犯罪捜査・刑事裁判でのAI活用の可能性を探る「Using Artificial Intelligence to Address Criminal Justice Needs」抄訳

内容を3行で

・AIは今後、犯罪捜査のさまざまな分野で活用されるとみられている。
・画像・映像認識は監視カメラを使った人物の特定や出来事・動作の分析に、AIを使ったデータマイニングはDNA分析の精度向上に、テキスト分析は法解釈のサポートや再犯予測に活用できる可能性を秘めている。
・事故や事件の調査や予防に役立つAIは、治安維持に必要なリソース配分を改善し、将来的に刑事司法の分野で不可欠なものになると考えられる。

現代の犯罪捜査や刑事裁判にはテクノロジーやデータの活用が欠かせないもの。

もちろんそこにはAIの活躍の場もできてくるとみられています。

米国国立司法研究所が近い将来の刑事司法分野におけるAIの活用についてまとめた「Using Artificial Intelligence to Address Criminal Justice Needs」の概略の和訳文です。
自分の勉強を兼ねて訳したものなので、誤訳などありましたらご指摘ください。

原文:https://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/252038.pdf
以下、訳文

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「知性ある機械」は長らくSFの題材だったが、今は人工知能(AI)が現実のものとなった時代であり、人々の日常生活に現実的かつ根本的な影響を及ぼしている。電話から車、金融や衣料に至るまで、AIは人々の暮らしを変えつつある。

AIアプリは農業から工業、通信、教育、金融、行政、サービス、製造、製薬、運輸まで、暮らしのあちこちで使われている。治安維持や刑事司法でさえその恩恵を受けている。例えば交通安全システムは交通規則違反の特定と施行を行う。そして犯罪予報によって警察のリソース分配がより効率的になる。加えてAIは、刑事司法の監視下にある人が再犯する可能性を予想することもできる。

NIJの支援のもと、AIを刑事司法に応用する方法を探るための研究が行われている。犯罪や治安維持に関連する動画に映った個人とその行動の特定、DNA分析、銃発射検出、犯罪予報などがその例だ。

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刑事司法と治安維持における応用

治安維持のためのリソースとするべくAIのさまざまな応用法の研究が進められている。そのうち顔認識は、公的セクターでもプライベートセクターでも多く見られる。例えばインテリジェント分析で個人とその所在を突き止める場合、顔画像が手がかりとして使われることが多い。関連があるかもしれない大量の画像や動画を正確にかつ適時検証しようと思えば時間も労力もかかり、疲労などが原因でヒューマンエラーも起こりうる。一方機械は人間と違って疲れることがない。米国情報高等研究活動のヤヌスコンピュータービジョンプロジェクトのような取り組みでは、人間と同じ方法で顔の特徴から個人を識別するアルゴリズムのトライアルが進められている。合衆国運輸省もまた、交通安全の推進を目的として、動画から自動で交通事故を検出するシステムの研究開発やテストを行っている。これを使えば場所、天気、光量、道路状況などが異なるさまざまな状況での安全確保と通勤の効率化につながる。医療分野においてはAIアルゴリズムが放射線画像の読み取りに使われているが、刑事司法や検視官、地域社会にとっては死因を特定するツールにもなりうる。このほかにも法医学者がDNA分析などにAIアルゴリズムを活用している。

このほかAIは、不正検出用の技術としても重要度を高めている。PayPalのようなインターネット企業は不正を防止すべく、継続的に多量のデータを使って不正検出アルゴリズムの訓練を行っている。アルゴリズムは不正なパターンの予測と検出ができるほか、新しいパターンを学習することもできる。

治安維持のための動画・画像分析

刑事司法と法執行機関は動画と画像の分析を通して人や物品、行動についての情報を集め、刑事事件の捜査に役立てている。しかし動画と画像の情報分析はたいへんな労力が必要で、専門技能をもつ人員への多大な投資が必要となる。そして動画と画像の分析は、膨大な量の情報を処理せねばならないこと、スマートフォンやOSといったテクノロジーは変化のペースが早いこと、また情報処理に必要な知識のある専門家が少ないことなどが重なってヒューマンエラーがつきものである。

AI技術はヒューマンエラーを克服し、専門家として能力を発揮しうる可能性を秘めている。人間をサポートするため従来使われてきたアルゴリズムは、目の形、目の色、両目の距離など顔検出に使われる特徴、また人工統計学的情報など、事前に設定された少数のパラメーターしか活用できなかった。AIを使ったアルゴリズムは複雑なタスク処理を学習できるだけでなく、顔検出に使う複雑な特徴やパラメーターを独自にかつ人間の想像を超えた形で設定し、タスクをこなすことができる。こうしたアルゴリズムは顔の比較、武器その他物品の検出、事故や犯罪のような複雑な出来事の検出(進行中のものあるいは事後の検出)を行える可能性を秘めている。

刑事司法や法執行機関のニーズに対応するかたちで、NIJは、スピード、質、データ収集範囲の絞り込み、イメージング、分析の改善、また文脈情報処理能力の向上を目的として複数分野への投資を行ってきた。

例として、AIを使うことでどれほどのスピードアップにつながるかを調べるため、ダラスにあるテキサス大学の研究者はNIJから資金提供を受け、FBIおよび国立標準技術研究所と提携し、AIアルゴリズム顔検出手法と人間の専門家の比較を目的とした評価を実施している。検出時間を30秒に制限した事前調査の結果では、2017年に開発されたAI顔検出アルゴリズムは人間の専門家に匹敵するパフォーマンスを示した。ここから得られる示唆は、AIアルゴリズムは「もう一組の目」となって、人間の専門家による顔検出精度向上やデータの優先順位設定などを通じて生産性向上につながる可能性があることである。

これに加えて、良質の情報の必要性と、低品質の画像をさらに活用する機能の需要に対応する形で、カーネギーメロン大学はNIJからの資金を検出、識別、そして個人特定の精度向上を目的としたAIアルゴリズムの開発を行っている。重要な点は、人の顔をさまざまな角度から写した(特に横顔)画像、そしてカメラに視線を向けていない顔画像や、マスクやヘルメット、街灯や照明で遮られた顔画像についての研究であることだ。このほか、低解像度が低かったり照明が暗かったりして顔を判別しにくい画像から顔画像を再構成する研究も行っている。NIJの試験評価センターは現在、これらのアルゴリズムの試験と評価を行っている。

最後に、ナンバープレート分析(容疑者の特定や捜査の手がかりとなりうる)、また非常に質の低い画像や動画からの人物特定を行うため、ダートマス大学の研究者はAIアルゴリズムを使って高品質の画像の品質を体系的に下げていき、それを低品質の画像と比較することで認識精度を上げる研究を行っている。たとえば、数字や文字の鮮明な画像の品質をゆっくり下げていくと、低品質の画像を再現できる。次に品質を下げた画像を数学的表記として表記・分類し、低品質のナンバープレート画像と照合すれば分析が行える。

このほか、複数の画像に映った対象(人物、場所、物体)の関係性を文章で描写し、文脈を記述する「場面理解」という概念も研究されている。たとえば「ある人が拳銃を抜き、店の窓に発射している」というような文章だ。その目的は、リアルタイムの監視や介入の中で起きている犯罪検知の手がかりになるような対象や行動を検出し、同時に過去に起きた犯罪の捜査に役立たせることである。場面理解を複数の場面について行えば、法執行機関が検証し注意を払うべき重要な出来事が浮き彫りになる可能性もある。セントラルフロリダ大学の研究チームがオーランド警察署と提携し、NIJの資金提供のもとで、動画内に映った人間や車、武器、建物などの物体を無人で検出できるアルゴリズムを開発した。この他、交通事故や暴力犯罪のような出来事を検出するアルゴリズムも開発中だ。

これ以外にAIのもつ重要な側面として、振る舞いの予測が挙げられる。現在進行中の犯罪のイメージングや特定とは対照的に、ヒューストン大学がNIJの資金提供のもと開発しているのは、複数台のカメラから成るネットワークを継続的にモニターし、動作の評価や犯罪が疑われる振る舞いを予測するアルゴリズムである。この研究は服装、骨格、動作、そして進行方向の予測を活用し、追跡対象を複数のカメラと画像の中から特定・発見することにも焦点を当てている。

DNA分析

AIには科学捜査および証拠処理の観点からも恩恵をもたらしうる。法廷でのDNAテストは過去数十年の間にわたって刑事司法システムにかつてない絶大な影響を及ぼしたが、これに関しては特にAIの恩恵が大きい。

血液、唾液、精液、皮膚細胞などの生物学的物質は、犯罪の実行過程で人物や物体への接触によって移動する。DNA技術の進歩にともなってDNA検査の感度も向上し、質が低かったり劣化していたりで従来は証拠として使えなかった証拠の検出や処理が可能になった。たとえば性的暴行や未解決殺人事件のような暴力犯罪の現場から数十年前に採取されたDNA証拠でも、今ならラボで分析にかけられる。感度の向上のおかげで少量のDNAでも検出できるようになり、複数の提供元から得られたDNAの質が低くても検出できるようになった。しかしこれをはじめとする技術進歩によって、科学捜査研究所は新たな難題に直面している。たとえば検出感度の高い方法をなんらかの証拠に対して用いた場合、複数の加害者のDNA、あるいは犯罪にまったく関与していない人のDNAまでが検出される可能性がある。そうなると複数検出されたDNAについてどう解釈するかの問題が浮上し、重要な捜査対象を決定する前にそれぞれの人物を区別して特定する(デコンボリューションという操作)必要が生じる。

AIでこの難問に対処できる可能性がある。DNA分析は大量の複雑なデータを電子的フォーマットで作成するが、そうしたデータにはパターンが含まれており、そのパターンの中には人間による分析で見つからなくとも、システムの検出感度を上げれば有益に使えるものがあるかもしれない。そのような分野を探求しようと、シラクサ大学はオノンダガ群科学捜査センターおよびニューヨーク市監察医務局の法生物学科と提携し、機械学習を使ってデコンボリューションを行うための新しい手法を研究している。NIJのリサーチアワードを使い、シラクサ大学のチームはデータマイニングを使って人間が行う分析とAIアルゴリズムの両方の強みを組み合わせる研究を行ってきた。このハイブリッド手法を使い、研究チームは個別のDNAプロフィールを区別・特定し、単一の手法だけを使った場合につきものの弱みを最大限カバーした。AIの活用については継続的に評価する必要があり、またDNAの持ち主の個人を特定する性能は多くの要因に影響されるが、研究の結果こうした複雑な分析にAIが力を発揮できるポテンシャルがあることが示されている。

銃発射検出

AIアルゴリズムは銃発射分析におけるパターン特徴の発見にも活用できる。NIJから資金提供を受けたCadre Research Labs, LLCは、スマートフォンやスマートデバイスで記録された銃声の音声ファイルを、「録音された銃声の内容や品質は使用された銃や弾薬の種類、現場の構造、そして録音に使われたデバイスによって変わるという観察に基づいて」分析するプロジェクトを推進している。緻密な数学モデルを活用し、Cadreの研究者は銃発射の検出、砲口爆風と衝撃波の識別、発砲間隔と銃器の数の検出、銃器の種類の検出と口径の確率推定などを行う。これらは全て犯罪捜査に役立つ情報だ。

犯罪予報

予測分析は、起こりうる結果を予測し系統立てて説明するために膨大な量のデータを必要とする複雑なものである。刑事司法においてはこれは主に警察、保護観察の実務に携わる人らの仕事であり、そうした人たちは長年かけて必要とされる専門知識を身につけていく。時間のかかる仕事であり、バイアスやミスがつきまとう。

AIを使えば、法や法的手続き、社会的情報、メディアに関わるおびただしい情報を活用し、判決の提案、犯罪企図の特定、そして犯罪企図の被害を受けうる人の予測と特定を行える。NIJが支援するピッツバーグ大学の研究者は、コンピューターを使った法解釈の調査と設計を行っている。これは裁判官、弁護士、検察官、管理職員などの専門家によって実施される法解釈のスピードと品質の向上につながりうる研究である。研究者は、コンピュータープログラムは法解釈を左右するような特定の種類の供述を自動で認識できるという仮説を立てた。研究の目標は、サイバー犯罪についての法解釈を自動でサポートする概念実証用のシステムを開発することである。

このほかAIは、刑事司法に関連するおびただしい記録を分析し、再犯の可能性を予測することもできる。リサーチ・トライアングル・インスティチュートはダーラム警察署およびメリーランド州のアナランデル群保安官事務所と提携し、ノースカロライナ州令状保管庫での使用を想定した令状送達の自動トリアージシステムを開発している。NIJの支援を受けたチームはアルゴリズムを使って34万件を超える令状記録を分析し、決定木を作って生存分析を行うことで、分析対象となる出来事が次に起こるまでのタイムスパンを予測したり、逃亡した犯人が再度犯罪を犯すリスクを予測する(令状が送達されていない場合)。このモデルはバックログがあれば、実務に当たる人々の令状送達のトリアージをサポートすることができる。完成予定のツールは地理を参照することもでき、リスクの高い逃亡犯やその他令状が有効な人の密度を調査し、リソース配分を最適化できるようにも作られている。

さらにAIを使えば、物理的・金銭的虐待を受けている高齢者を発見することにも活用できる。テキサス大学ヒューストン医療科学センターの研究者はNIJからの資金提供を受け、高齢者の犯罪被害者を分析するためにAIアルゴリズムを活用した。このアルゴリズムは被害者、加害者、そして行われているのが金銭的虐待であるかあるいはその他の虐待であるかを見分ける環境的要素を予測することができる。さらにこれは「純粋な」金銭的搾取(金銭的搾取だけが行われており、その他の虐待は行われていない)と「混合型」金銭的搾取(肉体的虐待あるいはネグレクトが同時に行われている)を識別することもできる。研究者の望みは、こうしたデータアルゴリズムをウェブベースのアプリに変換し、実務に携わる人が金銭的搾取の可能性を高い信頼性で評価し、素早い介入ができるようになることである。

最後に、人のつながりや振る舞いをもとに暴力犯罪の被害者となりうる人を予測するためにもAIが使われている。シカゴ警察署とイリノイ工科大学はアルゴリズムを活用し、社会的ネットワークを洗い出してリスクの高い人物を決定するための分析にフォーカスした情報収集と初期のグループ分けを行った。これはNIJが支援している研究であり、シカゴ警察署の暴力抑制ストラテジーにも組み込まれている。

刑事司法におけるAIの今後

刑事司法における新たなAIは日々生まれているかもしれず、刑事司法システムを支え、ひいては公共の治安向上に役立てられる未来の下地ができつつある。

顔認識機能、閉回路カメラあるいは複数のカメラに映った複数の場所からの個人の検出、また物体や行動の検出機能を組み込んだ動画分析システムは、動作とパターン分析を通じて犯罪を予防し、進行中の犯罪を認識し、容疑者特定のサポートができる。カメラ、動画、SNSなどのテクノロジーは膨大な量のデータを生成しているため、これまでなら見過ごされていた犯罪をAIが検出し、犯罪のおそれがある活動を調査することで治安の向上の助けになり、そのことが法執行官や刑事司法システムに対する地域の信頼向上につながっていく。このほかAIには、複雑なDNA混合物の分析などの分野で国の鑑識をサポートできる可能性もある。

データのパターン分析は犯罪や犯罪企図をくじいたり、被害を抑えたり、あるいは告訴したりするためにも活用できる。アルゴリズムは被害者や加害者になりうる人たちが犯罪行為に走ることを防ぐ助けにもなり、刑事司法の専門家にとってはこれまでにない形で市民を保護する手段になる。

AIテクノロジーはこのほか、法執行官が状況や文脈を把握するためのツールにもなりうる。危険が予想される状況で十分な情報に基づいた行動が取れるため、警察官のウェルビーイング改善に役立つ可能性がある。ロボティクスやドローンが関係するテクノロジーもまた治安維持のための監視や公共安全システムへの統合、また警察官や市民に危険が及ばないようにする手段としても使われうる。加えて回収や貴重な情報の収集、またこれまでにない形で刑事司法専門家の能力拡張に使うことができる。

AI、そしてコンピューターの補助を活用した対応や公衆安全動画企図を組み込んだ犯罪予測分析を活用することで、法執行官は事故や脅威防止、段階的介入、リソース分配、そして犯罪行為の調査と分析の能力を上げることができる。AIは調査のサポートや治安向上に役立つため、今後刑事司法の世界に不可欠のものとなりうる可能性がある。

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