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映画「君の名前で僕を読んで」考察

ほんとにいい映画って、当時の空気感とか思想みたいなのが、画面越しにつたわってくるものだと思うんですよ。ディテールがしっかりしているというか、でもその1つ1つの凝りにオーディエンスは気づかなくていいんだと思います。もちろん、それを映画批評の軸としている人(シンボリズム大好き人間)もいますが、、、。で、その空気感を緻密なまでに再現できた映画の1つが「君の名前で僕を読んで」なんです。去年一度見て、今年改めて見ました。2010年あたりから同性愛映画がハリウッドなんかでも主題として扱われることが多くなってきたと思うのですが、この映画は一線を画しています。というか、そのジャンルに入れる必要がない映画とすら感じます。

前置きがながながとなったので、いつも通りザックバランに内容を説明します。時代背景は1980年の北イタリアの夏、主人公の高校生エリオの家に大学院生のオリヴァーがやってくる。エリオの父親が大学教授であるため、生徒だったオリヴァーを家に招待したという設定。北イタリアのブルジョワ階級のエリオとアメリカ人学生のオリヴァーが北イタリアの夏のような暑さで激しく惹かれ合う様を描いた映画になっています。

しっかりとした考察は求められていない映画だと思うので私の好きなポイントを二点あげます。1つは彼らの身につけているファッション、2つ目にドキドキするようなクローズアップショット

まず「ファッション」ですよね。映画におけるファッションって、そこからカルチャーが生まれたり、そのキャラクターを表す要素になっているので結構注視してしまうんですよ。で、この映画のオリヴァーとエリオのファッションは彼らを表すシンボル的な役割となっているんですよ。まずイタリアのブルジョア階級で生まれ育ったエリオは常にラコステのL1212のポロシャツに淡いリーバイスのジーンズ。そしてたまに、デニムオンデニムなのですが、一切無骨な感じがない。CRUELやFUDGEといったファッション雑誌に出てきそうなザ・ヨーロピアン(イギリス人はもっとかっちりしているので除く)。対してオリヴァーも育ちが良さそうなのですが、完全にアイビールックな感じです。服飾的歴史背景を話すと、50〜60年代にアメリカでイギリスのトラッド要素を取りいれたアイビーリーガーたちの間で生まれたアメリカントラッドと言われるスタイルです。ちなみに僕が思うアイビールックは、上はブルックスブラザーズやラルフローレンのオックスフォードシャツにタック入りのトラウザー、足元にはペニーロファーやデッキシューズなどをあしらっているスタイルですね。そして、この映画のオリヴァーがまさにこんな感じ。トップスは常に襟付きのオックスフォードシャツで、きれいめ短パン、足元はコンバース。ザ・アメリカンなんですよ笑 なので服装を見ればどっちがどっちか一目瞭然です。ただ面白いことに、物語の中盤でエリオがオリヴァーへ気持ちが揺らいでいく途中で、彼の服装にも変化がでるんですね〜。それまで一切きなかったオーバーサイズのオックスフォードをエリオが好んで、着るようになるんですよ。あの〜、いるじゃないですか。彼氏に影響されて、服の嗜好変わる系女子。あれです笑 そんなエリオがまた可愛いんですけどね!

次に、「クローズアップショット」です。これがなければ、この映画から抽出される、フェティシズムなシーンやドキドキ感は生まれないと思います。例えば、それは初めて二人の好意が確認できた、あの夜のシーン。エリオの足がはらぺこ芋虫のような動きをして、オリヴァーの足元にゆっくりと近づいたり、ベランダでの二人の手のクローズアップ。あの絶妙などきどき感に関心してしまいました。日本の陳腐化した学園恋愛ものなんか比にならないくらいですよ(高校生の時はそれをみてキュンキュンしてましたが)。さらに、印象的なのはあの完熟したアプリコットのシーンですよね。エリオが家の庭でとれたアプリコットに指を突っ込むだけの画なのになんであんなに、官能的なのか。映像の持つ奥深さに改めて関心してしまいました。

この映画の監督がイタリア人ときいてとても納得しました。やはり80年代のああいったオプティミスティックな雰囲気は、よそ者では映像化できないとおもいましたもん。それと、忘れてならないのがティモシー・シャラメが演じる脆弱的で知的な男の子。最近、かわいい、かっこいいの振り幅が広くなってきており、一元化された理想像ではなく、アイデンティティが醸し出る魅力みたいなのが世界共通で広まってきたのだと感じていたところですが。ティモシー・シャラメはまさにその中のひとりで、いままでのような屈強な男性像(例えば、ハンフリーボガードしかり、高倉健しかり)ではない新しい、かっこよさを確立した俳優だと思います。そして、今後こういったかっこよさ・かわいさの多様性が認められるようになり、さらに生きやすい世の中になっていくのではないか、、。そんなことを考えさせてくれた映画。「君の名前で僕を読んで」どんな題名だよ!と思ったかた、是非見終わったあとにその主題の意味を考えてみてください!!

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