『来たれ!青藍高校マン研部!!』第一話:はじまりの、朝
1. はじまりの、朝
「おはよう、光――。起きてるか?」
今日も襖の外で親父が呼びかける。
俺はそれを、まだ覚めやらぬ、ぼうっとした頭で聞いている――。
外はおそらく快晴。
こんな日は、五月の大型連休前に合う、この上もなく晴れ渡った雲一つない青空と相場が決まっている。
くそったれ。
「今、起きたから――。」
俺は、やはりまだ覚めやらぬ頭で上半身をもたげ、掛け布団を適当に足元で畳む。
勢い、右手で脇のカーテンを開ける。
くしゃくしゃにまとめられたブルーのストライプのカーテンと、乳白色のレースのカーテンが、軽く握られた拳から無造作にほっと離れる。
――やっぱりだ。
空は青。
ただし、予想は外れて、南に面したニ階の窓枠の内には、大小の白い雲がニ、三、散らばっている。
――胸クソわり。
部屋の内、中空には、今しがた立ち昇ったばかりの無数の小さな埃が、差し込む陽光に照らされて黄金色に舞っている。
「母さんが朝食を作って待ってるから。早く降りといで。」
――クソだ。
親父はいつだってどこか他人行儀だ。
当たり前か。
本当の親子じゃねーんだし。
「今、行く。」
養ってもらっている以上、極力、我儘は言わない。
体力をつけ、勉強もこなし、常に中の上を維持はする。
俺は、それが俺の、最低限の義務だと思っている――。
今日も一瞬でその決意を新たにし、俺はすっくと立ち上がる。
布団を畳み直し、折目正しく八畳の部屋の隅に寄せ、階下へ降りると洗面所で顔を洗い、歯を磨き、軽く体操をして体をほぐし、リビングへゆく。
雀が四、五羽、せわしなくちゅんちゅんと鳴いているのが聞こえている。
「おはよう、母さん。」
俺はやわらかな笑顔を、母親に向ける。
「おはよう、光。」
母親はいつものように、やわらかな笑顔を返してくれる。
俺だけのささやかな日常の儀式。
そして、二度と失いたくない、思い出の儀式――。
「あ、オハヨ、光。」
――クソだ。
神聖な儀式が愚鈍な実姉により台無しにされてしまった。
俺は、既に身なりを整え食卓についていた姉に視線を投げる。
「オハヨ、巽。」
「ん、オハヨ。」
姉は毎朝、必ず二度、「オハヨ」と言う。
阿呆の証拠だ。
その証拠にやはりほら、先程からパクついているであろう食パンに塗られたジャムだかマーガリンだかが、左の頬にぺったりと付着している。
俺は面倒なのでいちいち指摘してやったりはしない。
その阿呆面で通学すればいい。
ざまあみろ。
俺はいつも通り、母親がよそってくれた白米と味噌汁をいただく。
父は、俺が箸に手をつけるのを待ってから食べ始める。
母親は一番最後だ。その方が気が楽らしいが、本当のところは分からない。
ともあれ、俺の人生で最もクソな日は、こうして、いつも通りの日々を平静と装い何喰わぬ顔で幕を開けた――。
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