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『来たれ!青藍高校マン研部!!』第三話:いざ、マン研部へ!

 ここで、青藍せいらん大学附属高等学校のマンガ研究会の成り立ちをおさらいしておこう。
 伯母から聞いた話は、かなりざっくりしていたが、確かこんな感じだった――。
 今年十七歳になる、つまり俺の一個上の先輩にあたる、「タチバナ アスカ」という人が、部員を集めて昨年度の三月に立ち上げたのが、例のマン研だという。
 つまり、まだ部は出来立てほやほやで、誕生から一ヶ月程しか経っていないということだ。
 うちの高校では、部員が最低四人と、それを監督する顧問がいれば新しい部を立ち上げることが出来るので、タチバナ氏はそれをやり遂げたことになる。
 なかなかバイタリティ溢れる人物だ。
 いや、もしかしたら友人達と趣味のようなノリで立ち上げただけかもしれないので、そう判断するのは早計か。
 とにかく、うちの伯母であるところの青藍高校二年国語教師の八頭乙女やずおとめが顧問を引き受ける形で、タチバナ氏達のマンガ研究会は、無事昨年度の三月、発足したというわけだ。
 他の部員について知っていることといえば、伯母から聞いた彼(女)等の苗字くらいだ。ユイショさんに、ダイモンさんに、それからイジュウインさんだ。
 彼(女)達についての、それ以上の情報はゼロ。
 あの伯母のことだから、何かどえらいネタをわざと俺に打ち明けていない可能性は大いにあるが、あの伯母のことだから、こちらが的を絞ってピンポイントで質問するまで決して吐かないだろう。
 クソだ。
 他にマン研についての情報といえば、手にしているこのA4のビラくらいか。
 再生紙の地の色に、でかでかと、アニメ風というのか、少女マンガ風というのか、とにかく目のでかいツインテールの女の子が、こちらにピースサインを向けて、用紙の面積の半分を、かすれた黒で埋めている。
 そのイラストの下、三分の一を横断するように、「来たれ!青藍マン研会!!」という、筆で書かれたような文字が踊っており、更にその下に細かい文字で、部の活動内容やら活動場所、活動時間が記されている。
 活動内容は、「マンガを楽しく研究すること!」とある。
 部の名称が「マンガ研究会」なので、これでは何の説明にもなっていないが、「楽しく」と「!」の部分に、彼(女)等の意気込みが見て取れることは確かだ。
 活動場所は、北・東・西の三つから成る我が青藍高校の校舎のうち、技術系の授業の際にメインで使われる教室ばかりが集まる棟である、北の「技術棟」のニ階、音楽室と図工室に挟まれた「理科室」となっている。
 何故「マンガ研究会」が理科室を利用しているのかは不明だが、もしかしたら出来て間もない部活であるということと関係があるのかもしれない。
 活動時間は「放課後」と、なんともアバウトな説明となっている。

 俺は、ほっと一息ついて、紙面から顔をあげた。
 とりあえず、おさらいはこのくらいにしておく。
 生徒のクラスが割り当てられている東棟から、北棟へと架かる二階の渡り廊下を抜け、今、俺は目的の理科室の引き戸の前に立っている。
 まぁ、言っても毎日、放課後に数時間、時間をつぶすだけのつもりでいるし、十代の高校生の考える事やノリなども知れている。
 ちょっとした暇つぶしと、伯母への義理だと思えば――と、のうのうと構えつつ引き戸に手を伸ばした時だった。
「おっはよーん!」
という、甲かん高い声が響いたかと思うと、勢いよく引き戸が開き、俺の顔は突如、もふもふしたものに包まれた。
 自分でも何が何だか分からないが、とにかく俺の顔に何やらもふもふしたものが――。
 まぁいい。
 俺はこの時、直感的に悟った。
 夕刻にして、今日は今まで生きてきた中で最もクソな日になるだろうということを。


『来たれ!青藍高校マン研部!!』第一話:はじまりの、朝|くさかはる@五十音 (note.com)


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『来たれ!青藍高校マン研部!!』第四話:自己紹介|くさかはる@五十音 (note.com)

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