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『AI NOW 2019 Report』抄訳 スマートシティにまつわる諸問題について

内容を3行で
・スマートシティをめぐる議論の中で、都市の民営化の課題が浮き彫りになっている
・カナダのトロント市とSidework Labsのプロジェクトでは、企業側が不当に利益を得ているという証拠が出てきた
・スマートシティ関連の官民連携によって、司法当局が個人情報にアクセスしやすくなった例もある

自分の勉強を兼ねて訳したものなので、誤訳などありましたらご指摘ください。

原文:https://ainowinstitute.org/AI_Now_2019_Report.pdf
以下、訳文

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公共空間の民営化にまつわる懸念は今年になり、「スマートシティ」(データ、センサー、アルゴリズムを活用してリソースとサービスの管理を行う自治体)をめぐる議論の中で注目を浴びるようになった。

スマートシティの取り組みのほとんどは官民連携と、テクノロジー企業によって開発・管理されるテクノロジーに依存しており、そのために公共リソースだけでなく、自治体インフラおよび資金の管理権限が企業に移譲される。最近の研究で、IBMやシスコといった大手テクノロジー企業が、テクノロジーを活用した都市の課題解決という物語を広めることで「スマートシティの売り込み」をどの程度行ってきたかが明らかになった。アルファベット子会社のSidewalk Labsもまた、ユートピア的な都市の風景を多く盛り込んだビジョンドキュメントを発行している。こうした企業は莫大な利益を見据えている。ある報告によれば、世界のスマートシティ市場は2025年までに2376億ドル規模に上るという。

アメリカおよび世界のスマートシティプロジェクトによって、営利企業への権力の集中が加速度的に進んでいる一方、自治体とその住人はリソースとプライバシーを奪われつつある。Sidework Labによる「インターネットスタートアップが作った世界初の自治体」を謳うプロジェクトが展開されたカナダのトロント市の例はその中で最もよく知られている。2019年2月の報告書では、Sidewalk Labがプロジェクトに関連する固定資産税と開発費用(30年で300億ドルと推定されている)の一部の受領を望んでいる旨の発表を行ったことがわかっている。この資金は本来トロント市が受け取るはずのものである。そして2019年6月にはSidewalk Labがイノベーション・開発マスタープラン(MIDP)を公表したが、その中には当初同社が開発許諾を得ていた12エーカーをはるかに超える範囲の土地の開発・管理計画が含まれていた。

またスマートシティ計画には透明性と、本当の意味での市民参加が欠けている。Sidewalk Labの市民活動の取り組みは、情報の不明瞭化と「ガスライティング」の過程であると語られてきた。同様に、都市計画ソフトウェア会社のReplica(Sidewalk Labからスピンオフした企業)とオレゴン州ポートランドの地域交通計画局との間の契約では、Replicaのアルゴリズムは一般に公開されないことが取り決められている。シーメンスは6憶ポンドを投じてスマートシティ区画をベルリンに建設しようとしているが、その「研究室を現実にもたらす」取り組みについての公開会議はこれまでほぼ開かれてはいない。

多くの場合こうした官民連携は、政府の監視能力を直接向上させる。シカゴとデトロイトはいずれも、市内のカメラで撮影された動画での顔認識が可能になるソフトウェアを購入している。同様に、中国の多国籍テクノロジー企業であるファーウェイが15憶ドルをかけて立ち上げたアフリカでのスマートシティ建設プロジェクトには、ナイロビでの1800台のカメラ設置、200台の交通監視システム設置、そして「セーフシティ」プログラムの一環として全国警察指揮センターの設置が含まれている。ファーウェイのセーフシティテクノロジーは、アフリカの一部の国で政敵の監視を目的として活用されている。

他の都市では、水面下で確立されているデータ共有体制によって私企業が収集したデータが司法当局に渡されている。近年のサンディエゴでは、道路状況と駐車状況の調査の一環として街灯に数千台のマイクとカメラが設置されているが、そのデータは道路状況の改善にはあまり役立たないことがわかっており、警察はその動画を140を超える事件の捜査に活用していながらそれについての監督も説明も行ってはいない。マイアミ市はIllumination Technologiesとの30年契約を前向きに考えているが、その内容は同社に対してカメラとナンバープレート読み取り装置を内蔵した街灯の設置許可を出し、マイアミ警察署のチェックを経ない形での情報収集を可能にするものである(同社はデータの使用も自由に行える)。公文書開示請求によって公開された文書によれば、カリフォルニアの300の警察署がパランティアを通じて国土安全保障省北カリフォルニア地方情報センターが収集・保管していたデータへアクセスしておきながら、その事実を開示する義務を追わずにいたことが明らかになっている。

スマートシティが推し進める侵食的な民営化に対して、多くの団体が抵抗を始めている。そのうち最も組織的に行われ、関心を集めているのがトロントの事例だ。2月に30人のトロント市民が#BlockSidewalkキャンペーンを開始し、スマートシティプロジェクトを「プライバシーだけでなく、民営化と企業による管理にまつわる問題でもある」と述べた。4月にはカナダ自由人権協会(CCLA)がWaterfront Trontoを提訴。同協会は、Sidewalk Labsにデータガバナンスポリシーの策定権限を付与するにあたって、Waterfront Trontoが法的権限を濫用したと主張している。またSidewalk LabsがMIDPを公開した後で、Waterfront Tronto(Sidewalk Labsのプロジェクトを管理する任を負った政府のタスクフォース)の理事長は公開書簡の中で、MIDPについて「早計である」と批判した。

10月終わりにはWaterfront TrontoがSidewalk Labsと新たな合意に達し、Sidewalk Labsへの土地割当は当初の取り決め通り12エーカーに制限され、政府がプロジェクトの中心的役割を担うことが断言された。プロジェクトが最終的にどうなるかはまだ決まっていない。Waterfront Trontoはプロジェクトについての再検討を重ね、続行するかどうかの最終決定は2020年3月までに下されることとなる。

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