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『来たれ!青藍高校マン研部!!』第五話:俺の、自己紹介

 気まずさもあり、一つ咳をして、俺は自己紹介を始めた。
「では、失礼します。
 俺の名前は、八頭やず 光ひかるです。
 苗字が同じなのでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんし、もしかしたら既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、八頭乙女とは、伯母と甥の関係です。」
 黙って表情を崩さない部長に対し、「へぇ」と声をあげる大門先輩を見ると、伯母は部長にだけ俺との関係を告げていたようだ。
 俺は間を置いて続けた。
「クラスは一年六組。
 十五歳です。
 身長は175cmで、血液型はAB型です。
 この部には、伯母の勧めで入部しようと思っています。
 趣味や好きな言葉は特にありませn。
 よろしくお願いします。」
 一瞬の間――。
「はい、ありがとう!みんな拍手ー!」
「いえーい!」
 部長と大門さんの音頭で、場が湧き立つ。
『趣味や好きな言葉は特にない』のくだりで、スカした奴だと反感を買うかと思われたが、そんな心配は無用のようだった。
 もしくは部長が先回りをしてその空気を払拭してくれたか――。
 どちらにせよ、それは俺にとって、入部の決意を固めるのにプラスにはたらいた。

「じゃあ、今度こそ自己紹介が一通り終わったということで、皆さんお待ちかね、おやつタイムといたします!」
「うえーい!」
 相変わらずの大門先輩は置いておいて、今回は他のメンバーも一番の盛り上がりを見せている。伯母も含めて。
 こういうところは、やはり女性の集団なのだと思わせられる。
 明るくて、甲高くて、軽くて、姦かしましくて、疲れている時には勘弁してくれと思うのに、なんだかんだ癒されているという――。
「ほら、光君も食べて!」
 大門先輩がせっつく。
 照れ笑いを浮かべながら、実験机の中央に豪快に開けられた菓子の山から、俺はチップスをひとつ、つまみあげた。
「若いんだから、ガンガン食べなさい。」
 伯母に至ってはいつも通り、次から次へと菓子を口に放り込みながらそんな事を言っている。
「やはり、お菓子なくしてこの世なし!
 午後のおやつタイムは至福の時間だわ!」
 お菓子でここまでテンションの上がる人も珍しいとは思うが、部長は先程から途切れることなく「午後のおやつタイム」が、いかに素晴らしいかについて雄弁に語っている。
 それを、「そうだねー」と、こちらもポリポリと何やら口に含みながら相槌を打っている副部長に、彼女等全員を見守るでもなく無言で炭酸飲料を口にして眺めているコナ先輩という図。
 この時、口に含んだチップスの味を、俺は生涯、忘れないと思う。
 大袈裟ではなく。


『来たれ!青藍高校マン研部!!』第一話:はじまりの、朝|くさかはる@五十音 (note.com)


『来たれ!青藍高校マン研部!!』第二話:いつもの、ランチ|くさかはる@五十音 (note.com)

『来たれ!青藍高校マン研部!!』第三話:いざ、マン研部へ!|くさかはる@五十音 (note.com)

『来たれ!青藍高校マン研部!!』第四話:自己紹介|くさかはる@五十音 (note.com)

『来たれ!青藍高校マン研部!!』第六話:俺の入部|くさかはる@五十音 (note.com)

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