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筋トレと腎臓(パート2)

タンパク質摂取制限の意味
 腎機能が低下した場合、タンパク質の制限が求められます。何故でしょうか?
 
 3大栄養素といえば「糖質」、「脂質」、「タンパク質」です。この中でタンパク質は生命活動を行うエネルギーとしてだけではなく、体の構成要素として大事な栄養素です。そしてバルクアップを目指す場合にも必須栄養素となります。しかし糖質や脂質と異なり、タンパク質は窒素代謝物(タンパク質が代謝されてできる老廃物)を作ります。この老廃物は腎臓から排泄されなければいけません。このためタンパク質を摂取し過ぎると腎臓に負担がかかることになります。
  
 腎機能が低下してくると、老廃物が腎臓から排泄されず体内に蓄積するようになり、腎機能の悪化や尿毒症などを引き起こします。そこで、老廃物の蓄積を少しでも抑え腎機能の悪化を抑制するために、適切にタンパク質の摂取量を制限することが求められます。ただし、体重1kg当たり0.6g以下に制限した場合に関しては、効果があるとする報告がある一方、逆に死亡率が上がるとの報告もあり、定かではありません。特に高齢者では食事摂取量そのものが少なくなっている場合があり、タンパク質制限が栄養障害を起こすことがあります。
 
 一般的に推奨されているタンパク質の摂取量は、体重1kg当たり約1.0gと言われています。一方、腎機能が低下している場合は、タンパク質は体重1kg当たり0.6~0.8gに制限するべきとされています。腎臓障害が進むにつれ、タンパク質の制限は厳しくなりますが、いずれにせよ、タンパク質制限は、年齢や体格、腎機能などを考慮に入れて柔軟に対応する必要があります。
 
 また、タンパク質には体で合成できない9種類の必須アミノ酸があります。制限する場合でも、必須アミノ酸は摂取するように心がけてください。理論上は1日に必要な必須アミノ酸のみ摂取していれば、あとは糖質や脂質で補えばよいことになります。しかし食品から摂取する場合、必須アミノ酸だけを効率よく摂取することは難しく、体重1kg当たり0.6gはギリギリに近い設定と考えられています。この場合、必須アミノ酸のサプリを使用することも良いと思います。サプリを一切使用しない場合は、体重1kg当たり約1gは摂るべきです。あまり制限し過ぎると身体機能へ悪影響を及ぼす恐れがあります(特に高齢者)。
 
注記:タンパク質を制限する場合、カロリーを十分摂取することが大前提です。カロリーが不足すると体は筋肉などのタンパク質を分解してエネルギーとして使用し始めます。エネルギーが不足すると体内のタンパク質がエネルギーとして使われるため、腎臓に有害な“燃えかす”が増えてしまいます。こうなるとタンパク質を制限した意味がなくなってしまいます。この現象を防ぐため、タンパク質を制限する場合は糖質や脂質の割合を増やし、適切なエネルギー量を確保することが重要です。1日のエネルギー必要量の目安は25~35kcal×標準体重(kg)です。
 また、肥満や糖尿病、高脂血症などがあり、カロリー制限、糖質制限、脂質制限などを行う必要がある場合、タンパク質の制限に関しては、明確なガイドラインはありません。つまり何をどの位優先させるかは、その人にとって一番大事なことを優先させるしかありません。
 
 以上の条件を考慮すると、バルクアップと腎臓保護の両立が可能と思われるタンパク質の摂取量は、体重1kg当たり約1gと思われます。腎機能が低下している人(血清クレアチニン値の基準値は男性1.1mg/dl以下、女性0.8mg/dl以下です。これ以上の場合は腎機能に異常あり)は、体重1kg当たり約0.6~0.8gまで落とした方が良いでしょう。

 糖質に関しては1日約50g~150gが良いでしょう。脂質に関しては、一般的に言われている脂質の適正摂取量は、1日の摂取エネルギーの20~25%(30歳未満では20~30%)とされています。例えば、1日2000kcalのエネルギーを摂取する場合、2000kcalの20~25%は400~500kcalとなり、これをグラムに換算すると、1日脂質目標量は約44〜55g(脂質は1gが約9kcal)ということになります。筆者の経験では、糖質は150g以下に抑えて、脂質を1日の摂取エネルギーの30~35%位まで、やや増やした方が良いと思われます。
 
注記:
 腎臓の働きが悪くなるとクレアチニンが腎臓から排泄されづらくなり、血液中のクレアチニン濃度が上昇します。ただし、クレアチニンは筋肉で産生されるため、筋肉量の多い人は筋肉量の少ない人に比べて数値が高くなるという問題があります。すなわち、血液検査で同じクレアチニンの値でも、筋肉質な若い人と筋量の少ない高齢者では、腎機能は全く異なるということです。
 

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