分散登校 初日
非常事態宣言が解除されるまで、娘の通う小学校では、地域別に、登校時間を分けた分散登校日が3日、設けられた。1日目は、低学年は保護者と登校、2日目、3日目は、通学班での登下校となっていた。
2年生になって初めての登校日に、昇降口でフリーズしてしまった娘(前記事:春のエネルギー)。今回の登校日はどうするか、私は本人の意思に任せ、見守るスタンスを貫こうと思った。
娘の心、母知らず
前日の夕方、同級生ママさんたちとの間で「明日の持ち物って、これでいいんだっけ?」というメッセージのやり取りをしていた。学校から連絡は来ていたが、それだけでは不安で、確認したいというママさんからの発信だった。
そのやり取りに娘が気づき「明日って、ママと一緒に学校に行ける日?」と聞いてきたので「そうだよ」とだけ答えて、娘に行くつもりがあるのかどうかは、聞かずにいた。
ママさんたちとのやり取りは、持ち物の話から、休校中の子どもの様子に発展し、何時に家を出発するかという話になった。学校に何時までに来てください、と言われているのだから、それに合わせて各家庭のペースで家を出ればいいのであって、何も、何時に家を出るかを相談する必要なんてないじゃないか、というドライな考えで、私はやり取りの様子を見ていた。
あるママさんが、時間を決めて待ち合わせをして一緒に行こう、と提案した。
私は正直、めんどくさいな、と思った。
待ち合わせの時刻に、娘の準備が間に合わなくて、やきもきするのも嫌だし、そもそも、学校に「行ける」ことが前提で話が進んでいるから、うちとは違う。娘の不登校を知っていて、心配してくれている優しいママさんたちだが「大丈夫?行けそう?大変だね」と気を遣われるのも、煩わしかった。うちは、うちのペースで行こうと思っていたのに、困ったなと思い、返事をせずにいた。
娘が画面をのぞいてきて
「ママ、待ち合わせしようって書いてある!私、みんなと一緒に行きたい!わぁ、久しぶりだから楽しみ!」
と言ったのには、本当にびっくりした。娘が望むなら、一緒に行かない手はない。私はすぐに、返信した。
半年ぶりの、母子分離
当日の朝も、娘はそわそわし、早く時間にならないかなと、何回も、何回も、時計を見ていた。
「もー、早く時間にならないかなぁ!待ちきれない!」
と言いながら、家の中をうろうろ歩き回り、落ち着かない。
そして待ち合わせ時刻が来た。
待ち合わせ場所に行くと、そこには、他の学年の大勢の子どもたちがいた。登校時刻が決まっているので、子どもたちが集まるのは当然だが、娘は待ち合わせしたお友達しかいないと思っていたのか、足がすくみ、お友達の近くへ行けなくなってしまった。
お友達と目が合い、手を振られて、娘はゆっくり近づいていった。学校に行っていなかった娘は、学校が臨時休校になる前からお友達に会っておらず、まともに顔を合わせたのは、ほぼ半年ぶり。お互いに恥ずかしいのか、存在を気にしながらも、なかなか話しかけられないようだった。
子ども同士でしゃべりながら歩きたい気持ちがあるのに、何となく、話しかけづらそうに、お互いにちらちら顔を見ながら登校した。
校門をくぐる時「ママはここまでなんだよね。じゃ、行ってくるね」と言い、娘はお友達の後ろについて、私を振り返ることもなく、あっさり、校内に入っていった。門には、教頭先生が子どもたちの出迎えで出られていて、その様子を見て「入りましたねー」と声をかけてくれた。分散登校とはいえ、子どもたちが次々と登校している中に娘が混ざっていけたことが初めてで、私は正直なところ驚いた。
娘は久しぶりの学校で、どう過ごして、何を感じて帰ってくるのだろうか。
「楽しい」初体験
娘を送り、一時帰宅した私は、久しぶりに自宅で一人になった。欲しくてたまらなかった、ひとりの時間。やりたいことがいろいろあったはずなのに、私は、お茶をいれて、ただただ、ぼーっと過ごした。何も考えずに、何もせずに、ただ座り、ぼーっとしていた。リラックスというのとは違い、魂が抜けて空っぽになったような、不思議な感覚だった。
学校滞在時間は、1時間半程度。下校時刻は、あっという間にやってきた。
迎えに行くと、娘はすぐに私を見つけて走ってきた。一緒に登校したお友達も一緒だった。娘は饒舌で、私にというより、お友達のママさんに、学校での出来事をしゃべりまくっていた。
私に一番に話してほしいなと、ちょっと嫉妬してしまったが、いつもべったりな私ではなく、違う人を選び、積極的に話そうとする勢いを止めてはいけない気がしたので、私はその様子を、少し離れて観察しながら帰宅した。
家に入ると、開口一番、娘は
「ママ、学校って、楽しかった。楽しいって思ったの、初めて!」
と言った。
具体的に何が楽しかったのかを聞いてみたが、自宅に着いてすっかり「家モード」に切り替わってしまった娘は、
「えーっと、楽しかったけど、もう忘れちゃった!」
とケロリと言ってのけ、家で楽しむ遊びの準備にいそしんでいた。
何が楽しかったのか、気になるところではある。でも私は、いったん聞くのをやめた。「今、自宅で遊ぶこと」に意識が向いている娘に、既に過去になった学校での出来事を聞いたところで、心ここにあらずの話にしかならないことが、わかっていたからだ。娘が話したい時に、話してくれるのを待つことにした。
大きな一歩
とりあえず、分散登校の初日は、乗り越えた。
乗り越えたという表現は、大げさかもしれない。娘の様子からは、その感覚は微塵も感じられず、むしろ、楽しい時間をワクワクして迎え、過ごした、という、ただそれだけのことのようだ。
ただ、「楽しかった」という言葉を、初めて娘の口から聞けて、私は嬉しかった。一年間ずっと「学校は怖いところだ」と言っていた娘の大きな進歩だと思った。本人、自覚はないだろうが、短い時間ではあったが、自分一人で、学校内で楽しく過ごせたという自信もついたのではないだろうか。
次の分散登校は、通学班での登校。娘は、通学班での登校を嫌がっているが、果たして、どう行動するだろう。私は、通学班で行くことにこだわってはいない。もっと言うならば、学校に登校することにも、こだわっていない。娘がどうしたいかを優先して、見守るつもりでいる。
私たち親子にとって、大きな一歩を踏み出した日になった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?