ひなぎく

練習中

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あじさい 3周目

「あと必ずヤクルトの蓋取ってくれたよ。」 私と友人の間には一つだけ間違いがあったので、慌ててマジックテープのように勢いよく剥がれた。 「ヤクルトおいしいよね〜久しぶりに飲みたくなっちゃった。」 「喉に謎のざらざらが残るよね。」 「それはカルピスじゃない?」 「ピルクル?」 「カルピスだよ。」 「カルピスか。」 「そうか。」 薄暗い奥の寝室で、靴下だけを脱いだ。カタカナの「ハ」のような形に寝そべって、たわいのないおしゃべりの続きをした。 「8年付き合って、」 「ほお。ほ

    • あじさい 2周目

      「読んでも、いいですよ。」 そう言うのを聞きながら、マンションの周りをもう一回歩いた。すぐそばにある幼稚園のフェンスに取り付けられた卒園製作のあおむしがとても上手だ。目も口も曲がっているけれど、それがまたいい。 「上手ですよね。」 「そうなの。いつも一人で散歩するんだけど、ここを通るたびにかっこいいなと思いますよ。」 歩く私たちのそばを電動アシスト付き自転車が通り越していく。 坂の多い町だ。 ほとんど段差のない玄関を入ると、明るい色のフローリングに陽が差している。とて

      • あじさい

        「お昼頃に着く予定です。小雨が降っているから、濡れないところで待っていてくださいね。こぬか雨っていうのかな、こういうの。」  黄緑色の画面が目に眩しく映る。こぬか雨。と口の中でつぶやいてみる。小糠とはあの糠のことだろうか。普段は使わない言葉も、好きな友人が語りかけてくる、と思うと身体へ浸透するのがなんとなく早いような気がする。  あの人。この、人。今は小さな画面の中にいて、小さく光っている。大人になってからの友だち。 「了解です。今日は暑くも寒くもなくてとても気持ちがいいで

        • 船の灯りじゃなかった

          #海での時間  誰も読んでないと思うので、中学生の頃の不思議な話を書きます。  友人に見られたら「またその話?」と言われてしまいそうですね。とても小さな思い出です。  閉鎖的な地方都市の、そのまた、さらに外れの海の町で育ちました。  今の子どもたちのようにスクールカーストなどとはっきり明言されることはなかったけれど、明らかにそれは存在していて、息苦しさを感じることがありました。当の私といえば勉強ができるわけでもなく、近所のレンタルショップで毎日映画を借りて観るか、CDをM

        あじさい 3周目

          つよがり

           夜風の匂いをかいでいる。 思い返せば、君と僕はずっと友達だった。  君から連絡が来たのは、7月もあとわずかいう朝の7時ちょうどだった。6月の慌ただしさを越えて、ようやく休みがとれた僕は普段よりも少し遅く起きた。スマートフォンでラジオを聴きながら音の出ない掃除をしていた。朝は得意だった。 「おはよう。いま、いい?なにしてたの?」 「おはよう。劇落ちくんで洗面所擦ってたよ。」 「起きてると思ってた!劇落ちくんいいよね〜!」 「いいんっすよ、これが。まじで気持ちいい。」 「か

          つよがり