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魔女さん

魔女になりたい12歳

小学校の卒業文集に、私は「魔女になりたい」と堂々と書いていた。恥ずかしいとも思わずに魔女のイラストまで書いて。…いつだったか勢いあまった断捨離で、卒業アルバム類はもう手放してしまったのだけど、他のみんなはどんなことを書いていたのだろう。もう一人、「魔法使いになりたい」と書いているクラスメイトがいたのは覚えている。

魔女っていいな、と思っていた。つい最近、Eテレでもドラマになって放送されていた、ミルドレッドの魔女学校シリーズ(作 ジル・マーフィ)が大好きで、魔女になりたかったのはこの影響だ。

20歳、魔女さんに出会う

腰まで三つ編みで一本に結ばれた髪。
この方にとんがり帽子をかぶせれば完璧に魔女に見える。見かけるたび、魔女みたいな方だと思っていた。その方は図書館にいた。地域にある小さな小さな図書館。館というよりも図書スペースだったのだろう。公共施設ではあるけれど、不思議な場所だった。お茶を飲める場所がちゃんとあって、自習室もちゃんとあって、極めつけが当時にはめずらしい機械化されていない貸し出しシステム。

あの方を魔女さんと呼ぶことにしよう。

大学生だった私は、幼稚園の教育実習中で魔女さんに絵本の相談にのってもらうことになった。「あなた貸してあげるわよ」と魔女さん。大きな手作り紙芝居と効果音を出すための鉄琴を奥の部屋から持ってきてくれた。こんなに親切にしてくれるんですか!とびっくりした。この魔女さんは本当に本が好きなのだろう。本に関心を持ってくれているひとをほっとけないのだ。鉄琴付きの紙芝居は実習先の幼稚園では使わせてもらえなかったけれど、魔女さんのやさしさがありがたくて実習の力に確実になった。私は土日に(なぜか)紙芝居をつくり、それを子どもたちに読んで聞かせた。今、考えるとすごいパワーだ。絵も得意じゃないのに。これは魔女さんから届けられた魔法だったのか。

他のスタッフの顔は思い出せないのに、魔女さんのことはしっかり思い出せる。

30歳、ふたたび魔女さんに出会う

上の子どもが赤ちゃんだった時、私は図書館の読み聞かせに通っていた。ある司書さんが大好きだった。読み聞かせの30分が毎回考えぬかれている。スタンプカードがあって、それがいっぱいになると折り紙で作られたメダルとか花束(折り紙)がもらえる。その司書さんはこう言うのだ。「お母さんもがんばりましたね」と。それがしみてしみて仕方なかった。あの30分を過ごすと、私は元気が出た。これも魔法だったのかもしれない。

ある時気がついた。その司書さんが絵本を読むために、部屋に入ってきた時、はだしの足が見えて。つめの長さに驚いた。とても長い!伸びてるな、というレベルではなかった。それを見て、ちょっと嫌になったとかそんなことはなくて。ないのだけど、魔女さん!と思った。ここにも魔女さんがいた、と。

つまり、

魔女さんは実はあちこちにいるのだと思う。
12歳の私が書いた「魔女になりたい」も、あながち間違ったことを書いてはいない。
それに…あきらめなければ、魔女にだってなれるのかもしれない。