良いと思いついた。

半年以上経って、おそるおそる誘ったが、オッケーの返事が返ってきた。映画に行く気は満々だったが、直前で面倒になり、コロナを理由に断ってしまった。

会いたいとは思う。でも難攻不落感が漂っていて、調子のよい時でないと太刀打ちできる気がしない。

また頃合いをみて、映画に誘ってみよう。その時は大丈夫かもしれない。

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