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根っこの木

時代は原始時代です。
暑いところにだだっぴろい平な土地が広がっています。
ただただひたすら土色の世界が広がっているその向こうにはうっすら山も見えています。
その広さといえば日本でいうと関東平野くらいの大きさでしょうか。

そこに『サライ』という国がありました。
400人くらいの人が住んでいて、主に狩りをして生活していました。
実がなっている草木は数える程度でした。
国旗は四角い青の真ん中に白い丸、日本の国旗と似ていますが、1つ違うのは丸の上の方にUターンマークのような矢印があることです。
どうしてこの形になったのかは誰も知りませんでした。
みんなはその旗をマライヤビューと呼んでいました。
なんでそう呼ぶのかも知りませんでした。
それでもサライの国のシンボルとしてみんなとても気に入っていました。

サライには「リンダ」という女王がおりました。
リンダはここ何年か、ずっと混とんとした日々を送っていました。
理由はわからないのですがいつも頭の中が混乱しているような、心がざわついているような、そんな調子なのです。
「このままではダメだ」
ある日リンダは、この状態をどうにかしたいと宝物を探しに出かけることにしました。

リンダが目指す宝物とは『根っこ』のことです。
「どこかに『根っこ』があるはずだ。」
なんの根っこか、どうして根っこなのかはわからないまま
『ねっこねっこねっこ~』と旅ははじまりました。
どうやらその宝物の『根っこ』は山のふもとにあるということはわかっていました。
リンダは時々キラッと光る点をたどって山へ山へと向かって歩きました。

その途中のことです。
突然リンダの前にオオカミの軍団が現れました。
何頭くらいいるのでしょうか。
先頭のボスが睨みを利かしてこちらに近づいてきます。
『どうしよう?』
リンダは心の中で呟いたその瞬間、
『あっ!』
こともあろうにオオカミのボスと目が合ってしまったのです。
『なんということだ・・・』

ところがところが、どういうわけかその目はとっても懐かしい感じがして、
思わず声をかけてしまったのでした。
「オオカミさん、今日は宴会をしましょう!」
その時、リンダは普段は持ち歩かないものを持っていました。
『梅酒』です。
「オオカミさん、これはね、甘くて美味しいお酒なのよ。」
ボスに差し出すと、すぐさま乗ってきました。
その晩、宴会がはじまりました。
気がつけばリンダとボスは2人でダンスをしていました。
それはそれは楽しい夜でした。

そして次の朝。
まだ多くのオオカミたちが気持ちよさそうに寝ている中、目を覚ましたボスはリンダに声をかけました。
「俺たちの秘密基地に来るかい?」
「行ってみたい。」
リンダは目をキラキラさせながら答えます。

こうしてリンダはボスの後について歩き始めました。
ずっとずっとついて歩いていくと、、、
あれ? いつのまにか周りに木がたくさん。
どうやら秘密基地は森の中にあるようです。
『森の入口ってどこにあったのかなぁ?』
不思議に思いながらも歩き進んでいくと
遠くに小さな小屋が見えました。
小屋に着くとボスは言いました。
「ほら、この穴覗いてごらん。」
リンダはそおっとその穴に近づいて中を覗いてみました。


「あっ!」
リンダが目にしたもの、それは『根っこ』でした。
『あった。』
そう思ったリンダは嬉しくなって思わず口からでちゃいました。
「ボス、この根っこ欲しい! ゆずってください。」
ボスはにっこり笑って言いました。
「いいよ、もっていきな。」


なんて素敵なことでしょう。
リンダは夢見こごちでその根っこをしっかり抱えました。
「ありがとう、ボス!」
こうして根っこをゲットしたリンダは、途中までボスに送ってもらいました。
「また会おうね。」
ボスは手を振ってリンダを見送りました。

ふと気がつけば、歩いている足元は土。
目の前にはだだっ広い平野が広がっています。
リンダはひとり、しっかり根っこを抱えて歩いています。
大地を踏みしめて歩いています。
しばらく歩いていくとサライの入り口が見えてきました。

『着いた』
人に会うのは久しぶりです。
人々は根っこを抱えた女王を見て挨拶します。
「こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
「リンダ女王、これ触ってみてもいいですか?」
「はいどうぞ」
たちまちみんなの表情は明るくなっていきました。
空は高くお日さまもキラキラです。
あの草木もとっても喜んでいるようです。
リンダは思いました。
『よかった、大丈夫。これならいける! これがあれば何度でもやり直せる!』

そして10年後。
あの根っこから赤ちゃんが生まれました。
無邪気に笑う赤ちゃんの表情を見ながら改めてリンダは思いました。
一体どういうことだろう。
あのオオカミとの出会いは私にとってなんだったんだろう。

それから数日後、リンダは久しぶりに旅にでました。
脇に梅酒をしのばせて。 

 


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