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第三十一景 マッチングアプリ大戦記 episode2

「2人目 Yちゃん アラサー カバ似」

初めてのアポに敗北感を味わった翌日、特にすることもなかったので、図書館に本を借りに行った。人生を狂わせる本の特集で紹介されていた、末井昭の「自殺」を借りた。

当時生きる希望がなかったので、強烈に惹かれた。今となっては、中身を伝えられるほどの感想を覚えてはいないが、その時は生きる力になったのだと思う。

その本を借りた後、次のアポで役に立ちそうな喫茶店の下見も兼ねて、オムライスのおいしいお店を訪ねた。デミソースでとてもおいしかったし、レトロな雰囲気のある店内は居心地がよかった。ひとりで来たいと思ったお店だった。

オムライスを食べた後、新井英樹の「ワールドイズマイン」を読みながら、コーヒーを飲んだ。合間にアプリで女性を検索していたら、山登りが趣味の人が目に留まった。

すかさずいいねを送った。その10分後、iPhoneが震えマッチングした。正面、横顔、引きの写真があり、愛嬌があり、可愛らしかった。

初メッセも相手の方からだったので、期待感が高まってしまった。僕は押しに弱く、50パーセントのアリでも、押しが強ければ100パーセントに跳ね上がる。要は単純なのだ。

そのあと、順調にやり取りを重ね、無事に会う日が決まった。有名な温泉街にある発酵が特徴のお店でランチだった。味噌とか、麹が特に好きなわけではなかったが、雰囲気が良かったのでそこにした。僕は雰囲気にも弱い。

当日、僕はいつものように、待ち合わせの2時間前に現地入りした。隣の県だったためそこに行くまでにも2時間はかかっていた。

店の場所を確認し、たまたま店の隣にきれいなカフェがあったので、本を読みながら時間を潰した。カフェはガラス張りだったので外の景色がよく見えた。

約束の時間が近づいてきた。僕は前回のことがあるので、どんな人が来るのか気になって外を眺めていた。そうすると、かなりオシャレな人が店の方へ歩いていった。

僕は普通に一目惚れをした。惚れっぽいところがいけないのも分かっている。あまり待たせるのも悪いので、会計を済ませ、照れながら店に近づいて行った。

ここもカウンター情報を鵜呑みしていたため、カウンターで並んで食べた。僕は鶏肉に甘じょっぱい和風ソースがかかったやつ、彼女はロコモコと勘違いして頼んだガパオライスだった。

ふわふわした彼女の雰囲気と相乗して、僕の好感度は爆上がりだった。違う県に住んでいたので、お互いの県をなぜか紹介し合った。特に面白い話もせず、店を後にした。

9月の初めでものすごく暑かったが、温泉街を小一時間歩き、疲れたら近くの駅で並んで他愛のないことを話した。

次はどこどこいきたいね、みたいな話が彼女からあったので、また今度行こうという話になった。

とりあえずその日は、名残り惜しかったが解散した。

僕は旅行ついでに来ていたので、温泉街でたまごソフトを食べ、外湯めぐりをし、チャーシューが古くなったラーメンを食べ、翌日の山行に備え、早めに眠りについた。

宿の窓の外からは、カランコロンと下駄の鳴る音がしていた。

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